A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(041 隠れん坊)

 下町っ子は、隠れん坊が大好きだ。狭い路地裏にはいくらでも隠れるところがあるからだ。
 缶を蹴って、裏道から逃げた。
 4年生の鬼がぼくたちを探している。


 児童公園で、一人が捕まった。下手で、ドンくさいからだ。いつも真っ先につかまっている。

 また、一人がつかまった。町工場のパレットの陰だけど、肥満体だから頭を隠して尻隠さずだ。つかまっても、当然だ。

 きのうは屋根裏に隠れた。家主に怒鳴られたから、大声で見つかってしまった。。

 きょうは考えてきた。このスクーターの陰は見つかりそうで、見つからない。ブロック塀と道路の植栽が、都合よく、ぼくを隠してくれる。
 鬼の気配で、さっと向かいの家の陰に逃げきれるところだ。

 三人目が捕まった。ぼくは逃げ切るぞ。

「もう、止めた。家に帰るぞ」
 鬼のあきらめ方が早い。根性がないな、五分も経っていないのに。仕方ないか、一緒に帰るか。
「なんだよ。もう止めるのかよ」
 ぼくはバイクの陰から立ち上がった。
「見つけた」
「卑怯者」
 児童公園のなかで、ぼくは鬼を追いかけ回した。

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