寄稿・みんなの作品

武家の古都で、新田義貞の鎌倉攻めを想う。「鎌倉七口」=後藤美代子

実施日 2010年6月4日(金)

参加者 L 後藤 伊東 尾碕 中村 野上

 鎌倉は三方を山に囲まれており、一方は海に面した自然の要塞である。その地形のために、外部からの出入りは非常 に不便であった。
 周辺との往来を図るべく、山には切通、海には港(和賀江島)を設け、交通が容易に行われるようにした。 この山の切通と坂を併せて「鎌倉七口」と称している。

現在、往時の面影を多く留めているのは、大仏切通(土砂崩れのため通行止め)、朝夷(比)奈切通である。残念ながら化粧坂、亀ヶ谷坂、巨福呂坂、名越切通は極一部に名残りを留めているていどであった。

 新田義貞が鎌倉攻めた。新田軍は三手に分かれて、極楽寺切通、巨福呂坂、化粧坂から攻め入ったのである。待ち受ける鎌倉幕府軍の守りは堅く、新田軍はことごとく討ち破られた。いったんは腰越付近まで退却し、稲村ガ崎の 海上からの侵攻を図った。
 だが、そこには幕府軍の船が矢を射掛けようと待ち受けていたのだ。


 攻め倦んだ新田義貞が、黄金造りの太刀を「竜神 我が願い叶えさせ給え」と言って、海中に投げ入れた。すると、その夜は潮が沖まで退いたので、新田軍は攻め入る事ができた、という有名な話が伝えられている。

 そんな昔に思いを馳せながら、私たちは鎌倉七口を歩き通した。その距離は20キロ余。 現在、鎌倉は「武家の古都・鎌倉」として、世界遺産登録を目指しています。

 しかし、岩手県の中尊寺が落選したので、その代わりに鎌倉という訳には行かず、中尊寺が再チャレンジしてからです、と地元の事情通は言っています。

  今回の山行は、無数に広がる枝道に、悪戦苦闘しながらだった。秋風の吹く頃には、いま一度、迷わず行けるのか、再チャレンジしたいと思っています。


 ハイキングサークル「すにいかあ倶楽部」会報№130から転載
                                                     

【詩集『こんなもん』より】 どこへ = 坂多瑩子


大根を切っていると

窓ごしに

男がよぎっていった


風でとばされた

ぼうしを追っかけている赤毛の男だ

いるな

と思ったら

ぼうしのほうが

あたしのところにきて

水を一杯のんだ

これから旅にでるという

たしかにリボンのわきに切符をはさんでいる

ザーッアルマからノマロフ越えて

橋をわたって

ニェスニュススチック停車場から

ぼうしのくせにおしゃべりだ

聞き流しながら

里芋と人参を切って

鍋に湯をわかしていると

台所は湯気のあたりから暗くなりはじめた

夜になっちまった

ぼうしがいった


ずいぶん昔に

お土産って

大叔母さんがくれたグリーンの表紙の本

色の悪い花びらが舞っていて

ぼうしがあご髭をはやしていた

遠い夜のはずれで

赤毛男

ゆくえふめい

【関連情報】

どこへ  縦書き PDF


「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
         発行所 生き事書房 
              〒 151-0073
  東京都渋谷区笹塚3-45-4
              ☎ 03-3377-6168 

【詩集『こんなもん』より】 夕焼け空 = 坂多瑩子


アイスあります

紙に黒々と

書かれている

アイスちょうだい

そんなものないよ

ハタキかけながら

おばあさんがいった

あっちへいきな

あたしの顔に斑点があるから

ちがう

ソバカスだらけだから

おまえは大きくなると美人になるよ

そういわれて育ったけど

アイスなんてないといったおばあさんとこの

のぶちゃん

アイス舐めてた

いまじゃ

ひろい広い敷地のはしっこに

コンビニができて

アイスください

百個ください

千個ください

夕焼け空は

かわらないけど

どこか とおくで

トタンの屋根がパカパカしてる

おばあさんおばあさん

漏斗形の花がまきついているよ
   


【関連情報】

夕焼け空  縦書き PDF


「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
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【詩集『こんなもん』より】  墓石 = 坂多瑩子


墓石のうしろに

ちょっとうすくなった

おじいさんとおばあさんがいた


あたしは近くの墓石のあいだをわざと走ってみた

ここはよそんちのおはか

おじいさんとおばあさんに教えてやったら

男の子が顔をだした

墓石から墓石を

ぐるぐる走ってふたりでキャッと笑った

男の子は消えた


ほら はようおがみんしゃい 

祖母の声だ

おじいさんとおばあさんは

もういなかったけど

じろじろみられているようでいやだった


だから

こんにちわって礼儀正しく挨拶をするけど

なんか照れ臭いというか恥ずかしいというか

相手は墓石なんだけど

墓地に行くと

いっせいに

墓石があたしをじろじろみる


【関連情報】

墓石 縦書き PDF

「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
         発行所 生き事書房 
              〒 151-0073
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              ☎ 03-3377-6168 

【孔雀船】 世界にただひとりの君へ = 文屋 順   


この広い世界に

私の知らない人が沢山いる

今どこかで

病に苦しんでいる人

今遠いところで

大切な人を亡くして

悲しみのどん底にいる人

人生の途中で

愛する人とめぐり逢い

喜びの真ん中にいる人

でもみんな同じ人間だから

誰でも幸せになるチャンスがあり

その人生を全うする役割がある

どうかそんなに苦しまないでください

どうかそんなに喜ばないでください

何をしていても

何を思っていても

何を話していても

誰の心にも届かない日

みんな空しい夢に過ぎなかった

私の隣の誰か

そうこの世にたったひとりの君よ

涙を流したら

ちゃんと拭いてください

遠いところへ

いずれ私たちは行かなければならい

今日あるいは明日にでも

身軽な空間から

重厚な空間へと

バースデーケーキを食べつくし

悪魔の囁きに耳を貸さず

明るい日と書く日に向かって

しっかり踏み出して行くのだ

一億のすべての光を通して

何気なく見上げた青い空の下

クールビズの今日の余白に

水の匂いを求めている

もう一人の自分がいる


【関連情報】

世界にただひとりの君へ * 縦書き : PDF


「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

【孔雀船88号より】 空と風、海のこと、川のこと = 脇川郁也


初夏の空に音もなく

ジェット機の影が

真っ白な糸を西に向かって引いています

古ぼけたポストのある郵便局の軒を抜けて

つばめと

五月の風がそれを追います


散歩の帰り際

ふいに見上げた先に

ひこうき雲がひとすじ描き出され

ぼくが戸惑っているのは

きみを突然に失ったからだけではありません

ぼくの心の奥のその中に

きみに呼びかける声がするのです


覚えていますか

志賀島をめぐる湾曲した道を歩き

だれも知らない浜に降りて

いっぽんの流木を旗のように打ち立てた日のことを

潮風に吹かれてたなびくぼくらの歓声が

釜山に向かう高速艇の青ざめた航跡を

どこまでも追いかけていったことを


手のひらにすくい

指の間から滑り落ちる砂粒の感触を

ずっと覚えておこうとぼくたちは誓った

けれど

知らぬ間に降り積み

とたんに崩れはじめる砂山の

ゆるやかなふくらみ

名前もない一日の午後に

ふたりだけで聞いた潮騒

くりかえし

海のにおいが押し寄せてきて

ぼくたちは溺れてしまうのだった

濃くなってゆく夕焼けにあきれながら

足の先から海に溶け出す錯覚を

くりかえし

楽しんだ


御笠川のよどみを

鴨の親子が滑っていきます

うち捨てられた自転車のハンドルが

川底の砂に刺さって鳥の首のように見えています

井堰から流れ落ちる水の音で

妻の声が聞こえませんでした

夕食のおかずのことのようにも

地震で倒れた墓石のことのようにも聞こえるので

ぼんやりと視線を返すことしか

ぼくはできないでいるのです


【関連情報】

空と風、海のこと、川のこと  縦書き : PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

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【孔雀船88号より】 はるの変異 = 尾世川 正明

二つ折りの

しろい紙に墨をにじませていると

ロールシャッハテストのように


山や渓流や岩肌がみえ

小さな庵に住む小さな人もみえてくる

今朝はまどから

名も知らぬ小鳥の声が聞こえる

この頃この町に変な野鳥が多くなったと

散歩で逢った老人が話していたが

かれの認知機能は

以前のように正常なままなのだろうか

とはいっても

すでにわたし自身も鏡に映れば

影がゆがんでどこか妖しい


ちいさな鉢で

多肉植物をめでているわたしは

ホモサピエンスのオスとして

すでに生殖機能を失っているのだろうか

さりとて心にはまだまだ春が映りこみ

なまめいて艶なるものを求めている

しろい二の腕のようなもの

長く伸びた指のようなもの

その先の白く飾られた爪

爪に触れる膨らみはじめた桜のつぼみ

肉という言葉の響きになどは

少しうしろめたくて使えず

そのくせ

厚い唇のような葉の

ほんのりとした桑の実いろにみとれ

すこし触れてみたくなる


はるなのに

甘みをおさえた桜餅ではなく

焼いた厚い牛肉を食べている

茶室で抹茶を飲むのではなく

ペットボトルから硬水を飲んでいる

それなのに体の芯では

多くの骨たちが水気を失い

少しずつ鉱物に代わってきているので

やがて肩や胸から針のように骨が突き出してくる

そんな恐怖を夢想している

大きな墨滴が紙に落ちて暗黒星雲になった

星雲がさらにかたちを変えて黒い異形になった

私の変わってゆく姿

結局わたしの命とはこんなものかもしれない

そんなことを昨日からしつこく考えている

この脳も少し変異したらしい

【関連情報】

はるの異変  縦書き : PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

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【孔雀船88号】 台所の結界はどうして破れたか = 望月苑巳

時間には眠りという属性がない

猥雑と孤独が

ただぶらんこのように

うつつうつつ 繰り返すだけの混沌。


トーストが一枚

鋭角な食欲を焼き上げる

妻は目玉焼きを食べながら夕暮れている

台所の結界を踏み越えられない定家卿は

怒ってトーストを投げつけた

シチューに紛れ込んだトマトが

シニカルな笑いを浮かべている

踏み越えられたら戦火は収まるのに

一将功なりて万骨枯る、というわけか。

すると妻が反撃を開始する

仰いで天に愧(は)じず、俯して地に炸(は)じず、でしょう。


たじろぐほどに定家卿は袋小路を曲がる

猥雑が背を向き

いつの間にか孤独が上りがまちに佇んでいる

慌てた定家卿は結界をこじあけ台所に辿り着く

台所は人生の縮図である。


人生はコップの中の水に似ている

「半分しかない」と悲しむ人もいれば

「半分もある」と喜ぶ人もいる

欲と正直のまぜあわせ

水がこぼれた時どう身を処するかで

その人の価値が決まるのだと

いつぞや法師は錫を突いて喝破したな。


定家卿はふてくされて

鍋からこぼれ出た妻を

抱えたまま走りだす

どこへ? さらなる孤独へ?

【関連情報】

台所の結界はどうして破れたか 
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孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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【孔雀船88号より】 タッカ・シャントリエリ = 森山 恵

夢の峠の草叢にある

分水嶺

腰のあたりに一輪 黒い花が咲いて

黙りこくってゆれる水辺 めくら柳の根方の


あなたはわたしを巡る わたしの地下を巡る

けれど

水湧きたつ場所をあなたは

知らない

(みを隠す水隠れの みずの想い


道を問う君

そこではないの

ほんのすこし横 そこを過ぎてあとは道なりに

まどろんで ふれる

(まぼろしの迷い家の
 

身隠れ

わたしたちは

もう一度ささやき交わし 愛を交わす

花は根を伸ばし

広がり咲く


タッカ・シャントリエリ

かくれ里に群れ咲く花
 
香りたち昇り

たましいはその濃き香りに引き寄せられる

二つの身を離れ

息づかいのみを残して

たましいは
 

【関連情報】

タッカ・シャントリエリ : 縦書き、PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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【孔雀船88号より】 みづいろ = 浅山泰美


早春の朝ははやく

露に濡れた草ぐさの

まだうすぐらい小径を抜けて

あなたは

旅支度もそこそこに

ゆうべの灯りが

まだ点ったままになっている

ちいさな木の駅から

旅立とうとしていた


氷のようだった手足が

今は空気のように軽くあたたかいので

口笛のひとつも吹きたくなるではないか

そういえば

幼かった頃

一番好きだった色は

水色で

クレヨンはすぐに短くなっていったな

ふいに そんなことを思い出すのは

まだ明けきらぬ空の一角が

あまりにもうつくしい水色に変わりはじめたからか


もう引き返すことのできない小径に

朝の光が射しはじめるまで

影は影のまま

あなたがいなくなれば

あっさりと消えてしまう

この世界にも

モクレンは咲き 小鳥は歌う春はまた巡り来て

やがて

草に紛れた鏡のような

水色の記憶だけが

ひっそりとそこに残されるのだろう

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みづいろ 縦書き ・ PDF

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

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