【寄稿・写真エッセイ】 2016年の「謡」と「演」 = 原田公平
ここ2年間の行動を漢字で表してみると、「書」エッセイ、「話」スピーチ、「演」落語、「撮」写真、「歩」お遍路、 「立」警備、今年はそれに、「謡」・民謡が加わっている。
こんかいは「謡」・「演」の4つを振り返ってみたい。
「謡う」 民謡
ボクと民謡の出会いは、前回のピースボート(2013~14)で民謡を謡う会に参加してから、民謡が好きになった。それまで6年間は、詩吟を習っていたので、これが大いに生かされた。
1つは、民謡のベテランばかり15人(女性10)、女性の先生が三味線、尺八が男性の先生である。ここは月2回で、1回に2曲、自分の好きな民謡が謡える。
他は、船橋市の福祉センターで月2回、50人前後が、みんなで7曲くらい合唱する。プロの原田英昌先生と弟子の女性3人が三味線に、尺八や太鼓を組み合わせたそうそうたるスタッフで、先生が選んだ曲を謡う。
ここの原田先生は元民謡のプロ歌手で、個人教授をしていると知る。
民謡は「こぶし」が難しい。2つのクラブでは謡うだけで、一切指導してくれない。習うならプロに、と今年1月から月3回、先生の自宅へ通い出した。2人の女性が名取を目指し、他に5名の男女だ。
最初は全員で声出しに3曲一緒に謡ってから、個人レッスンに入る。指導をいただけるのは2曲、1曲を2回謡う。
ボクは子供のころから歌謡曲が大好きで、メロディはラジオを数回聞くだけで覚えられた。民謡は難しく「こぶし」が連続し、まったく異なる。先輩に聞くと、プロの唄を耳で聞いて、口に出しての繰り返しだと教わった。
民謡でどうしても謡いたかったのは「新相馬節」、非常に難しい曲から始めた。出だしの♪ハアーーーーーーアアアアアアアアーーーーが命である。
まず、レンタルショップで民謡のCDを借り、ダビングしてプロの「新相馬節」を仕事の行き帰りに繰り返して聞き、家ではイヤホーンで聞きながら同時に声を出して一緒に謡う。
ボクはこの「新相馬節」が好きで、好きで、三味線の前奏、チャチャンチャチャチャチャが始まると、全身が民謡モードになり、♪ハアーーーーーーアアとはいる。歌詞を伸ばしすぎたり、短かったり、音程が狂うと、先生からストップがかかる。そして、一緒に謡ってくれ、とっても親切だ。最初から終わりまで録音して、後で何度も聞く。
「新相馬節」を謡い出してから8か月を過ぎ、ボツボツこれの卒業と思っていた時に、他の曜日の方が、ぼくたちの教室に来た。彼は80歳の名取である。そして、「新相馬節」を謡った。美声と声量、朗々と流れる。謡いこんだ味がにじみ出て聞きほれた。これが民謡の真髄なのだと、あらためて歌謡曲との違いを知った。
そうだ、「新相馬節」をボクの持ち歌にして、もっともっと謡いこんでいこうと思った。
民謡を始めての大発見がある。この春、仲間が謡った「祖谷(いや)の粉ひき唄」、ボクの郷土・徳島の民謡だ。四国山脈の秘境、平家の落人の唄で哀調漂うメロディはいっぺんに好きになった。
先生に秋の同窓会で謡いたいと申し出て、熱心に取り組んだ。先生からOKをもらい、別の民謡クラブで謡ったら、初めて拍手喝采。拍手が、この唄はボクの声にも合っていると教えてくれた。
そして、10月の徳島の同窓会で「祖谷の粉ひき唄」を披露した。(写真)
今、取り組んでいるのが「小諸馬子唄」だ、これは後1年はかかる。
「演」 英語落語
今年一番苦しんだことがある。それは英語落語だ。11月27日の開演日が近づくが、演目「転失気(てんしき)」が覚えられない。英語落語を初めて9年目だが、これは20数分間で、2100語もある。74歳、暗記の難しさを知る。
練習時間はたっぷりあった。
友人に苦しんでいることを話したら、「原田さん、いつも歩いて覚えていたじゃない」と教えられた。そうだ、61歳で退職後、英語・日本のスピーチ、日本語と英語の落語他、暗記を得意としていた。
常に歩きながら覚えていた練習方法をすっかり忘れていた。
そこで、歩きながらに切り替えた。しかし、20分もやると脳がイヤイヤしてくる。ボクが座長である以上、逃げるわけにはいかない。
「転失気」の見せ場は5場面あり、どこをとっても笑わせる。落語の大切なのは、「出だし」をスムーズに、そして「最後のオチ」で笑わせたら成功だ。この部分に集中する。しかし、それさえも四苦八苦、やろうとするほど気が乗らない。
「転失気」は数年前に日本語で演じている。
内容は小坊主・珍念とプライドの高い和尚のやりとり。住職が具合が悪くなり、医者が来て診断、「転失気はありますか」の問いに、住職は転失気を知らないが、知った振りをする。その後で珍念に転失気を調べさす。
だが、誰も知らない、最後は医者に聞いたら、「おなら」だと知る。
珍念は知ったかぶりする和尚に、転失気は酒だと嘘をおしえる。珍念は和尚に物事は、恥をかいて覚えなさいといわれ続け、そこで、ラストに和尚に大恥をかかす。
笑いいっぱいの古典落語だ。
遂に開き直り、英語での丸暗記をあきらめた。場面を想定しながら、自分の知っている英語でジェスチャーを中心にやったら、笑いと拍手で無事に演じることが出きた。
主催者の理事長が、外国人も笑ってくれ、今までで一番よかったといわれ、来年もやると約束してしまった。