【転載・詩】だらしない物語=望月苑巳 詩集「ひまわりキッチン」より
望月苑巳さん:日本ペンクラブ会報委員会の副委員長です。現在はジャーナリスト、詩人、映画評論家として活躍されています。
詩集「ひまわりキッチン」2011年10月10日発行
発行所 砂子屋書房
著者:望月苑巳
〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738
だらしない物語 ー-《青空を吸い取った漆黒》N-1 縦書き PDF
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国弘よう子、望月苑巳、嶋崎信房、菅野竜二の各氏
だらしない物語 ー-《青空を吸い取った漆黒》N-1 望月苑巳
闇夜は星が美しい
月の出た夜はひとが美しい
梅の香りをまとって笑っているよ
月の光も薫っているよ
でもね
雨の降る日は
天の涙に表札が磨かれて
大根のように冷たくなるよ
ずぶぬれで返ってきた父は
母さんが置いて行った
子守唄をうたっているよ
赤ん坊をあやすように
空のご機嫌をとるように
泣きたくなるような子守唄だったよ
人間は二度死ぬ
最初は焼かれて灰になった時
二度目は存在したことさえ忘れられてしまった時
そんな始末書の脇で
ぼくが冷たくなっているよ
開いた瞳孔が青空を吸い取ってしまったのか
朝から雨
だらしない雨だよ
きのうまで蛇口で水を飲み
好きなものを食べて
堂々と人を好きになったりもしたのに
だらしないったら、ありゃしない
劣化してゆく、ぼく
退化してゆく鍋の底に
溜まっていたのは
使い方を間違えた父の靴ひも
なにも知らなかったあのころに帰って
だらしいない雨に打たれ
三度目の死を迎えるよ
だらしいないぼくの物語だよ