「特定秘密保護法」は市民にとっても危険な法律だ ① 田原総一郎
権力者は秘密を持ちたがる。国民に不都合なことは知らさないで隠したがる。これら権力の秘密を暴くのがジャーナリズムである。
国会で審議されている「特定秘密保護法」は、言論・報道にかかわる者を抑え込み、裏からあの手この手で情報収集や取材活動すれば、処罰しようとするものである。
11月24日、東京・文京シビック小ホールで、『特定秘密保護法に反対する 表現者と市民のシンポジウム』が開催された。主催は月刊『創』、後援は日本ペンクラブ他。司会・進行役は篠田博之(『創』編集長)さんである。会場は約350名の定員だが、45分前から整理券が発行されるほど、市民の関心度が高かった。
第一部のパネルディスカッションで発言された主だった方の主張を紹介していきたい。篠田さんが最初に指名したのが、田原総一郎(キャスター)さんだ。
田原さんは、危険な法律だ、と前置してから、
「重要な日本の将来を左右する法律なのに、国会審議が早すぎる。たった2週間しかない。なんで、こんなに審議が早いのか」
自民党は国民が気づかないうちに法律を通そう、と考えている。審議するほど、反対運動が高くなるからだ。
「次に、秘密の定義がない。行政機関の長が、『これが秘密だ』と言えば、秘密になる。この頃の内閣はころころ変わる。大臣は1年か、2年くらいしかもたない。結局は、官僚が恣意(しい)的な考えで、どんどん秘密ができる。官僚は秘密が大好きなんですよ」
諸外国にも秘密保護法があるが、それぞれ監視機関をもっている。米国すらも大統領直轄の監視機関で三重にチェックが行われている。日本ではそのチェック機関が設けられない。こんなバカげた国はない。
国会審議では記録を取らない。昔は記録(紙)をとっても置く場所がないから、記録を取らなかったことがある。いまはIT時代だから、デジタル記録として残せる。なぜ審議を記録として残さないのか。
「国民は知る権利がある。最高でも30年で公開するべきである。それが60年だと言っている」
まして、記録を取らないと公開などできない。
「新聞は特定保護法案に対して、熱心でない。社説でちょこっと書いているだけだ。言論の自由・報道の自由に反する法律だから、反対だとか、政府と強くやり取りするべきだ。それがない」
田原さんは新聞各社の姿勢にも批判の目を向けた。
報道の自由は認めると言っているが、悪質で違法な取材に対しては懲役10年、少なくとも、懲役5年だという。
「ジャーナリストならば、通常やっている取材は全部悪質なんですよ」
田原さんはそう強調してから、
「記者たちはたとえば大臣や官僚の幹部に、あなたの名前は出さないから、とオフレコを前提に情報を取る。財務省はこう言っているとか、外務省はこう言っているとかで報じる。これは共謀ですよ。共謀は5年です」
田原さんはTV座談会などで総理や大臣に対して、矛盾があると、それを突く。相手は弁解する。
「弁解など聞きたくないよ、国民の前に、真実、本当のことをしゃべるべきだ、と迫る。これは脅迫ですよ。そうなると懲役10年の刑になる」
かつて西山事件があった。毎日新聞の西山記者が外務省の女性と仲良くなって、沖縄返還の情報を取り、それを報じたのだ。貴重な情報を世間に知らせたのに、裁判では女性秘書官と情を通じたとして有罪になった。
「ものすごく重要な情報で、日本政府が沖縄返還で、アメリカに金を払った。つまり、日本はアメリカからお金で沖縄を買った。外務省はずっと否定し続けた。それを暴いた」
ふつうは新聞記者は各省庁の秘書官と仲良くなり、飯を食べに行く。局長、事務次官、大臣とかに接する前に、秘書官から大体の情報を聞いてから、上層部に会う。これら「情を通じる」と有罪になる
「政府というものは隠すものなんですよ」
田原さんはそう強調して同法案に対して強く反対した。