掌編・ノンフィクション 6月学友会『下町・立石の呑み屋は1人・一軒1500円、大満足』
東京・下町の立石にあるモツ煮屋『宇ち田』が、学友会のルーツ。ホームグランドでもある。数ヶ月ぶりに、五人がそこに戻ってきた。夕方5時に、京成立石駅が集合場所だった。
元焼芋屋が一時間もはやく到着していた。「おれが会議で遅れると、みんながツベコベいうからな。仕事よりも、学友会が優先だ、といって」
今回はどうも会議をすっぽ抜かしてきたようだ。立石駅に早く着いた元焼芋屋は、立石商店街など、界隈を一巡してきたという。
「良い街だ。かつて日本のどこで見られた町が、そのまま残っている」
かれはことさら賞賛する。
葛飾・立石の下町は、京成電車の線路をはさんで、左右に広がる。昭和30年代、40年代からの店舗が連なる。その数は半端でない。商店街の買物にはサンダル履きが似合う。独特の雰囲気がある街だと、元焼芋屋が語る。
元教授がそれを受けて、「明治時代から、きちんと躾(しつけ)られた『真の日本人』が少なくなり、絶滅の危機にある。いまや身勝手、独りよがりの人間ばかりだ。しかし、この立石・下町にくれば、本物の日本人に接することができる」と話す。
立石商店街の店主は、昔ながらの客との対面商売を堅持している。客が注文すれば、その場で揚げたて、煮立ての商品を作りだす。居酒屋の女将やおやじたちは、頑固で、ぶっきらぼう。「でも、根が曲がったことが嫌い。江戸っ子気質の日銭を稼ぐ以上の儲けを出そうと思わない。呑み屋に行けば、気骨のある『真の日本人』がまだ沢山いる町だ」と話す。
立石駅前は、下町の生活情感たっぷり
こんな会話の最中にも、現れないのがひとりいた。自宅から駅改札までは4分30秒の最も近距離に住むヤマ屋だ。