【読書の秋・推薦図書】 「万骨伝」= 出久根達郎
10月といえば、月並みだが、夜長の「読書の秋」となる。秋の日はつるべ落としで、陽が暮れるのは早い。さて何をやるか。TV観賞ばかりだと、味気がないし、受け身の人生になってしまう。
読書の良さは、疑似体験で、ひとの2倍も、3倍も、人生を過ごせる。これは貴重な体験として、からだのどこかにしみ込む。
葛飾区・立石には名物「岡島古書店」がある。主の岡島さんと会い、こんな話題から入った。「達ちゃんの読書量にはおどろかされるよ。古本屋がまず読まないのが、饅頭本だからね」
「饅頭本とは?」
わたしも作家稼業だが、その用語には馴染みがなかった。
「葬式饅頭があるよね。それだよ。死者を称える本は饅頭本という。死者を悼んだり、弔ったり、そんなことばはまずはきれいごとばかり。美辞麗句ばかりで、内容がない。面白くない。私は読まないね」
読むのが商売の古書店の主のことばだ。つまり、饅頭本は古本屋の関係者はまず見むきもしないと語る。
「達ちゃんは、それを丹念に読んで、そのなかから、新発見をして人物紹介をしているのだから、おどろかされるよ。かれはむかしから読書量は半端じゃなかった」
岡島さんの語る出久根達郎さんのエピソードは尽きない。
出久根達郎著『万骨伝』(ばんこつでん)ちくま文庫、定価950円+税が、この秋に出版された。副題は「饅頭本で読むあの人この人」である。
岡島さんはそれを読んで、ともかく感歎していた。ふたり(岡島さんと出久根さん)は、10代の頃から、古書店仲間だ。「おれ・おまえ」というか、呼び捨てにする仲間だ。ともかく親しい。
「神田古本街に仕入れにきた達ちゃんの読書は、ともかくすごかった。片っ端から読む、眼を通す。本問屋の地べたに投げ出されている、現在でいう店頭30円~100円の本まで目を通していたよ」
そんなエピソードを語る岡島さんも、名刺とケータイは持たない。手紙は書かない。この3点セットは守りつづけている。頑固一徹だから、世のなかがどう進歩しようが、下町・立石で、古書店を守りつづけている。
現在は葛飾立石ブームだが、町の歴史そのものの語り部でもある。
『万骨伝』には実業家、アスリート、泥棒まで、異色の人物が50人ずらりならぶ。個々人の写真があるので、明治、大正、昭和のお姐さん方の美人ぶりも、これも楽しい。
