寄稿・みんなの作品

【孔雀船101号 詩】  窓に咲く 高島清子

                   
あの窓のカーテンが少し開いて
その顔が今日も外を見ているから
大きく手を振って応えるのが私のやり方だった
するとカーテンは閉まり顔は消える

わたしは遠くから近づきながらもあの窓を見る
今日も顔が咲いているかと
もてあます時間を外を見て暮らす人の明日からを思えば
私はその孤独を少しは思うこともある
カーテンの後ろに隠れる稚拙な含羞も悲しいものだ
あの窓のカーテンとレースの間に咲くのは顔
私はあの顔に向かって大きく手を振る無意味さに気づく

そのように咲けば良い黒い影よ
その人は一歩も歩けないのかも知れず
部屋に籠って安らかに暮らす人か

今日もバスを待つ間あの窓を見た
ここは恥ずかしがり屋の町だから
ここは北関東の純情県民の町だから

平野に立つマンションの窓々のカーテンの隙間に
顔が咲く顔が咲いた咲いている
手を振れば顔は慌てふためいて隠れてしまう
私にも不思議な意地が芽生えて
無意味な癖が楽しみへと変わり始める


「孔雀船」101号「窓に咲く」(高島清子.PDF、縦書き


【関連情報】

 孔雀船は101号の記念号となりました。1971年創刊です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

『志和と幕末』と題された講演会、志和小中学校体育館の於いて = 土岡健太

 2022年11月30日の午後、志和小中学校体育館で中学校PTA教育講演会 ~志和の歴史に学ぶ~ 『志和と幕末』と題された講演会を聴講させてもらいました。

 中学2年、3年の皆さんと一緒なので「勉強会」と言った方が良いでしょう。地域の方も生徒さんたちの後ろに、10数名が参加されておられました。
志和中学 1aDSCN0115 21.JPG

 受付でもコロナ対策はバッチリ。皆さんマスク着用です。
 体育館は小窓を全開したうえ、暖房ヒーターを使われている。一刻も早く収束してほしいものです。

志和中学 aDSCN0130 24.JPG
 
 皆は講演内容を熱心にノートしていました。私は穂高先生を熱心に追っかけて?「西連寺」の講演会以来3年ぶりになります。

 この日の講演は無事に終了し、生徒の皆さんが体育館を去られたあと、穂高先生は地域の皆さんから質問を受けておられました。
 少しでも多くの方に「志和の歴史」を知ってほしいという先生の願いが感じられました。

 こんな貴重な機会を作ってくれた関係者の皆さん、寒風のなか、駐車場の案内などに頑張っておられた皆さん、ありがとうございました。

【追記】

 土岡健太さんは、幕末に活躍された池田徳太郎(浪士隊の創設者・のち新撰組)の末裔です。

 2022年11月30日の午前中の講演(同一の演題)は、小学6年生と中学一年生でした。

【孔雀船100号 詩】  のどけからまし  望月苑巳

夜桜イラスト.jpgさくらは下を向いて咲く

そろりと

人に見上げてもらいたくて

静かに


ぼくの心から出ていってしまった人も

そろりと

咲いたことがありましたね


本郷三丁目駅の

クジラの目のような出口から

春も咲きました

うるうると目頭を押さえて

一歩、二歩、三歩

電車が散ってしまっても

つまづきながら咲きました


あれから長い時が

短い慟哭を越えてゆきましたね

けれど伊勢物語のように

春の心は のどけからまし

というわけにはいかなかったのです


夜になって

夜鬼がでしゃばって

さくらの枝がしなりました

きっと

そんな過去は折ってしまえと思ったのかも知れません


そろりと

地下鉄はぼくを呑み込んで

クジラになりました


*世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平(伊勢物語八十二段)

PDF・縦書き のどけからまし.pdf


【関連情報】

 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

【孔雀船100号 詩】  千人針 苅田 日出美

七度目の年女になってしまった
寅年うまれの女の子は
武運長久
縁起がいいからお願いね

千人針.jpeg真夜中に起こされて
白い晒し木綿に赤い糸で結び目を作らされた
母さんに手を取って教わった
結び目の作り方も知らなかった
五歳の私

『虎は千里行って千里帰る』と縁起良し
千人針の腹巻をしていたら
鉄砲玉にあたらない

赤い結び目ぎっしりの
白い晒しを真っ赤に染めて
ニューギニアで戦死した叔父

結婚して一週間で出征して
骨さえ無かった叔父の
引出しに残されていた
タガログ語の字引が空しい

真夜中に起こされて
時間がないから
あと五枚ほどお願いね
寅年うまれの女の子だった私の
結んで作った赤い糸結びの赤い玉
千人針に心を込めるしかなかったのね
母さんたち

PDF・縦書き 千人針(苅田.pdf

【関連情報】

 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

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【孔雀船100号 詩】 青へ翔ぶ 高島清子

野鳥 1.jpg郭公や鶯や名も知らぬ鳥の声が満ちている朝

私は窓の奥に逃げてジャマイカのコーヒーを淹れ

ひと時の安らぎを飲みながら

危険な隣人となったコロナのことを思った


テレビにはIQ240だという

台湾のオードリー・タンの大顔が映り

私は心は女性なのよと言っている
 
救世主となった今はそのどちらでも差し支えは無いだろう

あの時いち早く世界中のマスクを買い集め国民を救った

超天才の次の言葉を待ちながらテレビは消せない


私は香しいカフェインのせいで詩的脳になる

地球が首に巻いている青い紗のスカーフは

バンアレン帯でありそのまた奥は漆黒の宇宙で

正体不明の暗黒物質だと知ったのだが

そこまでで夢は終りなのだ


私の夢の先のそのまた遠くで

静かにサイコロを振っている者がいる

ひとまず神とすればイメージしやすいので神とすると

台湾の天才も釈迦もキリストも私たちも

神の手が振るサイコロの目で

この世界は神の遊びの庭であると思えば

なんだか嬉しくはないか

君の運命も私の今日も設計図の点に過ぎないとすれば


北半球に六月の匂いが満ちているのに

この頃は人たちの心の枠が少しづれて

無いものをかき集めて無理やり(幸福)と言ったり

当たり前のことにやたら(ありがとう)と言うのには

うんざりである


今朝私の窓を掠めて飛び去った一羽の鳥が

澄んだ声で歌いながら

碧の中へと落ちて行くのを見た

PDF・縦書き 青に翔ぶ(高島.pdf

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 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

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【孔雀船100号 詩】  砥ぐ  中井ひさ子

川沿いのアパートの窓は

冬でも簾をかけたままだ

日暮れがまっすぐ

入り込んでくると

俺は流し台の前に立ち

いつものように
砥石と包丁.jpg包丁と砥石をとりだした


職を転々とした俺の腕に

残ったのは

包丁を砥ぐことだった


左手で押さえる包丁のはらに

女の姿が浮かぶ

何があったわけじゃない

忘れた物を

思い出したように出ていった

砥ぐ手に

隙間からの川風が

やたら冷たい

夕まぐれに

橋一つを違えて渡って行ってしまったか

橋を渡ったらもう帰ってこないだろう


鋭くなる刃先が少しずつ
鈍い怒りに変わっていく

包丁を研ぐたび女を思い出すのか
女を思い出すたび包丁を研ぐのか
今はもうわからない


227−1 砥ぐ(中井.pdf


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 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
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【孔雀船100号 詩】 ロクの来る日 (「詩篇たどりつけない」のためのエスキス) 脇川郁也

日だまりで毛繕いするロク

黒くまるまると太った野良だ

見慣れた景色の中にあるきれいな空が

クロネコの背にも乗っている

黒犬.jpegロクの匂いを嗅ぎつけてか

お向かいに住むビーグル犬のソラちゃんが

けたたましく大きな声で仕事をする

夏みたいな日差しと回る風がさわやかな日


鼻先の白い毛が漱石の髭に似ていて

妻はロクを白ひげと呼んでいる

隣家でおやつに呼ばれるときは

ホワイトソックスの名で通っている

ロクの名とてぼくが勝手に付けたものだから

だれもほんとうのロクに出会うことはない


風が回っている

うっすらと汗ばむ肌を撫で

立ち尽くす木々のあいだをめぐり

消滅への道をただまっすぐに

ためらいながら進んでいく


もう一匹

つきの悪い黒い野良猫がいて

ときどきうちの庭を横切っていく

髭もないし白い靴下もはいていないから

そいつを

ろくでもない猫

と呼ぶ

口からもれる頼りないことばが

かよわい手ざわりだけを残している


ロクが来た日は

何かいいことがありそうな気がして

中空を見上げてみるけれど

彼岸に吹きわたる風が

気配を消してただ回っているだけ

いつまでたってもぼくの声は届かず

どこまで行ってもたどりつけない


そこらじゅうにいる黒い猫は

帰る家を忘れてしまったロクとぼくだ

むかしに見送った小さないのちも

初夏の緑の中でころころとはしゃいでいる


PDF・縦書き ロクの来る日(脇川.pdf


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 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

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【孔雀船100号 詩】 駅 および 短詩三篇    日原 正彦

《  》

おだやかな螺鈿の腹を見せて

雲たちがゆく


闇に汚れた地下列車があかるいホームへすべりこんでくる


地下鉄.jpegその 真上の昼の空と都会の

通奏低音のように


ドアが あき

昨日からのいろいろな顔が降りてくる

明日へのさまざまな後頭部が乗りこんでゆく


吐いて そして吸って

人も 列車も

次の駅へ


終着駅はあるのだろうか


それはあるだろう

でも 地上に這い出た列車は そこで

闇をぶるぶると払い

最後の乗客を降ろしてから


さらに遠く

殻を脱ぎ捨てるようにして 青い空の

さらに 遠く遠くの


見えない終着駅をめざすのだろう

そこで 人びとの

拭い難い 最後の 夢を

降ろすため


《 短詩三篇 》                 

一花

むこうを向いている桔梗ばかりだ

じっと見ていると

顔を静かにたたまれてしまう


それが ある日

こちらを向いている一花があったのだ


目が抱きつかれて
 
涙が出た
  

握手

ひょいとかたむいてきた 一本の

芒と 握手する


何か大いなる音楽が終わったばかりのような

午後の 風のなかで


空に 鍵盤の まぼろし

この 芒の 十一二本くらいある細い指が 秋の

ひかりと かげを

たたいていたんだな


捨てる

飛ぶときは 捨てる

何かを 捨てる

人は その 何かを知らない


鳥たちは とっくの昔に

捨て去っている

「孔雀船」作品(日原.pdf


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【孔雀船100号 詩】 ストリートピアノ 藤井 雅人

雑踏に かすかな響きが裂け目をつくる

地下センターの片隅に降りた

黒い鳥の影が見える

ピアノ.jpeg
(水流は どこから響くのか

(源は どこに在るのか


たどっていた直線の道は

空に浮かびあがり

青の谷間におぼめく


(泉は どこに在るのか

(耳で浸るために 唇で聴くために


分岐する音の繁み

葉ずれの形に波打つ指

ひらかれる森の暗がり


(誰が 水を導いているのか

(分散和音のみなわを湧きあげ


宙に組みあがったフーガの歩み

雲のアルペッジョが空を縁取り

響きを乾いた喉の湾がむかえ


(水は どの心から湧くのか

(響きは いつから地底に在ったのか

PDF・縦書き ストリートピアノ(藤井.pdf


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 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

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イラスト:Googleイラスト・フリーより

【孔雀船100号 詩】 壁 田中圭介

こころに続く帰りの空は寒い

ぺたぺたと四角い箱のなかに駆け込むと

壁が行く手を遮った


スリッパ.png
スリッパは立ち止まる

壁面から呼吸音が聞こえる

今日はここで終わる

ここから先の明日にはまだ誰も行けないのだ

と壁が呟いた

するとスーツの胸元に零れていた言葉が

ざらざらと零れ

意味が剥げ落ちて男は透明になった

そこで腋の臭いシャツは椅子に腰掛ける
今日はどこへ何をしに出かけたのかと

スリッパが魚の目に訊いている

靴のなかが痛かったとだけ応えている

壁は黙ってこちらを見ている

静寂が一人部屋の暗さと共鳴していたらしく

時間が横に広がっている

電気のスイッチがはいると

ひかりは瞬時に壁と直角に交わった

ぼんやりと物語の入り口が浮かんでいて

壁の向こうには言葉のない物語の続きがあって

人の姿の見えないところで

季節は鮮やかに色づいているはずだと

スリッパはぼんやり

蒸れた足の先で揺れている 


身の丈の大きさだけぴったしと

空間を刳り貫いて納まっている縦と横の

暗喩のスクリーン

森が騒めいている見えない風景

答えが返ってこない問うだけの無言の言葉が

映像を探しながら浮遊している

物語のなかで行方不明にならなければ

こちら側に明日の物語もないのだからと

スリッパは足の先から飛び降りて

壁のなかにぺたぺたと歩いて行った

PDF・縦書き壁(田中.pdf

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 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

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