A035-歴史の旅・真実とロマンをもとめて

坂本龍馬関係者よ、「龍馬の真贋ならば」、「芸藩志・第81巻」を読みたまえ(下)

 坂本龍馬は幕末・維新史にどの程度の関わりの人物だったのだろうか。

 歴史を後ろからみる人は、「薩長同盟」を重要視する。龍馬が薩長同盟の成立に尽力したから、第二次長州征討が勝利に導いたとする。
 これは事実誤認に等しい。これを検証してみたい。


 まずは長州征伐という用語が、最近は消されつつある。
 孝明天皇が禁門の変から、朝敵の毛利家を討て、という命令したものだ。毛利家と天皇家の戦い。この構図からいえば、天皇軍は古来から征伐なのだ。「幕長戦争」という表現は、歴史のねつ造用語である。
 
 德川政権が望んだ戦争ではない。京都の一会桑が、孝明天皇に逆らえず、西側の諸藩に出陣を呼びかけたもの。大藩の広島藩と薩摩藩は、ともに出兵拒否に出た。他にも諸々の藩が非戦の態度を取ったが、幕府はペナルティーを課したわけでもない。


 島津家は経済の損得勘定で動く大藩だ。浪人・龍馬に云々されて、77万石の大藩・島津家の政治が、儲かりもしない戦争に動くはずがない。


 島津家は経済的な視点で考えないと、歴史を見誤る。
 同藩は商人にたいして250年の無利息・分割払いを強要する。薩英戦争ではイギリスに支払う賠償金を徳川家から借りた。いつまで経ってもその金は返さず、結果として頬被りする。
 鹿児島の鋳造工場で大量の贋金をつくり、イギリスから軍艦・兵器を購入し、メッキ2分金で払う。明治2年にはたいへんな外交問題になる。(木戸孝允から、薩摩は贋金で日本を全身不随にする気か、と叱責されているくらいだ)。


 木戸孝允が鉄砲密売人の龍馬に、最新武器の斡旋を依頼した。ところが、龍馬からなんら返事がない。龍馬に苛立った木戸の判断で、伊藤俊輔(博文)と井上聞多(馨)を長崎に送り込み、薩摩から武器を購入させた。

 慶応2年の薩摩は贋金でイギリスから武器を買っていたから、儲かりさえすれば、幕府に隠れて、どの藩にでも密売していた。長州も例外ではなかったのだ。薩摩がわの資料によると、別段、龍馬から斡旋がなかった。
 
 つまり、龍馬は薩長の仲介におおきな影響は与えていない。 

 長州藩が最新兵器で幕府軍に勝ったというが、これまた怪しい。
 大村益次郎が浜田、さらに石見まで進軍できたのは、津和野藩が「うちで戦わないでくれ」と道案内し、通り抜けさせたから、スルーできたのだ。

 芸州口の戦いでも、最初は彦根・越後高田に襲いかかったが、広島城下まで行くと、こんどは紀州軍や幕府軍の最新部隊に追い返されていく。幕府海軍から艦砲射撃を打ちこまれてしまい、長州藩兵は岩国まで逃げ帰った。

 ここらは芸藩志にくわしく乗っている。幕府海軍の軍艦の船名までも、明確に記している。

 城を自焼した小倉軍だったが、9月の宮島の和平協定のあとも、長州藩兵と戦いつづけている。

 龍馬の橋渡しで、長州が薩摩から最新兵器を購入できた。だから、幕府に大勝ちしたように記すのは、歴史の真実からかなり外れている。


 これらをまとめて単純化すれば、島津家は闇で毛利家に武器を売って儲けたけれど、出兵したところで、天皇家からも徳川家からも、恩賞や戦費は出るわけではないし、「当藩は出兵しません」と老中・板倉勝静に捻じ込んだにすぎない。

 慶応2年の薩摩は、長州あいてに儲かったけれど、無駄な金を使わなかった。それ以上でも、それ以下でもない。


 龍馬は、慶応3年10月の大政奉還にはまったく関わってない。
 芸藩志を精読すれば、広島藩の大政奉還が後藤象二郎が横奪したと、推移を克明に記している。そこには龍馬の入る余地などみじんもない。

 ちなみに、薩摩藩の小松帯刀や西郷隆盛も、土佐藩を信用していない。薩土盟約が崩れて、後藤が抜け駆けで、板倉勝静に大政奉還の建白書を出したものだと見なしている。


 ただ、慶応3年11月に龍馬が実名で「新政府綱領八策」に署名している。当時の仕来りからすれば、重要な会談には書役(秘書役)がいる。それが龍馬だったのだろう。


 明治新政府の方針づくりの場に龍馬がいた。この事実は侮れないし、明治維新にむかって存在感のある人物だった、それには間違いないだろう。
 

 写真は、穂高健一「坂本龍馬と瀬戸内海」の連載・第3回の1ページより

         
           【了】

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