TOKYO美人と、東京100ストーリー

婚約者は刑事 ⑤  5回連載(008 数寄屋橋) 

婚約者は刑事 5回連載① 【世田谷・岡本】
婚約者は刑事 5回連載② 【銀座】
婚約者は刑事 5回連載③ 【多摩川】
婚約者は刑事 5回連載④ 【用賀】からのつづき

%E8%8A%B1%E5%AB%81.JPG


 この人物はこの犯行とは関わりない。そう思われる人間から疑ってみる。これが捜査のセオリーのひとつ。井伊佳元(いいよしもと)は肩をならべる布施(ふせ)和香奈(わかな)に、溝口刑事も対象外ではないといった。
「かれは本庁捜査一課の刑事ですよ」
 和香奈の目がつよく否定していた。

 ふたりはフラワーランドからの帰り道、春早い砧(きぬた)公園に入った。向かう先は田園都市線の用賀(ようが)駅。そして、事件現場の銀座の画廊だった。
「警察官がすべて善人だ、とは決まってない。この世には悪い警官もいる」
「溝口さんにかぎって、ゼッタイ猫事件の犯人じゃありません」
「事件の捜査に、絶対はない。お腹が空いたな。安いところでラーメン、張り込んで寿司でもいい」
「消化不良の話はしないでください」
「消化が気になるなら、ジアスターゼーの多い大根、お袋の味の煮物などもいい。環八まで出れば、トラックが多いから、定食屋があるかもしれない」
「わたし、怒っているんです。溝口さんを犯人扱いにするなんて」
 彼女が唇を尖らせた。


 全文(008 数寄屋橋)は写真、またはこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)

 写真モデル・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
 【本文とはいっさい関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。

婚約者は刑事 ④  5回連載(007 用賀) 

婚約者は刑事 5回連載① 【世田谷・岡本】
婚約者は刑事 5回連載② 【銀座】
婚約者は刑事 5回連載③ 【多摩川】からのつづき


井伊佳元(いいかげん)は用賀駅まえから、布施(ふせ)和香奈(わかな)と肩をならべ、砧(きぬた)公園にむかっていた。路面には、万葉和歌が風流な文字で彫られている。3月半ばの木漏(こも)れ日が、それら万葉歌人と戯れていた。
1%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97.JPG

 清流と古(いにしえ)の風情がたっぷりの『用賀いらか道』だった。歴史好きの井伊には心地よかった。時おり、その和歌を口ずさんでいた。
「わたし人質ですよね。溝口さんはきっと、わたしが誘拐されたものだと信じているわ。いい加減さんの言い方には、ドスがありましたもの」
 彼女は多摩川からここまで、それをなんども話題にしていた。

「犯罪史上、こんなにも笑い顔の人質はめずらしいだろうな」
 井伊の視線が路面の和歌から、和香奈にむけられた。
「いまごろ誘拐事件として、警察はたいへんな騒ぎでしょうね。きっと」
「警察にしゃべると、布施和香奈の生命はないぞ。しゃべったら殺す、と脅(おど)しておくべきだったかな。あいては刑事だ、無意味な要求にしろ」
「そう言えばよかったのに。彼って、どう応えたのかしら?」
「決まっているさ」
「どんなふうに?」
 和香奈が首をかしげた。

 全文(007 用賀)は写真、またはこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)


 写真モデル・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
 【本文とはいっさい関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。

婚約者は刑事 ③  5回連載(006 多摩川) 

婚約者は刑事 5回連載① 【世田谷・岡本】
婚約者は刑事 5回連載② 【銀座】からのつづき

11%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97.JPG

 死ぬ。そういっていた布施和香奈(ふせわかな)の電話番号は知らない。動かない電車からでは、彼女に連絡の取りようがなかった。

 井伊佳元(いいよしもと)は横目で、車中やホームの乗客たちをみた。その多くがケイタイで、電車が停まった、遅れる、という内容をしゃべっている。ある意味で、電話連絡が取れること自体がうらやましかった。

 かれは車内放送に耳を立てた。復旧情報はまったく曖昧で、役に立たない、お詫び放送ばかり。
110番も考え、そのシミュレーションもしてみた。布施和香奈が川に飛び込むかもしれない、と訴える。

 警視庁の司令室からは、警察官が多摩川に駆けつけてわかるものはなにかと、彼女の特徴を聞かれるだろう。顔とか、容姿はことばにすれば、漠然としている。どんな服装かと訊かれても、それすらもわからない。多摩川流域のどこらあたりか。

 その場所となると、二子玉川駅付近だろう、というていど。はっきりしない。挙句の果てには、いたずら電話だ、と思われるかもしれない。
 
全文(006 多摩川)は写真、またはこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)


 写真モデル・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
 【本文とはいっさい関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。


婚約者は刑事 ②  5回連載(005 銀座)

① 【004 世田谷・岡本】からのつづき
1%E8%A1%A8%E7%B4%99.JPG

 井伊佳元はタクシーの車窓から、夜明けまえの空を見あげた。池袋のビル群の谷間には星がやや残るが、藤紫色に染まりはじめている。
02%E8%A1%A8%E7%B4%99.JPG

 かれは運転手に、その先のセーフティー前で停めさせた。まだ深夜料金で、5時すこし前だった。

 従業員専用の出入口の横には、警備会社の車が停まっている。
「老いぼれ機械め。月になんど故障したら、気がすむんだ」
 寝入りばなを起された井伊は、わずか3時間の睡眠に苛立っていた。46歳にして、この睡眠は辛い。通用口はすでに開錠されている。かれは納品口横の地下階段を降りはじめた。


「ついてないよな。このところ、たて続けだ」
 4日まえも真夜中に、『火事が発生』と警備会社から、ケイタイ電話に通報が入った。井伊が下町の自宅から急いで池袋店に駆けつけたところ、火災報知機の誤報だった。それらも遡(さかのぼ)って腹が立っていた。


全文(005 銀座)は写真、またはこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)


 写真モデル・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
 【本文とはいっさい関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。


婚約者は刑事 ①  5回連載(004 世田谷・岡本)

 井伊佳元(いい よしもと)が豪邸の表札を見ていた。門柱の上には、春の陽ざしをあびる三毛猫が横たわる。こちらをバカにしたように、大きな欠伸(あくび)をした。

 かれは腹立たしくなった。怒りはその猫ばかりでなく、布施(ふせ)和香奈(わかな)にもむけられていた。井伊はもう2時間も、彼女の住まいを探しつづけているのだ。

 世田谷・岡本一丁目は豪邸がつづく、高級住宅地だった。まわりの庭木からは、多種の野鳥のさえずりが聞こえてくる。ひときわ閑静なところだ。
 高級マンションのほとんどが、オートロック式の玄関で、一歩もなかに入れない。外部からだと、住人の名まえすらも確認できない。布施和香奈の住まいを探しあぐねる井伊は、だんだん腹立つ自分を知った。

全文(004 世田谷・岡本)はこちらを左クリック。(印刷による読書がお勧め)


写真協力・モデル:写真協力・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
【本文とは、まったく関係ありません】

 発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンク厳禁。

新妻の悩み ③後編 連載・完了(003 隅田川)  

【 001 台場】
【002 浅草】
【003 隅田川】前編からのつづき

「複雑なことはシンプルに考える、これがセオリーだ。問題を絞り込めば、黒船来航の一点につきる。母親の黒船を東京湾に入れないで、静岡沖に押しとどめることだ」
「実家は静岡といっても、富士山ろくの方です」
「海辺でなく、山側か。それがポイントになりそうだな」
 観光船が隅田川の河口までやってきた。目のまえの岸壁は、都民の台所、築地魚市場だった。運搬漁船が二隻ほど接岸している。明朝には仲買人がセリする、遠洋の魚が水揚げされているさなかだろう。
「会社では、いまどんな企画に取組んでいる?」
「年末から手がけているのが、クライアントは大手菓子メーカーで、動物園とタイアップした、桜シーズンの企画です」
 その企画内容は、園児30人を動物園に招き、子ヤギとか、ウサギとか、ロバとかと母子でいっしょに遊ぶ。菓子5個についた応募券による、抽選だという。TV局がかむように、いま交渉中しているさなかだと説明した。
「ここは動物園ストーリーで、いくとするか。まず母親には、大手広告代理店に勤務する、息子の俊男がいま動物園の宣伝広告を受け持つ、と知らしめる」

全文(003 隅田川)後編はこちらを左クリック。(印刷による読書がお勧め)

 写真モデル・福本恵子さん(国際イメージコンサルタント)
 【本文とは関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。

新妻の悩み ③前編 連載(003 隅田川)

【 001 台場】
【002 浅草】からのつづき

 ジャンパー姿の井伊佳元は、店内の柱時計をみた。もう11時を回ってきた。かれはラフなスタイルで休日出勤し、早朝からバレンタインのディスプレーをしていた。
 きょうの午後2時には、真鍋(まなべ)美紀(みき)と逢う。『東京クルーズ』浅草発着場から出航する『隅田川ライン』の観光船に乗る、と約束事ができていた。

 かれはさっきから、妙な胸さわぎをおぼえるのだ。このモヤモヤはなんのか。またしても、遅刻し、観光船の出航時間に遅れてしまうのか。そんな予感なのか。
(あと30分以内、昼まえにはかならず店を出るぞ。どんなことがあっても、2時出航には遅れられない)
 井伊は自分に言い聞かせていた。

 かれの脳裏には、胸さわぎの原因のひとつとして、鬼頭統括部長の顔が浮かんだ。12月の店長会議は欠席した。鬼頭はそれについて一言もふれてこないのだ。もう1ヵ月半が経つ。これにはなにかある。裏がありそうだ、おかしいと、井伊はどこか心に引っかかるものがあった。

全文(003 隅田川)【前編】はこちらを左クリック。(印刷による読書がお勧め)


【後編】はこちら

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。

新妻の悩み ② 3回連載(002 浅草) 

【 001 台場】からのつづき

 井伊佳元は勢いよく地下鉄・浅草駅の自動改札を駆けぬけた。そのつもりだったが、寸前、バターンと無常にも塞がった。PASMOのチャージ不足だった。精算所は長い列で、外国人、年配女性などがモタモタしている。

(これでは、今回も20分以上は遅れるな。時間には、いい加減さんね、と真鍋(まなべ)美紀(みき)から侮られそうだ)

 彼女が指定した待合わせ場所は、なんと浅草寺(せんそうじ)の『雷門』だった。
 井伊の意識のなかには、上野の西郷隆盛像とともに、雷門は東京に不案内な「おのぼりさん」どうし、田舎者どうしが落合う場所だという先入観が会った。そのうえ、都内でも随一といえるほど神社仏閣、古寺名刹が多い。真鍋美紀のハイセンスからすれば、不似合い、不釣合いの場所に思えた。


全文(002 浅草)はこちらを左クリック。(印刷による読書がお勧め)


    写真協力・モデルは福本恵子さん(国際イメージコンサルタント)
    【本文とは、まったく関係ありません】

    発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。


【新妻の悩み】③の前編はこちらから

新妻の悩み ① 3回連載(001 台場) 

 井伊佳元が急ぎ足で、東京湾の品川沖に浮かぶ、お台場にむかっていた。約束時間は昼の12時ちょうどだった。かれはすでに15分も遅れていた。面識のない、真鍋(まなべ)美紀(みき)から、遅れないでくださいね、とかれは念を押されているのだ。

(遅れたことで、なん癖(くせ)をつけられ、厄介なもめ事になるかもしれない)
 井伊は会うまえから、身構える自分を知った。

 お台場は幕末につくられた洋式砲台(品海砲台)だった。第三台場は海面から突きだす石垣で囲まれている。一片が160メートルの正方形の要塞(ようさい)。いまでは台場公園になっている。そこまでは松林がつづく、弓なりの長い人工の砂州で結ばれている。
            
全文(001 台場)はこちらを左クリック。(印刷による読書がお勧め)

    写真協力・モデル:福本恵子さん(国際イメージコンサルタント)
     【本文とは、まったく関係ありません】

    発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンク厳禁。