居場所探しの旅 鈴木 晃
サラリーマンと自由業者が高齢化社会になって、逆転するとは思っていなかった。
友人の自由業者は若い時から金回りが良く、車を毎年買い替えたり、バブル時代には各地に支店を出して、派手な温泉旅行の話を聞かされるなどサラリーマン羨望の的だった。
当時の彼に言わせると、厚生年金などは無駄だとバカにしており、貯金に励んでいたようだ。
サラリーマンの私は会社の天引で払っていたので、年金に関心がなかったが、高齢化社会になってみると、厚生年金と国民年金との差が大きいことに驚いた。
友人は年齢とともに、あちこちに痛みが出て病院通いが多く、タクシー代などで貯金が日毎に減っていくとこぼしていた。
そんな彼に、気分転換になると思って、ギャンブル型のデイサービス「ラスベガス」を勧めてみたが、彼は共同生活はむさ苦しいから、デイサービスには行きたくないと受け付けなかった。
高齢者600万人時代と言われる中で、一般的なデイサービスは八割が女性で、折り紙、貼り絵、習字などを楽しんでいる。一方、男性は物足りないのかすぐにやめてしまう。
報道によると、こうした実態を10年以上体験してきた森氏が、高齢男性を対象にしたデイサービスとして、男性の好奇心と射幸心をくすぐるエンターテイメント型デイサービスとして、本場ラスベガスを模したカジノのあるデイサービスを始めた。これが当たり、男性の七割が定着する盛況になった。
設備投資は自腹だが、運営費の90%が公費補助(税金と介護保険料)がもらえるとかで、デイサービス業界では、高齢男性の確保競争が始まっているようだ。しかし面倒な規制があって、足立区のラスベガスは盛況だが、隣の荒川区は、ギャンブル依存症を増やすと全面禁止になっている。国の行政は、各地方自治体に任せて責任をとらないので、大阪はいいが、神戸はダメと統一されていない。
私はまだ要介護の申請をしていないので、入所できないが、居場所探しとして、近所の健康マージャン(個人経営)に入れてもらい、週一回の健康マージャンを楽しんでいる。
ラスベガスとの違いは、ラスベガスは簡単なリクリーエイッションをすると、その施設内だけで通用する疑似通貨をもらい、賭け金としてゲームに勝敗をつけるので、射幸心の満足度が高いが、健康マージャンはすべてナイナイづくしになっている。
マージャンというゲームは、一巡ごとに積る牌によって、どんな役作りをするか、場の流れをみながら、点数を高くするゲームで、理論的には、脳の活性化になると言われている。ところがここが勝負所と思うと、つい欲が出て他人のことを忘れて自己中に陥りやすのが玉にキズだ。
ある日の健康マージャンを再現すると、次のような結末だった。
東一局。私は西(持ち点二六千点)・ドラ八竹(ソウズ)の8巡目:
(18巡目でゲーム終了)
先ず、14枚の配牌を見た時に、ドラもなく、役牌もなく、1000~3000点の配牌だと予想した。それもリーチをかけないと上がれないと冷静だった。
9巡目まできたが、役作りになりそうな牌が来ないので、少しでも点数が増えるようにソウズを集めることに方針転換をした。
それから、10巡目になって、何とかペン七ピン待ちで聴牌(テンパイ)したが、自模(ツモ)りそうもないので、リーチを控えた。(上がれない)
そして、12巡目に六ソウを積り、四ソウを捨てれば、五ソウと八ソウの二面待ちになった。ダマテンでも1000点になるので、リーチを掛けずに一巡待つことにした。(この時も冷静だった)
13巡目になっても、誰も五ソウも八ソウも出さないので、三ピンを振ってリーチを掛けた。(ドラ期待のリーチで欲丸出し状態)
ところが、隣の南家が親から出た二ピンであがり、面前、タンヤオ、平和、ドラドラの満貫(8000点)
で上がって、私はリーチの千点を損した。
(隣の南家の人は冷静だった)
居場所探しと思って健康マージャンをやっているのに、悪い手でも何とか上がろうと欲が抑えられないうちは、居場所探しにならない気がしている。
イラスト:Googleイラスト・フリーより