東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(030 通信塔)

 あの鉄塔はなんの電波を受信しているのか。それとも中継なのか。電波は見えない。生活のまわりでは情報の渦が巻く。見るもの、聞くもの、大半が電波に乗ってやってくる。文化の進化に疎い下町でも、それは例外ではない。

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東京下町の情緒100景(029 小さな森の公園)

 社の裏手の小さな森では、潅木が燃えている。紅葉の名所でもなければ、有名でもない。名すらも知れられていない狭い広場。大人の足ならば、ものの一分で通り過ぎてしまう。
 吹き抜ける秋風が紅く色づいてきた。枯葉が風に乗り、静かに舞い降りる。芝生の上で心地よさそうに横たわる。

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東京下町の情緒100景(川舟 028)

 徳川時代は、江戸城下の深川界隈が都市の中心だった。川や堀などの水路が発達していた。物資の運搬のみならず、川遊びが流行していた。武士や豪商が川舟で、芸者が弾く三味線、都都逸(どどいつ)などを聴きながら、酒を飲む。風流な遊びの一つだった。

 東京湾の沿岸は漁業や海苔の養殖が盛んだった。明治、大正と引き継がれてきた。しかし、昭和の高度成長期になると、漁業は職業としては消えていった。

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東京下町の情緒100景(幾何学的な飾り 027)

 下町にも科学の進歩が押し寄せてくる。ふたつの新と旧の橋が重なり合あう。角度によっては、複数の斜線が、放射状に織り成す。また、縦、横の直線となる。鉄と鉄がともに造形を語りあっているかのように。
 

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東京下町の情緒100景(送電線 026)

 真っ赤に燃えた太陽が沈みかけた。夕日は消えゆくわが身を嫌うように、送電線の鉄塔にしがみついた。夜の気配を察したのだろう、河川のススキが寝床に入る準備をはじめた。穂先を並べて枕の用意をしている。

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東京下町の情緒100景(仲見世 025)

 仲見世は庶民の日常の買い物の場だ。入口から手作りの味の店がならぶ。あえて〈老舗〉と看板を出さずとも、数十年来の伝統ある店舗ばかり。大半が二代目、三代目の店主なのだ。

 野菜を路面にならべた八百屋。老夫婦が朝から作った煮物を売る総菜屋。三枚下ろし、二枚下ろしと年季の入った包丁捌きの魚屋。珍味食料品店。こだわりの麺匠。まさしく庶民の味の宝庫だ。

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東京下町の情緒100景(残照の橋 024)

陽が沈んでしまった。空の明るさが薄らぐ。
 川面が静かに暮れ行く。川の波は色をなくしてきた。一文字の橋では通勤や通学の自転車が行きかう。橋の影が程よく背景の空のなかに溶け込んでいた。

 釣り人がリールを巻き上げ、さおをたたみ引き上げていく。町の拡声器の放送が、子どもたちに時間を教え、帰宅を促す。ウオーキングの夫婦の姿も数をなくしていく。

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東京下町の情緒100景(釣り人 023)

 釣り人の談義は面白い。
 立ち止まったウオーキングする住民が、何が釣れるのかと聞く。うなぎを狙っていると教える。とたんに、過去の自慢の成果が語られる。

 きょうは獲物が何一つない。バケツは空だし、申し訳ていどに水が入れられている。うなぎは利口らしい。

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東京下町の情緒100景(鯉とかもめ 022)

 学校帰りの高校生が、夕日に顔を染めて橋の欄干から覗き込んでいた。
 
 澱んだ川のなかには、一メートル前後の黒っぽい鯉が泳ぐ。ずいぶん太っている。3、40匹はいるだろう。戯れているように群れている。鯉の背びれが時おり水面をかすめる。

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東京下町の情緒100景(町工場 021)

 路地は曲がりくねっている。奥まったところが、町工場地帯だ。

 二階建ての一階が工場だ。奥から旋盤の音がひびく。職人が油汚れの姿で金属片を削っている。ダライ粉が、面白いようにニョロニョロわき出てくる。

 機械は休まず、職人の手も生活のために休まず。旋盤の音は止まらない。
 
 どんな製品ができるのだろうか。それだけでは製品にならず、正確にはなにかしら組み立て部品だろう。出来上がりはきっと極小の部品。職人の腕が競えるミリ単位のものだろう。

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