『八月十日よ、永遠なれ』 大人は近現代史(明治・大正・昭和初期・十五年戦争)を満足に学んでいない
青春小説の「八月十日よ、永遠なれ」が発刊されたあと、読者から数多くのコメントをいただいています。 ことしは昭和100年、戦後80年の節目にふさわしい作品です、若い世代に読んで欲しいですね。こうした感想が多い。紹介します。
高校二年生の男女六人が魅力的です。楽しいです。若者たちの意欲的で、前向きで、すがすがしくて、一気に読みました。日本の近代史が高校生の視点ですから、わかりやすく、すんなり理解できました。
二度読むと、明治時代から太平洋戦争までの、日本の政治と軍事と戦争との関連が理解できる小説です。わかりやすい日本史の教科書でした。
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他方で、「私たちは学校で、近現代史を習っていません」という内容がことのほか目立ちました。
「小中学校の社会科・歴史は、石器時代から江時代までていねいだけれど、明治維新のあとの、教科書の時間切れで、飛ばされてしまった」
「日中戦争や太平洋戦争(15年戦争)は、教科書の最終日に40分ほど、ごく短く触れた程度で、記憶に残っていない。大正時代や昭和初期など教わったのかな、という感じです」
「日本史は大学受験として、歴史用語の暗記だけです。江戸以前の時代が重点的に出題される傾向で、近代史がないがしろにされてきた。だから、明治時代以降、どうして戦争国家になったのか。それがよくわかっていません」
ある統計によると、二十代以上の方々の約75%が小・中・高で日本の近現代史を学び足りなかった、と感じているようです。
とくに50代以上の方々は、「太平洋戦争や日中戦争をしっかり習った記憶がない」と感じる人が多いようです。それというのも、終戦と同時に、神話、皇国史観の歴史そのものが否定されました。ですから、歴史教師は「明治時代の大日本帝国憲法制定のあとは、なにをどう教えてよいのかわからない」という教育の混乱期に突入します。
そのまま、教科書そのものが、戦後の教育改革で試行錯誤し、今日に及んできたのです。教え方のわからない教師は、いまだに、明治初期で授業を終えている、という現実があります。
やっと、2022年には19世紀からの近現代史「歴史総合」が全国の高校の必修科目として登場してきたのです。それは世界史と日本史を統合したものです。
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高2の男女六人の「歴史クラブ」の高校生たちは、物語のなかで、明治・大正・昭和初期、さらに日中戦争・太平洋戦争を探究していきます。かれらは一年の時に、近現代史「歴史総合」を習っていますから、ふつうに海外から日本の政治・経済・軍事を見ていきます。
読者からは、「高校生といっしょに、海外が当時の日本の軍国主義をどのように見ていたか、それが学べました。海外の視点も豊富です。当時の日本は海外から軍事主義、侵略主義の批判の目で見られていた国家だったのだと、よくわかりました」という感想も寄せられています。
「これまで広島・長崎の原爆は被爆者の立場でしか見ていませんでした。高校生たちが、アメリカの立場も探究しているので、公平感を感じます」
今は、ウクライナ戦争、中近東、台湾海峡と緊張が高まっています。核戦争の危機も、背中合わせです。日本がどのような態度で対峙するべきだろうか。
この人類の危機の中で、私たちは過去とおなじ道を歩まない。それには日本人のすべてが、過去の悲惨な戦争を正しく学んでいないとおもいます。
「八月十日よ、永遠なれ」が、世界中の人達が、先行きに強い懸念を持っているとき、よい小説が出てきたと、歓迎してくれています。
作者として、この青春小説を一読すれば、ごく自然に明治以降の日本の歴史が学べます、と補足したい。
戦争はただの過去ではないのです。「国を守る」といいながら「軍人政権を守る」ことばのすり替えでした。国破れた終戦ともに、勇ましかった軍人たちは戦争責任も取らず霧消してしまった。そして、日本史で近現代の歴史すらも、真実を教えない、つたえない、という結果を生み出しました。
80年前に来た道、おなじ轍を踏まないことです。大勢の方々が近現代史を知ることは、将来の日本人の生命・安全を守ることにつながります。