【孔雀船100号 詩】 千人針 苅田 日出美
更新日:2022年8月30日
七度目の年女になってしまった
寅年うまれの女の子は
武運長久
縁起がいいからお願いね
真夜中に起こされて
白い晒し木綿に赤い糸で結び目を作らされた
母さんに手を取って教わった
結び目の作り方も知らなかった
五歳の私
『虎は千里行って千里帰る』と縁起良し
千人針の腹巻をしていたら
鉄砲玉にあたらない
赤い結び目ぎっしりの
白い晒しを真っ赤に染めて
ニューギニアで戦死した叔父
結婚して一週間で出征して
骨さえ無かった叔父の
引出しに残されていた
タガログ語の字引が空しい
真夜中に起こされて
時間がないから
あと五枚ほどお願いね
寅年うまれの女の子だった私の
結んで作った赤い糸結びの赤い玉
千人針に心を込めるしかなかったのね
母さんたち
【関連情報】
孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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イラスト:Googleイラスト・フリーより