新・温故知新(4-2)「不平等条約締結」は暗殺の狂気を正当化
『日米修好通商条約は、ほんとうに不平等条約なのだろうか』
疑うほどに、陰には怖い仕かけがみえてくる。
高関税率は、国内のいちぶ特権階級や政商をもうけさせる隠れ蓑(みの)になる。国民は高いものを買わさせられる。輸入関税が高いほど、当事者がやたら儲かる構造になってくる。
産業が育っていないときには、あまり低関税だと、国内産業のダメージは大きくなる。
徳川幕府は20%の輸入関税をかけた。これは欧米間の協定とほぼ同じ率である。徳川代表団の優れた能力ともいえる。
6年後に思わぬことが起きた。
長州がしかけた下関戦争(1863年)と馬関戦争(1864年)で、イギリス、フランス、アメリカ、オランダ4国の連合艦隊に惨敗し、多大な賠償責任が日本がわに背負わされてしまったのだ。
毛利家の暴走だが、国家間の損害賠償責任が生じてしまう。それが国際法だ。ペナルティーとして、輸入品が一律5%の低率に押さえられてしまったのだ。
それから4年後に明治時代になると、長州閥の政治家たちは、みずからまいた種で、苦しむ結果となったのだ。ところが卑劣なのは、「徳川政権はハリスとの交渉力がなかった。日本に関税自主権がなかった」と言い、徳川側の輸入関税20%など触れず、無能あつかいにしているのだ。
本末転倒も甚だしい。
下関戦争・馬関戦争さえなければ、日米修好通商条約はなんら不平等条約ではなかったのだ。
同条約には、1872年(明治5年)7月4日に改正とする項目があった。それにもかかわらず、政権をになった薩長の下級藩士たちは英語力と交渉力を持ち合わせていなかった。
なぜならば、戊辰戦争・上野戦争(彰義隊)で有能な一橋家を中心とした旗本たち(現在の霞が関官僚)を殺してしまったからだ。外交交渉団が組めないのだ。
同条約改定を先延ばしにして、輸入関税一律5%のままインフレで、みずから苦しむ結果となった。もっとも苦しむのは民だ。江戸時代以上に農民一揆や騒動が起きた。国民の目を生活苦から、西南戦争、日清戦争、日露戦争、へと求心力の強い戦争国家へと向けさせていった。
日米修好通商条約は、領事裁判権においても、不平等だという。ほんとうだろうか。同条約文を読めば、
『日本人に対し犯罪を犯したアメリカ人は、領事裁判所にてアメリカの国内法に従って裁かれる。アメリカ人に対して犯罪を犯した日本人は、日本の法律によって裁かれる。』
と条文が明記されている。
別段、不平等でなく、むしろ公平である。
江戸時代には、横浜だけでも、(外人墓地に眠っている)、罪のない外国人が14人も暗殺されているのだ。かれらは母国に帰れば、妻子もいる人たちだ。
「それら外国人がなんの罪を犯したというのだろうか。肌が白かっただけだ」
攘夷といっても、実態は無差別テロだ。
(現代でも、尊王攘夷によるテロは、『維新』のための正当な行為だと考えている人は多い)。
一方で、アメリカ人が日本人を殺していない。実害もなかったのに、領事裁判権においては不平等だったと、声高にいう必要などない。なんの不都合もなかったのだから。まさに、作為的に造られたものだ。
長州は禁門の変で、京都の町を3分の1も焼いた。関門海峡で欧米と戦争をし、明治以降は77年間も戦争の主導的な存在だった。
毛利家、長州にはあらゆる面で、戦争で自己顕示したがる体質がある。
最も怖いのは、日米通商条約は不平等条約だと言い、井伊大老の暗殺を正当化していることだ。『維新』という酔った言葉で、攘夷思想を美化し、井伊大老の暗殺も歴史の当然のながれとして取り扱っている。
政治テロ行為を認めている。後世にどんな結果を及ぼしたか。大村益次郎、大久保利通など、次々に暗殺の対象になった。それだけではなかった。
2.26事件、5.15事件へとつながった。『昭和維新』をスローガンにした軍人が内閣総理大臣まで暗殺する世になってしまった。その原点となるのは、『明治維新』の名のもとに井伊大老の暗殺が正当化されたからだ。
テロが政治家に襲いかかれば、戦争への道につながる。2.26事件では、文官・政治家たちがテロリストに恐れをなして軍部批判ができなくなった。軍部指導の下で、太平洋戦争へと導かれていった。
温故知新でふるきを訪ねた時、画一的な評価は信じる前に、疑ってみよう。
この条約を推し進めたのは井伊直弼大老でなく、開国・積極交易派の巨頭の老中・松平忠固(ただかた)である。井伊大老は勅許を優先させよと主張していた。しかし、松平が貿易は国家のためになる条約だと調印させた。
井伊大老が不平等条約を結んだ、と歴史はねつ造された。そして、暗殺が正当化された。
歴史を折り曲げれば、いつしか数十年後、あるいは一世紀、二世紀後に、かたちを変えて出てくる。それが2.26事件、5.15事件だった。
いまなお学校教育の歴史教科書でも、不平等条約を締結したと言い、井伊大老暗殺を正当化している。『締結時点はじつに公平・平等』。その後の馬関戦争に問題があるのだ。不平等条約の締結、という文言は早くに外させたほうがよい。
歪曲された歴史は、国民の将来のためにはならない。偽りは教え込まないほうがよい。