【寄稿・エッセイ】ベリー・グッド・ボーイ= 星乃 うらら
【作者紹介】
星乃 うららさん : 主婦暦は30年以上です。昨年から「よみうり日本テレビ文化センター・金町」(公募エッセイ教室)を受講して1年4ヶ月です。俳句暦としてはかつて2年あまり。日頃のストレス解消として、「健美操」という体操、現代琴などをおこなっています。
【作品紹介】
文芸社「たび・旅・Journey!」に掲載された入選作です
ベリー・グッド・ボーイ= 星乃 うらら
旅をしていると、海、湖、川など、水の満ちた風景たちに心魅かれる。癒され好きの私は、そこに遊覧船、川舟などを見つければまず近寄っていく。
夫と二人で、千葉県佐原のさわら舟に乗り、川くだりをしてきた。十二月初旬だった。世間では年の瀬で、大掃除でも始めようかという時期だ。世の流れに逆らって、小京都といわれる柳と川の町をのんきに歩いてきた。かつて、水郷のあやめ祭りの帰途、この町に立ち寄っている。鰻重を食べて満足して以来の佐原歩きだった。
町の中心を流れる小さな川は、小野川というそうだ。川端に柳が続き,冬枯れの細枝がしなやかに風に揺れる。昔ながらの白壁土蔵が陽で輝く。浮世を忘れて、そぞろ歩くにはぴったりの町だ。
小さな川に小舟が客を乗せて上り下りし、絣もんぺのおばちゃんがのどかに櫓をあやつる。舟の上にはなんとこたつなどもしつらえてあるようだ。
「今度こそは、さわら舟に乗りたい」
と夫が言った。
春来た時は発着所の行列を見てあきらめていたのだ。今回は師走の冷たい川。さすがに並ぶ人は少ない。チャンス到来だ。二人の呼吸も合い、乗ることに決めた。
「さあさあ差し向かいでこたつに足を伸ばしなさいな」
発着所の世話人のおじさんはとても威勢がよく、靴脱ぎの場所なども教えてくれた。
冷たい空気をぬって、こたつで暖を取りながらゆらゆらと下って行く。お舟の心地好さは格別だ。川の水は思ったよりきれいで、川幅も広く感じられた。船頭のおばちゃんが、舟をこぎながら佐原の歴史を教えてくれる。この時だけはちゃんと頭に入り、しっかり佐原の人となった。