TOKYO美人と、東京100ストーリー

心は翼  連載⑥ 最終回 (015 飯田橋)

【前回までの作品】

心は翼①  090新宿

心は翼②  010明治神宮

心は翼③  011六義園

心は翼④  012千鳥が淵

心は翼⑤  013旧古河庭園

心は翼⑥  014後楽園


【今回の作品: 015飯田橋】

 井伊佳元(いいよしもと)は小学生の文集をみていた。従業員が閲覧(えつらん)できるように、いつも休憩室におかれていた。
 写真は生徒たちが寿司ロボットをのぞき込む姿を捉(とら)えていた。それは久能幸子教師が撮影したもので、子どもたちの嬉々(きき)とした表情だった。

 井伊のPHSが鳴った。鴫野(しぎの)佐和子からで、いま成田空港に着いたという連絡だった。インドでは母親に会えたという。
「こんな親っているのでしょうか。21年まえのことはもう忘れなさい、と冷たく突き放されてしまいました。わたしのトラウマを理解してくれる態度など、一切ありませんでした」
 佐和子の胸のなかには、淋(さび)しい風が吹いているようだ。

「明日にでも会って、くわしく聞きたい」
「いい加減さんに、話すことは何一つないんです。まるで木で鼻をくくったように、もうインドに来ないで、ヨガの修行(しゅぎょう)のじゃまよ、と追い払われました。父方の祖父母が、幼い私を奪(うば)い取って育てたから、もう母子じゃない、そんな態度でした」


 全文はこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)

 写真モデル  森川詩子さん
 詩集『受容 』 小林陽子さん(詩人)

 【本文とはいっさい関係ありません】

発行・著作権:穂高健一。無断転載およびリンクは厳禁。

心は翼  連載⑥  (014 後楽園)

【前回までの作品】
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心は翼①  090新宿

心は翼②  010明治神宮

心は翼③  011六義園

心は翼④  012千鳥が淵

心は翼⑤  013旧古河庭園


【今回の作品:】
心は翼⑥  014後楽園


 井伊佳元は、旧古河庭園で鴫野(しぎの)佐和子(さわこ)と別れてから、八ヶ岳にとんぼ返りだった。かれの車は首都高に入り、中央高速道の須玉(すたま)で降りると、国道141号線に面したコンビニに立ち寄った。

 井伊は手際よく、おにぎりや乾(かわ)き物を調達してから、急ぎ松原湖の方角にむかった。
 できれば日没まえに、松沢ロッジ(標高2240m)に入りたい。

「いまはまだ、この場所だ。かなり強行軍だ」
赤岳(あかだけ)の雪の山容が右手に迫ってくる。清里(きよさと)の手前ではJR小海線と交差し、そのさき野辺山(のべやま)の最高地点を過ぎた。

 突っ走るかれは、稲子(いなご)登山口(標高1240m)から本沢ロッジまで、読みにくい積雪期(せきせつき)の所要時間を推(お)し量(はか)っていた。

 だれかが登ったトレース(雪道)が残っていれば、登攀(とうはん)のスピードは上げられる。踏(ふ)み跡がまったくない深雪(しんせつ)となると、松沢ロッジには真夜中か、明朝の到着になるだろう。

全文は心は翼⑥  014後楽園こちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)


 写真モデル  森川詩子さん
 詩集『受容 』 小林陽子さん(詩人)

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心は翼  連載⑤  (013  旧古河庭園)

【前回までの作品】
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心は翼①  090新宿

心は翼②  010明治神宮

心は翼③  011六義園

心は翼④  012千鳥が淵


【今回の作品:心は翼⑤  013旧古河庭園

 夕日が沈んだ都内に入った。桜が咲いた石神井川に沿っていく。そのさきにある大学のグランドでは、学生たちがランニングする光景があった

 井伊はその管理棟の窓口で、フィールドで、ストップウォッチを持つコーチが芝浦達也だと、おそわった。長身の達也はスポーツ刈りで、角ばった顔だった。400メートルを一周してくる学生たちのタイムを計っていた。
「こういうものだが」
 井伊は、名まえだけの名刺を差し向けた。
「どんな用件でしょ?」
「鴫野佐和子さんについて、お話がしたい。すこし時間をもらえないかな」
「いま、タイムトライアルをやっていますので」
 それは口実で、彼女の話題を嫌った態度に思えた。
「それなら、用件は切りつめよう。彼女の電話番号か、メールアドレスか、いずれかをおしえてもらいたい」
「どういう関係ですか?」
 達也の顔には怪訝な表情がうかんだ。


全文(013 旧古川庭園)はこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)

 写真モデル  森川詩子さん
 詩集『受容 』 小林陽子さん(詩人)
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心は翼  連載④  (012 千鳥が淵) 

【前回までの作品】
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心は翼①  090新宿

心は翼②  010明治神宮

心は翼③  011六義園


 3月下旬の月曜日だった。首都高からみた、公園や堤の桜は満開だった。とくに『千鳥(ちどり)が淵(ふち)』の周辺の桜は見事に咲いていた。甲府盆地までくると、白雪を被った八ヶ岳連峰が視界に入ってきた。


 井伊佳元の車が、ピラタス蓼科ロープウェイの880台が収容できる、大きな無料駐車場に着いた。
防寒着を着込んだ井伊は、小さなアタックザックとピッケルだけを持った。冬山の重装備(じゅうそうび)はひとまず後部座席に置いたまま、ロープウェイのチケット売場にむかった。

 待合所にはスノーボーダーの若者、中高年のスキーヤー、登山者、アジア系の観光客などがグループを作り、始発9時の出札を待つ光景があった。
 かれはそのなかに加わった。そして、乗り込んだ。発車ベルが鳴った。全身がしずかに持ち上がる。山頂駅(標高2240m)にむかっていくほどに、幻想的な樹氷(じゅひょう)と霧氷(むひょう)の世界が広がってきた。


全文(012 千鳥が淵)はこちら左クリック。 (印刷による読書がお勧め)


  写真モデル  森川詩子さん
  詩集『受容 』 小林陽子さん(詩人)

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心は翼  連載③  (011 六義園) 

【前回までの作品】

心は翼①  090新宿

心は翼②  010明治神宮


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 古樹の桜の枝では、メジロが花弁の蜜(みつ)を吸っている。1……3……5羽と、鴫(しぎ)野(の)佐和子(さわこ)が数えながら指す。井伊佳元は目のかわいいメジロを一瞥(いちべつ)してから、佐和子の横顔をみた。うす紅色の桜が似合う、すてきな女性だと思った。

 六義園(りくぎえん)の彼女は入院ちゅうの暗さと違い、明るさが感じられた。明治神宮の本殿に参拝(さんぱい)したときよりも、さらに明るい。しかし、心の悪魔にいまだに苦しめられている姿には変わりがなかった。
「この際はできるだけ早く、20年前の犯行現場となった八ヶ岳周辺に出向いてみよう。山岳(やま)に雪があるうちに」
 井伊には、裏稼業人に徹(てっ)するぞ、というつよい意志があった。
「お仕事が忙しいんでしょ、大丈夫ですか」
 彼女はこちらを気づかう、やさしい口調だった。

「スーパーの店長ほど、ヒマな職業はない」
「えっ、ほんとうですか?」
 彼女の目には信じられない光があった。
「部門ごとに、一挙手一投足の細かなマニュアルがある。店長が手を出さず、部下任せで口も出さなければ、各部門のチーフが勝手に動いてくれる。そういう仕組みができている。それに逆らって、店長が部門に首を突っ込めば、底なし沼のようにはまり込み、しごとに追われる。そして、終わりがなくなる」
「むずかしそうな、おしごとですものね」


全文(011 六義園)はこちらを左クリック(印刷による読書がお勧め)


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心は翼  連載②  (010 明治神宮) 

心は翼 連載① (009 新宿)からの続き

全文(010 明治神宮)は写真、またはこちら左クリック。%E2%91%A0%E6%98%8E%E6%B2%BB%E7%A5%9E%E5%AE%AE%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97.JPG(印刷による読書がお勧め)

 

 打ち合せ通り、朝11時ちょうどだった。池袋中央小学校の3年生たち54人がセーフティーの納品所にやってきた。引率教師がそれら生徒たちを3列に整列させている。社会科見学をまえにした生徒たちは興奮ぎみで、おしゃべりを止めない。

 3人の教師がくり返し注意をする。小太りの与謝野副校長がまえに進みでて、一言叱ると、生徒たちはとたんに静かになった。

 井伊佳元は全員のまえで、自分を含めた、案内役3人の管理職を紹介した。
「ふだん買物では見られない、裏方の作業場を中心にみてもらいます。見学コースには危険な場所がたくさんあります。機械類には手を触れないように」
 パンや肉を切る、スライサーは日本刀のように鋭く回転する。ちょっとでもさわると指が落ちる、と生徒たちの顔をみながら注意をうながした。

 かれの脳裏には2週間まえに起きた、従業員の不注意による、鴫野(しぎの)佐和子の転倒事故が横切った。骨折した彼女はいまなお入院ちゅうだ。こうした売場の事故もあるが、後方作業場のほうがはるかに危険度が高い。

 写真モデル  森川詩子さん
 詩集『受容 』 小林陽子さん(詩人)
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心は翼  連載①  (009 新宿) 

 見舞いの果物カゴをもった井伊佳元(いいよしもと)が病室をノックした。2度目も、やはり反応がない。26歳の鴫野(しぎの)佐和子は、返事ができないほど、容態が悪いのか。原因はすべてセーフティーにある。本人や身内からの批判や反発は必至だ。
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 井伊には、歓迎されない面会人だという、つよい緊張があった。3度目のノックも、応答がない。病室のまえで、井伊はしばらく間を開けてみた。

 事故はきょうの昼過ぎ、社員の不注意で起きた。井伊はクレームの処理で外出ちゅうだった。帰店後に、従業員から事故発生の状況を聞いた。その段階から、井伊の心には言いようのない不安が広がってきた。

 事故を起したのは40歳にして、独り身の食品チーフだ。ふだんから雑な仕事が目立つ。そのチーフは手押し台車に、果汁パックが6本入ったケースを高く積みあげ、店内の陳列(ちんれつ)ケースに運んでいたという。

 被害者の女性客は20歳半ばだった。松葉杖(まつばづえ)をつかう彼女は、バラのような清楚な雰囲気だったらしい。
 彼女はサービスカウンター横に掲げられた、『店長写真』をじっと見あげていた。つまり、佇(たたず)んでいたのだ。

 食品チーフの前方不注意から、台車が彼女に突き当った。と同時に、彼女の身体は半回転し、松葉杖は吹き飛び、床に転倒した。果汁パック入りのケースが、傾いた台車から崩(くず)れ落ちた。オレンジやグレープなどパックが破れ、ジュースが飛び散った。

 彼女は右足を押さえ、はげしい痛みなのか、顔をゆがめていた。


全文(009 新宿)は、こちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)


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写真小説の第3作目・「心は翼」は、8月1日より、掲載

 第3作目の『心は翼』は、ジャンルとしては、ファンタジーにミステリーを組み込んだものである。

 マドンナは詩人で、26歳、大使の娘である。彼女は6歳の時に、スキー場で誘拐事件に巻き込まれた。2週間後、雪峰の八ヶ岳を越えた、反対側の山小屋で発見された。

 この奇怪な事件が、マドンナにはトラウマとなっている。誘拐犯がいまや彼女の心のなかで、悪魔に育ち、呪縛しているのだ。物語はこの背景から動きだす。
 主人公・井伊佳元が苦しむマドンナに、どこまで手助けできるのか。20年前の誘拐犯までたどり着けるのか。これがメイン・ストーリーである。

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婚約者は刑事 ⑤  5回連載(008 数寄屋橋) 

婚約者は刑事 5回連載① 【世田谷・岡本】
婚約者は刑事 5回連載② 【銀座】
婚約者は刑事 5回連載③ 【多摩川】
婚約者は刑事 5回連載④ 【用賀】からのつづき

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 この人物はこの犯行とは関わりない。そう思われる人間から疑ってみる。これが捜査のセオリーのひとつ。井伊佳元(いいよしもと)は肩をならべる布施(ふせ)和香奈(わかな)に、溝口刑事も対象外ではないといった。
「かれは本庁捜査一課の刑事ですよ」
 和香奈の目がつよく否定していた。

 ふたりはフラワーランドからの帰り道、春早い砧(きぬた)公園に入った。向かう先は田園都市線の用賀(ようが)駅。そして、事件現場の銀座の画廊だった。
「警察官がすべて善人だ、とは決まってない。この世には悪い警官もいる」
「溝口さんにかぎって、ゼッタイ猫事件の犯人じゃありません」
「事件の捜査に、絶対はない。お腹が空いたな。安いところでラーメン、張り込んで寿司でもいい」
「消化不良の話はしないでください」
「消化が気になるなら、ジアスターゼーの多い大根、お袋の味の煮物などもいい。環八まで出れば、トラックが多いから、定食屋があるかもしれない」
「わたし、怒っているんです。溝口さんを犯人扱いにするなんて」
 彼女が唇を尖らせた。


 全文(008 数寄屋橋)は写真、またはこちら左クリック。(印刷による読書がお勧め)

 写真モデル・奈良美和さん(コーチ/コミュニケーションアドバイザー)
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婚約者は刑事 ④  5回連載(007 用賀) 

婚約者は刑事 5回連載① 【世田谷・岡本】
婚約者は刑事 5回連載② 【銀座】
婚約者は刑事 5回連載③ 【多摩川】からのつづき


井伊佳元(いいかげん)は用賀駅まえから、布施(ふせ)和香奈(わかな)と肩をならべ、砧(きぬた)公園にむかっていた。路面には、万葉和歌が風流な文字で彫られている。3月半ばの木漏(こも)れ日が、それら万葉歌人と戯れていた。
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 清流と古(いにしえ)の風情がたっぷりの『用賀いらか道』だった。歴史好きの井伊には心地よかった。時おり、その和歌を口ずさんでいた。
「わたし人質ですよね。溝口さんはきっと、わたしが誘拐されたものだと信じているわ。いい加減さんの言い方には、ドスがありましたもの」
 彼女は多摩川からここまで、それをなんども話題にしていた。

「犯罪史上、こんなにも笑い顔の人質はめずらしいだろうな」
 井伊の視線が路面の和歌から、和香奈にむけられた。
「いまごろ誘拐事件として、警察はたいへんな騒ぎでしょうね。きっと」
「警察にしゃべると、布施和香奈の生命はないぞ。しゃべったら殺す、と脅(おど)しておくべきだったかな。あいては刑事だ、無意味な要求にしろ」
「そう言えばよかったのに。彼って、どう応えたのかしら?」
「決まっているさ」
「どんなふうに?」
 和香奈が首をかしげた。

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