寄稿・みんなの作品

【詩集『こんなもん』より】 夕焼け空 = 坂多瑩子


アイスあります

紙に黒々と

書かれている

アイスちょうだい

そんなものないよ

ハタキかけながら

おばあさんがいった

あっちへいきな

あたしの顔に斑点があるから

ちがう

ソバカスだらけだから

おまえは大きくなると美人になるよ

そういわれて育ったけど

アイスなんてないといったおばあさんとこの

のぶちゃん

アイス舐めてた

いまじゃ

ひろい広い敷地のはしっこに

コンビニができて

アイスください

百個ください

千個ください

夕焼け空は

かわらないけど

どこか とおくで

トタンの屋根がパカパカしてる

おばあさんおばあさん

漏斗形の花がまきついているよ
   


【関連情報】

夕焼け空  縦書き PDF


「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
         発行所 生き事書房 
              〒 151-0073
  東京都渋谷区笹塚3-45-4
              ☎ 03-3377-6168 

 

【詩集『こんなもん』より】  墓石 = 坂多瑩子


墓石のうしろに

ちょっとうすくなった

おじいさんとおばあさんがいた


あたしは近くの墓石のあいだをわざと走ってみた

ここはよそんちのおはか

おじいさんとおばあさんに教えてやったら

男の子が顔をだした

墓石から墓石を

ぐるぐる走ってふたりでキャッと笑った

男の子は消えた


ほら はようおがみんしゃい 

祖母の声だ

おじいさんとおばあさんは

もういなかったけど

じろじろみられているようでいやだった


だから

こんにちわって礼儀正しく挨拶をするけど

なんか照れ臭いというか恥ずかしいというか

相手は墓石なんだけど

墓地に行くと

いっせいに

墓石があたしをじろじろみる


【関連情報】

墓石 縦書き PDF

「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
         発行所 生き事書房 
              〒 151-0073
  東京都渋谷区笹塚3-45-4
              ☎ 03-3377-6168 


【孔雀船】 世界にただひとりの君へ = 文屋 順   


この広い世界に

私の知らない人が沢山いる

今どこかで

病に苦しんでいる人

今遠いところで

大切な人を亡くして

悲しみのどん底にいる人

人生の途中で

愛する人とめぐり逢い

喜びの真ん中にいる人

でもみんな同じ人間だから

誰でも幸せになるチャンスがあり

その人生を全うする役割がある

どうかそんなに苦しまないでください

どうかそんなに喜ばないでください

何をしていても

何を思っていても

何を話していても

誰の心にも届かない日

みんな空しい夢に過ぎなかった

私の隣の誰か

そうこの世にたったひとりの君よ

涙を流したら

ちゃんと拭いてください

遠いところへ

いずれ私たちは行かなければならい

今日あるいは明日にでも

身軽な空間から

重厚な空間へと

バースデーケーキを食べつくし

悪魔の囁きに耳を貸さず

明るい日と書く日に向かって

しっかり踏み出して行くのだ

一億のすべての光を通して

何気なく見上げた青い空の下

クールビズの今日の余白に

水の匂いを求めている

もう一人の自分がいる


【関連情報】

世界にただひとりの君へ * 縦書き : PDF


「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

【孔雀船88号より】 空と風、海のこと、川のこと = 脇川郁也


初夏の空に音もなく

ジェット機の影が

真っ白な糸を西に向かって引いています

古ぼけたポストのある郵便局の軒を抜けて

つばめと

五月の風がそれを追います


散歩の帰り際

ふいに見上げた先に

ひこうき雲がひとすじ描き出され

ぼくが戸惑っているのは

きみを突然に失ったからだけではありません

ぼくの心の奥のその中に

きみに呼びかける声がするのです


覚えていますか

志賀島をめぐる湾曲した道を歩き

だれも知らない浜に降りて

いっぽんの流木を旗のように打ち立てた日のことを

潮風に吹かれてたなびくぼくらの歓声が

釜山に向かう高速艇の青ざめた航跡を

どこまでも追いかけていったことを


手のひらにすくい

指の間から滑り落ちる砂粒の感触を

ずっと覚えておこうとぼくたちは誓った

けれど

知らぬ間に降り積み

とたんに崩れはじめる砂山の

ゆるやかなふくらみ

名前もない一日の午後に

ふたりだけで聞いた潮騒

くりかえし

海のにおいが押し寄せてきて

ぼくたちは溺れてしまうのだった

濃くなってゆく夕焼けにあきれながら

足の先から海に溶け出す錯覚を

くりかえし

楽しんだ


御笠川のよどみを

鴨の親子が滑っていきます

うち捨てられた自転車のハンドルが

川底の砂に刺さって鳥の首のように見えています

井堰から流れ落ちる水の音で

妻の声が聞こえませんでした

夕食のおかずのことのようにも

地震で倒れた墓石のことのようにも聞こえるので

ぼんやりと視線を返すことしか

ぼくはできないでいるのです


【関連情報】

空と風、海のこと、川のこと  縦書き : PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

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【孔雀船88号より】 はるの変異 = 尾世川 正明

二つ折りの

しろい紙に墨をにじませていると

ロールシャッハテストのように


山や渓流や岩肌がみえ

小さな庵に住む小さな人もみえてくる

今朝はまどから

名も知らぬ小鳥の声が聞こえる

この頃この町に変な野鳥が多くなったと

散歩で逢った老人が話していたが

かれの認知機能は

以前のように正常なままなのだろうか

とはいっても

すでにわたし自身も鏡に映れば

影がゆがんでどこか妖しい


ちいさな鉢で

多肉植物をめでているわたしは

ホモサピエンスのオスとして

すでに生殖機能を失っているのだろうか

さりとて心にはまだまだ春が映りこみ

なまめいて艶なるものを求めている

しろい二の腕のようなもの

長く伸びた指のようなもの

その先の白く飾られた爪

爪に触れる膨らみはじめた桜のつぼみ

肉という言葉の響きになどは

少しうしろめたくて使えず

そのくせ

厚い唇のような葉の

ほんのりとした桑の実いろにみとれ

すこし触れてみたくなる


はるなのに

甘みをおさえた桜餅ではなく

焼いた厚い牛肉を食べている

茶室で抹茶を飲むのではなく

ペットボトルから硬水を飲んでいる

それなのに体の芯では

多くの骨たちが水気を失い

少しずつ鉱物に代わってきているので

やがて肩や胸から針のように骨が突き出してくる

そんな恐怖を夢想している

大きな墨滴が紙に落ちて暗黒星雲になった

星雲がさらにかたちを変えて黒い異形になった

私の変わってゆく姿

結局わたしの命とはこんなものかもしれない

そんなことを昨日からしつこく考えている

この脳も少し変異したらしい

【関連情報】

はるの異変  縦書き : PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

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【孔雀船88号】 台所の結界はどうして破れたか = 望月苑巳

時間には眠りという属性がない

猥雑と孤独が

ただぶらんこのように

うつつうつつ 繰り返すだけの混沌。


トーストが一枚

鋭角な食欲を焼き上げる

妻は目玉焼きを食べながら夕暮れている

台所の結界を踏み越えられない定家卿は

怒ってトーストを投げつけた

シチューに紛れ込んだトマトが

シニカルな笑いを浮かべている

踏み越えられたら戦火は収まるのに

一将功なりて万骨枯る、というわけか。

すると妻が反撃を開始する

仰いで天に愧(は)じず、俯して地に炸(は)じず、でしょう。


たじろぐほどに定家卿は袋小路を曲がる

猥雑が背を向き

いつの間にか孤独が上りがまちに佇んでいる

慌てた定家卿は結界をこじあけ台所に辿り着く

台所は人生の縮図である。


人生はコップの中の水に似ている

「半分しかない」と悲しむ人もいれば

「半分もある」と喜ぶ人もいる

欲と正直のまぜあわせ

水がこぼれた時どう身を処するかで

その人の価値が決まるのだと

いつぞや法師は錫を突いて喝破したな。


定家卿はふてくされて

鍋からこぼれ出た妻を

抱えたまま走りだす

どこへ? さらなる孤独へ?

【関連情報】

台所の結界はどうして破れたか 
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孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

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【孔雀船88号より】 タッカ・シャントリエリ = 森山 恵

夢の峠の草叢にある

分水嶺

腰のあたりに一輪 黒い花が咲いて

黙りこくってゆれる水辺 めくら柳の根方の


あなたはわたしを巡る わたしの地下を巡る

けれど

水湧きたつ場所をあなたは

知らない

(みを隠す水隠れの みずの想い


道を問う君

そこではないの

ほんのすこし横 そこを過ぎてあとは道なりに

まどろんで ふれる

(まぼろしの迷い家の
 

身隠れ

わたしたちは

もう一度ささやき交わし 愛を交わす

花は根を伸ばし

広がり咲く


タッカ・シャントリエリ

かくれ里に群れ咲く花
 
香りたち昇り

たましいはその濃き香りに引き寄せられる

二つの身を離れ

息づかいのみを残して

たましいは
 

【関連情報】

タッカ・シャントリエリ : 縦書き、PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

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【孔雀船88号より】 みづいろ = 浅山泰美


早春の朝ははやく

露に濡れた草ぐさの

まだうすぐらい小径を抜けて

あなたは

旅支度もそこそこに

ゆうべの灯りが

まだ点ったままになっている

ちいさな木の駅から

旅立とうとしていた


氷のようだった手足が

今は空気のように軽くあたたかいので

口笛のひとつも吹きたくなるではないか

そういえば

幼かった頃

一番好きだった色は

水色で

クレヨンはすぐに短くなっていったな

ふいに そんなことを思い出すのは

まだ明けきらぬ空の一角が

あまりにもうつくしい水色に変わりはじめたからか


もう引き返すことのできない小径に

朝の光が射しはじめるまで

影は影のまま

あなたがいなくなれば

あっさりと消えてしまう

この世界にも

モクレンは咲き 小鳥は歌う春はまた巡り来て

やがて

草に紛れた鏡のような

水色の記憶だけが

ひっそりとそこに残されるのだろう

【関連情報】


みづいろ 縦書き ・ PDF

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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「孔雀船88号より」 まだ封じられないものの夜 = 吉貝甚蔵


消せない星は

あらかじめ失われている流星だろうか


森を抜けるためには木立の残像がいる

と 遊牧の民が告げる

砂塵に巻かれながら お前は

この広漠に水滴の走りを見るのか

さしずめ浦のうらぶれた苫屋に

失われた桜を見るように


むしろ通り雨に

砂漠の匂いを嗅ぐ


他人の夢を見ることはできない

と 夢を違えながら夢を語る

夢を売り買いするように

見るを交換する

お前によって夢見られたものが

私である証は傷になる


埋められたのは

季節をしるした文字であり


凍てつくのは発語に震えているからだ

震えているのは

言葉になりたがらない音たちか

音はすりぬける

言葉にはとどまらない だが

追いかけるのも言葉であり


出会うためには

夜をふるわせる星の音階が必要だ


それでも夢の形象が

眠りの先に表れるのなら

影はいつも眠りの背後に宿り

その影にも

お前の夢見た私が私の夢を差しだすのだ

他人の夢を生きるために


目覚めないのは

あらかじめ失われた眠りだからだ

封じられたものが

永遠だ などと思うには

砂も星も流れやすく

よぎるには時の懸崖は深すぎる だが

お前の夢の欠片たちを紡ぐ私の夢の欠片たちが

ざわめく


渡るのだ

記述の砂漠を


【関連情報】


まだ封じられないものの夜 : 縦書き ・ PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
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百名山へチャレンジ。98番目の幌尻岳は全方位の絶景=関本誠一

日時 : 2015年7月9日(木) ~ 12日(日)  3泊4日  晴れ

メンバー : 《すにいかあ倶楽部》 関本誠一、 《山の応援団》 中谷順一、高坂忠行 (計3名)

コース : 【1日目】はバス、タクシーの乗り継ぎで「とよぬか山荘」(泊)

 【2日目】 とよぬか山荘(バス) ⇒ 第2ゲート ~ 取水施設 ~ 幌尻山荘(泊)

【3日目】 幌尻山荘 ~ 幌尻岳 ~ 戸蔦別岳 ~ 幌尻山荘(泊)

【4日目】 幌尻山荘 ~ 第2ゲート(バス) ⇒ とよぬか山荘


            戸蔦別岳山頂にて、後方は幌尻岳


 幌尻岳は、北海道・日高山脈の主峰で、読み方は(ポロシリ)といい、アイヌ語で「大きな山」という意味らしい。
 日本百名山に選ばれており、7~9月には額平川上流にある幌尻山荘がオープンした。全国から3,000人の登山者が押し寄せてくる。

 同山荘は木造2階建てで、食事寝具などのサービスはなく、素泊まり50名の完全予約制となっている。
 山頂付近には、氷河期の痕跡・カール(七つ沼カールは有名)と、ヒグマ、ナキウサギ、クマゲラなど手つかずの自然が沢山残っている。

 百名山を目指す筆者にとって、幌尻岳は最後の難関のひとつとして立ちふさがっていた山(98座目)でもある。


 年初から、不安を抱えながら単独行を考えていたところ、昨年の北海道・羅臼岳でご一緒した吉祥寺のハイキングクラブ《山の応援団》会長の中谷氏から声をかけて頂き、計画には力が入る。

 まずは4月1日からの幌尻山荘の予約を取ることからスタートだ。
 装備や渡渉用具などの準備、共同装備など、事前打ち合わせは何回か行う。途中から《山の応援団》会員の高坂氏が参加となって、三人で出発する。

【1日目】まずは苫小牧駅に集合する。バス、タクシーを乗り継ぎ、「とよぬか山荘」に入る。


【2日目】朝5時に起床する。朝食の後、7時のマイクロバスで出発した。

 一般車の乗り入れが禁止となっている第2ゲートに到着した(8:00)。北電取水施設まで、林道歩くこと2時間を要する。
 ここから額平川右岸の登山道を1時間で、渡渉の地点に到着した。沢靴に履き替え、いよいよ川のなかに踏み出す。

 少雨のせいか、水深は深いところで、膝上くらい。雪解け水にしては、さして冷たくない。しかし水流が結構強くもあり、この時に備えたWストックが、身体の安定に威力を発揮する。

 渡渉を繰り返すこと、約二十数回で、幌尻山荘に到着した(12:30)。まずは濡れた衣服を着替え、宿泊の手続き終えると、小屋外ブルーシートで、夕食の準備を開始した。

 夕食後は、小屋内に寝具を持ち込み、19時に就寝。


 【三日目】 夜明け前の3時に起床。朝食を取ってから4時には出発する。いきなり急登である。続くお花畑のなか、幌尻岳に登頂する。7時30分だった。快晴で、遠くには大雪山から石狩平野、さらに日高山脈まで360度の展望である。

 ……音信不通の携帯も、こごては繋がる。休憩した後、右手に七つ沼カールを見ながら下降していく。戸蔦別(トッタベツ)岳の急斜面を登り返す。
 ここから見る幌尻岳も、カール前景が素晴らしい。小屋へと急斜面の戸蔦別尾根を下る。下りきった所で沢靴に履き替え、渡渉を繰り返し、山荘に戻る(13:30)。

 猛暑のなか、9時間以上のハードな周回コースだ。


【四日目】 迎えのバスに乗るために、午前3時に起床し、4時に出発する。一昨日の逆コースを辿り、第2ゲートへと下山(8:00)。

 昨年に引き続いて、北海道山行を満喫。残された大自然に触れあえただけでも、素晴らしい経験である。山仲間に感謝、感激である。
 下山後は、地元温泉で軽く反省会をおこなう。
 99座目の十勝岳を目指し、移動を開始する。 

           ハイキングサークル「すにいかあ倶楽部」会報№200から転載