小説家

第15回 『元気100エッセイ教室』作品紹介・

 教室の冒頭30分間は、テクニカルなレクチャーをおこなっている。今月は散文にとって最も大切な『視点の統一』について。エッセイはほとんどが一人称だから、「私」の視線と目線の統一は不可欠だ。当然ながら、他人の心に入りたい場合がある。そのときは推量、推測、印象、確信で書くことだ、と強調した。


 視点が狂うと、作品は大きな瑕疵(かし)になってしまう。
 書きなれた人でも、ときにはこのミスを犯すことがある。それだけにふだんの執筆から『視点の統一』を頭の中心にしっかりとどめておく必要がある。

 今回の提出作品は13作品。教室に不参加者の批評、コメントは行わないというルールがある。それに準じて、欠席を除いた12作品を紹介する。

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日米翻訳家のStacy Smithさんが、ニューヨーク・マラソンで快走

 日本ペンクラブが主催する『世界PENフォーラム・災害と文化』が来年2月22日から4日間行われる。Stacy Smithさんは、小説の朗読を英文に翻訳する。来日した彼女は、10月からその準備にとりかかっている。
 
 彼女は市民ランナーだ。週末には皇居(一周約5キロ)を走っていた。10月の段階ではNYマラソンが近づいてきたが、
『出久根達郎さんの小説は、掛詞が非常に多く、英訳するのがかなり難しい』といい、そちらに時間が取られていた。やや練習不足か。

 Stacy Smithさんは、11月1日にNY(ニューヨーク)に帰っていった。現地からメールをもらった。『時差ぼけと戦い中です。日曜日までに治るでしょうか? でも、週末の天気が良さそう。マラソン大会が楽しみです』と記す。そのうえで、自分をリラックスさせるためだろう、「時間にあまり気にせず楽しめばいいと思います」とつけ加えていた。

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東京下町の情緒100景は、いまや88景に

 東京の下町は素朴だ。大都会の田舎だといってもいい。地方の方がみれば、東京にもこんな泥臭いところがいまだにあるの、と不思議に思うだろう。

 いまや地方のほうが新築住宅が多く、農家などは豪華なつくりだ。
 東京下町は、終戦直後とはいわないが、昭和40年代の建物が現役で頑張っている。他方で、雑然とした町で、美観は薄い。そのなかにも光を当てたいとシャッターを切ってきた。

 東京下町で、最も素朴な葛飾区を中心に写真撮りをしてきた。それにエッセイ風の文章を添えた。視点が同一だと、読み手には単調になるので、いろいろな目を通して描いた。子ども、保育士、商店主、お客、母親、父親、老人など。他方で、読みやすさを心した。


(掲載写真は葛飾区。京成電車・四つ木駅舎、駅前、頭上は高速道路の橋裏。およそスマートさなどない、雑然とした町だ)

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ペンの呑み会・作家は安酒が大好き、1人2千円だった。

日本ペンクラブ主催・「世界P.E.N.フォーラム」の第4回目委員会が10月10日におこなわれた。終了後は大半のメンバーが恒例で、居酒屋に飲みにいく。
  奥の左から出久根達郎さん、吉岡忍さん、穂高健一、手前の横顔が山崎隆芳さん

               

 ビールが入って、舌が軽くなったところで、広報委員の穂高は日本ペンクラブ・メルマガ記事向けに、吉岡忍委員長からは外国人の招聘者について、出久根達郎さんには「安政大変」について取材した。終わると、割り勘負けしないように「さあ、のむぞ」とビールを手にした。
           

 

    スティシー・スミスさん(日米翻訳者)とマラソンと登山の話をする。
    奥の左から高橋千劔破さん、相沢予剛さん。

第14回『元気100エッセイ教室』作品紹介

 9月の教室では、「文章のうまいエッセイ」よりも、「味のある作品」を書こう、と強調した。「文章のうまい作品」とは全体に、そつなく、まとまっている。誤字、脱字もなく、文脈の乱れがない。文章を書きなれている。これらは意見を述べる作文、論文、事実を伝える記事などでは評価は高い。


 エッセイは「味のある作品」が求められる。全体の文章がごつごつしていても、多少の文脈の乱れがあっても、文体が未完成でも、『光るところ』が必要だ。

「人間って、そういうところがあるよな」と共感と共鳴を覚えたり、「そんなことがあったの」と驚きとショックを感じたりする作品だ。散文となるエッセイ、小説では光るところがあれば、高い評価が得られる。

 今月の提出作品は、素材は日常的でも、テーマを絞り込んだ、求心力の強いものが多くなった。他方で、受講者の素材の豊富さにはいつもながら感心させられた。世間ではあまり知られていない材料にも出会えた。

 作品紹介は原文を尊重しながら、「光るところ」、心にとどまるところを抽出してみた。

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ノンフィクション・9月学友会 北千住に・1人現れず

 学友5人は毎回、各人のテリトリーである飲み屋、居酒屋などを紹介し、渡り歩いている。人間同士でも、飲み屋でも、初めての場所でも、新たな出会いや新発見は楽しいものだ。

 暖簾(のれん)を潜った飲み屋が安価で美味しい。この学友会のテーマの追求に合致したならば、至上の幸せを感じるものだ。一ヶ所で飲む、という価値観も悪くないが、新発見を得るにはほど遠い。驚きとの出会いは、足で各地を動き回るほどに得られるものだ。ある意味で、酒飲みの口実かもしれないけれど。


 今回は、元教授が約30年前から贔屓にする、東京・北千住の焼き鳥屋の『五味鳥』だった。マスコミの取材はいっさい応じず、その道の「ツウ」が好む店らしい。

 元教授の場合は、飲み屋情報が狂うことはない。前評判に失望されられたことは一度もない。それだけに、今回は期待が高まった。「取材拒否の店」。それだけでも、胸が高鳴り、気持ちがワクワクする。


 ヤマ屋がまたしても大チョンボをやらかした。
『9月27日。この日は元銀行屋がだいじょうぶだから、夕方五時、北千住の丸井・正面玄関に集合』という案内をCCで送った。
 当日の同時間になっても、元銀行屋がただ一人現れなかった。
『五味鳥』は超人気店だから、もたもたすれば座る席がない。5人掛けのテーブルは一席しかないという。元教授の顔には焦りの表情があった。

「先にいって席をとっておく」
一人で五人分の席となると、気が引けるらしい。元教授は元蒲団屋を誘って駅裏の赤提灯街に消えた。

「いけない。おれは元銀行屋に電話をするのを忘れた」
 ヤマ屋がこの場に及んでやっと気づいたのだ。 

 元銀行屋はケイタイをもたず、パソコンを持たず、CC連絡がつかない、現代のアウトサイダーだ。前日までに電話がなければ、元銀行屋はどこに行ったらよいのか、それが判らない。
 集合時間になって気づくヤマ屋の無神経さ。すべてが手遅れだった。それでも、ヤマ屋が銀行屋の自宅に連絡した。細君が出てきた。

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日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」で、広報委員として記事担当

 日本ペンクラブ・メルマガは10月号から、大幅に刷新し、新連載をスタート。10月1日にはその記事がアップされました。

1)新企画「ペンの素顔」・阿刀田高 新会長に聞く
2)『世界P.E.N.フォーラム「災害と文化」』の全容ほぼ固まる
3)10月6日 シンポジウム「女流文学者会の記録」
4)「電子文藝館」9月の新掲載作品
5)ぺんぺん草

 穂高健一は広報委員として、①と②の記事を担当しています。③は次号のメルマガに、取材記事として書く予定です。今後も、一連の記事を書いていきます。


             
 
   阿刀田高会長(右)、インタビュアーは高橋千劔破常務理事(左)。筆者は奥の席。
                                    
                                    (撮影:鈴木康之・編集担当)

『ペンの素顔』シリーズは、記事を書く側としても楽しみです。日本ペンクラブはノーベル賞作家、著名な作家、ジャーナリスト、詩人の宝庫です。次はだれにインタビューするのか。それは広報委員会で決まります。
 

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第13回『元気100エッセイ教室』作品紹介

 エッセイ教室は、人生経験豊富な、いい素材を持つ受講生たちの集まりだ。さらには熱意に満ちている。講座はスタートしてから一年余りで、文章、文体の基礎を学んできた。

『何のために、エッセイを書くか』という点も、それぞれが会得してきた。このさき、公募エッセイで受賞作品を狙う。機関紙などに寄稿する。多くがエッセイストの道を進むだろう。
 それには他と比べて秀でる、差をつけることだ。その技法を凝縮して一言で語れば、作品の求心力と遠心力の違いにある。

 エッセイを求心力で書いた作品は読者がのめり込み、完成度の高い作品になる。
 遠心力の作品はあれもこれも書き散らすために、作品に山場がなくなり、平板になる。分裂、冗漫、散漫な3悪の印象の薄い作品になってしまう。
 教室のレクチャーでは、技法としての求心力と遠心力の二点について説明した。

 今回の提出作品は16編である。良作が多い。一作ずつ紹介していく。

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ノンフィクション・8月学友会  徳川幕府はペリー来航の50年前からアメリカと貿易していた なぜ学校教育で教えない?

 学友会は1年以上が経つ。幹事はごく自然に持ち回りとなった。メンバー5人は『類は類を呼ぶ』で、揃いにそろって他力本願、かつ無責任な連中ばかり。なにごとにもツメが甘い。かならず陳腐な出来事が起こる。
「次回は大宮だ、いい居酒屋がある」と焼芋屋の鳴り物入りで決めていた。元蒲団屋が7月の開催日を勘違いし、出張を組み込んでしまったことから、仕切りなおし。8月9日17時、集合場所は大宮駅『みどりの窓口』となった。

 幹事は旧岩槻市と旧与野市に住む2人、それに居酒屋を指定した元焼芋屋が加わった。学友会メンバーが5人なのに、幹事が3人というバランス自体にも問題があった。それが詰めの甘さになり、8月の集合すらも陳腐な展開となった。

「大宮駅構内はいま工事中で、『みどりの窓口』が移設している」と、元銀行屋がいち早く情報をキャッチした。ヤマ屋が連絡網で、ただ横流し、詳細の付加など一切なし。つまり、大宮駅に行けば、『みどりの窓口』なんて、簡単に判るさ、というていどの認識だった。

 5人が時間通りにやってきた。しかし、大宮駅『みどりの窓口』周辺の3ヶ所で、ばらばらに待つありさま。冷房の効いた『みどりの窓口』のなかにいたのが元焼芋屋。ほかの者は暑さに霹靂(へきれき)して待っていたのだ。結果として、最後に現れたのが元焼芋屋で、「大宮で用が早く終わり、1時間前に来て、ずっと待っていたんだ」と、涼しい思いをしながら抜けぬけと恩着せがましくいう。

 皆がそろったところで、東口繁華街の居酒屋『かしら屋』へ向かった。「人気店だから、夕方5時をあまり回ると、座る場所がないかもしれないぞ」と元焼芋屋が時間ロスの原因を棚に上げにした、焦りの口調でいう。この図々しさが学生時代からの持ち前だから、誰も腹を立てない。

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小説講座の指導は、受講者の実践・実作のみでレベルアップを図る

 目黒カルチャースクールで、『小説の書き方』の講師をしている。教室では、創作の実践指導のみで、受講生には、A4原稿用紙の升目を埋めてもらっている。あえてパソコンは使わない。原稿用紙に拘泥する。それはキーボードを叩けば、だらだらと文字が連なるからだ。

 初期の段階では、「人物の登場のさせ方」を説明し、原稿用紙にむかってもらう。次の講座では主人公の性格、外観、生活などの書き方のポイントを述べる。そして、書き綴る。原稿用紙に向かう受講生には、鉛筆と消しゴムは使わせない。ボールペンだけで書き進む。

 世のなかには小説を書きたい人は多くいると思う。実際に書き始めて挫折した人は数え切れないだろう。その理由の大半が、最初から読み直ししたり、手を入れたりするからだ。受講生にはそんな失敗をさせたくない。
「初稿だから、主人公の年齢も、名前も、家族構成も途中で変わってもいい。ストーリーも辻褄が合わなくてもいい。2稿の段階で手直しすればいいんだから。伏線も2稿で張ればいい」と、それを守ってもらい、先へ先へと書き進む。

 各地にあるカルチャーセンター小説講座の多くは、提出された小説の批評、添削、それにレクチャーだと思う。私はどこまでも実践にこだわる。

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