学友5人は毎回、各人のテリトリーである飲み屋、居酒屋などを紹介し、渡り歩いている。人間同士でも、飲み屋でも、初めての場所でも、新たな出会いや新発見は楽しいものだ。
暖簾(のれん)を潜った飲み屋が安価で美味しい。この学友会のテーマの追求に合致したならば、至上の幸せを感じるものだ。一ヶ所で飲む、という価値観も悪くないが、新発見を得るにはほど遠い。驚きとの出会いは、足で各地を動き回るほどに得られるものだ。ある意味で、酒飲みの口実かもしれないけれど。
今回は、元教授が約30年前から贔屓にする、東京・北千住の焼き鳥屋の『五味鳥』だった。マスコミの取材はいっさい応じず、その道の「ツウ」が好む店らしい。
元教授の場合は、飲み屋情報が狂うことはない。前評判に失望されられたことは一度もない。それだけに、今回は期待が高まった。「取材拒否の店」。それだけでも、胸が高鳴り、気持ちがワクワクする。
ヤマ屋がまたしても大チョンボをやらかした。
『9月27日。この日は元銀行屋がだいじょうぶだから、夕方五時、北千住の丸井・正面玄関に集合』という案内をCCで送った。
当日の同時間になっても、元銀行屋がただ一人現れなかった。
『五味鳥』は超人気店だから、もたもたすれば座る席がない。5人掛けのテーブルは一席しかないという。元教授の顔には焦りの表情があった。
「先にいって席をとっておく」
一人で五人分の席となると、気が引けるらしい。元教授は元蒲団屋を誘って駅裏の赤提灯街に消えた。
「いけない。おれは元銀行屋に電話をするのを忘れた」
ヤマ屋がこの場に及んでやっと気づいたのだ。
元銀行屋はケイタイをもたず、パソコンを持たず、CC連絡がつかない、現代のアウトサイダーだ。前日までに電話がなければ、元銀行屋はどこに行ったらよいのか、それが判らない。
集合時間になって気づくヤマ屋の無神経さ。すべてが手遅れだった。それでも、ヤマ屋が銀行屋の自宅に連絡した。細君が出てきた。
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