【寄稿・エッセイ】 身障者手帳 = 和田 譲次
家内は二年前に膝に人工関節を取り付けた。手術後も元気で、腰が悪い私より速く歩く。それなのに病院の指示で身障者手帳の申請をし、交付された。
本人は何も不自由を感じていないように見えるが、いろいろな恩典が受けられる。
自動車関係はフルに利用したら利用者のメリットは大きい。税金も安くなるし、歩行困難者使用中のカードを付ければ自由に駐車ができる。地域が限られるが、無料バスカード、タクシー割引券、JRも割引が適用になる。
家内が積極的に利用しているのが公共の美術館、博物館への入場が無料になる権利である。本人だけではなく付添一名も適用になる。今年の秋は素晴らしい企画展が多く、上野や六本木などへたびたび出かけていた。毎回、近所の奥様が一緒である。
「今日は上野で三カ所回ったの、窪田さんが疲れたと言うのでアメ横にはよれなかった」
「付き添いが疲れたと言ったのではついてきた意味がないな」
と私が言って二人で笑った、
「ご主人に悪いわね、私ばかり素晴らしい絵を観させていただいて」
モネ展の会場で絵を見ながら窪田さんが話したという。
「いいのよ、主人は美術館には、いつも一人で行っているわ、自分のペースで静かに観たいのよ」と、家内が応じたらしい。
家内の行動を観ていると無意識で、無料バスやタクシーを利用している。歩こうと思えば歩けるのだが、恩典があるとつい、利用してしまう。付き添いの制度も当初は車椅子利用者のために用意されたのだろうが、家内に限らず、今では自分の足で歩ける人が遊びのために友達を誘っている。 夫婦で川崎市内から川崎ナンバーのタクシーを利用すると、かなり長距離のりようが可能である。一度だけ違法すれすれのタクシーの利用をしたことがある。
身障者の方への恩典は、必要がある人が、必要な時に利用すべきものだと思う。申し訳ないことをしてしまった。
私の友人が心臓ペースメーカーを付けている。今の機械は改善が進み電波障害もなく安定している。私は心臓に障害があり、不整脈がよく出る。脈が遅くなるタイプなので本来ならばペースメーカー使用の対象になる。
循環器担当の主治医と具体的に話し合ったことがある。
「ペースメーカーを付ければ脈が落ち着いて安心できると思うのですが、それに身障者の扱いを受けるといろいろな恩典があると聞いていますが」
「体に異物が入るということは本来の体のリズムが狂うということですよ、心臓に良くても他の器官に影響が出ます。貴方は未だ自力で活動できます。わざわざ体をいためることはありません、自然体でいきましょう」とたしなめられた。
家内は、膝の前に、脊柱管狭窄症の手術を受け、こちらの方も後遺症がある。既定では手帳が支給されない。人前では明るくふるまっているが、寒くなると膝の患部が痛くなり側に暖房機を置く、寝付けなくて夜中に痛み止めを飲むこともあるようだ。
人工関節も性能が向上しているのだが、体本来のものとは違う。疲れたり、温度、湿度の変化で痛みが出る。口には出さないが、夫婦を永く続けていると家内のつらさが感じとれるときもある。