A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(035 控え選手)

 将来は華やかなプロ選手になりたい。憧れのプレーヤーと自分の姿を重ねてみた。目指すプロはまだまだ遠い。いまのぼくは明日のレギュラーを取ることだ。
 ぼくは控え選手だ。聞こえがいいけど、ボールや器具の見張り番だ。

 年下の後輩がレギュラーで、グランドでボールを追う。口惜しい。言葉にすれば、みじめだから、じっと耐えているけれど。


 うちのチームの監督は厳しい。ミスすれば、本気で怒られる。みんなが必死でサッカーボールを追う。懸命に駆ける。ボールに喰らいつく。それでも、うちのチームは点が取れなかった。また、怒鳴られる。控え選手のぼくまでも、身が縮むおもいだ。


「悔しいだろう。このくやしさが将来のばねになるのだ」
 監督のことばがよみがえった。
「試合を見て、攻撃と守備とをしっかりみて、研究することだ。それも大切なことだ」
夢で終わらせたくない。監督のことばを信じてみよう。


 チームメートが連続してシュートだ。やっと一点取れた。皆が小躍りする。
(いつかはぼくもゴールに蹴りこむぞ)
 皆から抱きつかれる自分の姿。それが明日のぼくの姿になるぞ。

「東京下町の情緒100景」トップへ戻る