A035-歴史の旅・真実とロマンをもとめて

【近代史革命】幕末には『大統領制を導入せよ』と主張した優秀な勘定奉行がいた(下)

 明治時代は、武士社会が解体された。

 政府は、失業問題の処理に失敗し、長州奇兵隊の虐殺、萩の乱、佐賀の乱、西南戦争と各地で内乱が発生する。
 明治10年まで、日本人同志が殺し合う社会となった。その前後から、台湾、朝鮮、中国、満州、と侵略軍事主義に代わっていく。かたや、徴兵制が徹底された。戦争の時代に入る。民の目線の政治から遠ざかるばかりである。
 
 宗教面ではキリスト教弾圧が、江戸時代よりも目にあまる虐殺となった。農民一揆も、徳川時代よりも多くなった。

 徳川時代は245年間の政権を支える有能な人材(昌平黌出身者)が多かった。秀才の外交官がいる。洋学(英・仏・オランダ語)も堪能だから、丁々発止と外交交渉はできた。
 ところが、明治政府は、通商条約の改定に40年間もかかっている。無能さらけ出している。太平洋戦争の終焉まで、77年間しか維持できなかった。
 どちらから学ぶべきものが多いのか。ここらはいちど熟慮してみる必要がある。

 能力の低い政治家は、まずなにを考えるか、「自分たちの存在を大きく見せる。過去を大きく見せる」、「都合が良い実績は誇大して残す。不都合を消す」と、国民の目をそらせていく。あるいはねつ造を信じ込ませる。

 現代でも、極度にコンプレックスが強い人は、自分を大きく見せたがる。きらびやかに衣服を着飾り、収入以上の高級車に乗り、高級マンションにすむ。これに類似している。


 薩長閥、長州閥の政治家は、御用学者に過去の自慢話をでっち上げてもらう。それを義務教育のなかで浸透させる。
 たとえば、偽詔書(にせ・しょうしょ)『薩長倒幕』という言葉をねつ造させる。薩長の勇ましさを信じて疑わいない軍国少年が生まれる。
 やがて、成人になれば、軍事侵略思想、徴兵制による国家総動員は善だと思う。祭政一致による国家のために死ぬのは美学だと信じ込む。
 御用学者が太鼓をたたきまくり、悲しいかな太平洋戦争へと突入していった。

 御用学者がつくった標語、『徳川は封建制で、明治から近代化』、こんなのは大ウソである。

 徳川家は、鎖国政策を捨てて、開国で海外貿易による近代化を推し進めた。さらに、大名支配を止めて郡県制(現代の都道府県)をめざしていた。そのうえ、大統領制へと声高に叫びはじめた有能なエリート官僚がいた。
 松平春嶽などは、大名制度がなくなれば、わが身が危ない。その官僚の実行力は抜群だし、春嶽は怯えたと記録されている。


 貿易拡大と外資導入は国を豊かにする。天皇は徳川(家康)に政権を任せている。それなのに京都から、幕閣の政治に口出ししてくる。
「天皇が勅許した阿部正弘の和親条約までさかのぼって、条約を破棄しろ、という。国際信義にも劣る。一ツ橋慶喜をたたきつけて、横浜港を閉港させると、外国奉行を使節団にしてフランスに送り込ませる」
 そんな天皇は承久の乱のように島流しにしろ。そして、わが国に大統領制を導入せよ、と主張した勘定奉行がいた。

 明治の御用学者は、こんな理論が徳川家で渦巻いたとは教えてくれない。自称歴史通の方は、それがだれだか、と歴史を訪ね歩けば、「えっ、徳川家は尊王でなく、大統領制だったの」とおどろくだろう。「徳川は無能だ」と決め込んだ薩長史観の一面からみる歴史の怖さを知るだろう。

 ヒントは、幕末にもっとも近代化を推し進めた勘定奉行である。江戸時代にワシントンで現職大統領にも会っている数少ない日本人だ。国務大臣と日米の通貨交換比率が不公平だと、小判、銀貨幣を持ち込み、化学分析で実証して見せて、アメリカ人を驚かせたと、ニューヨークタイムスに載っている。

 鳥羽伏見の戦いのあと、慶喜が大坂城から江戸に逃げ帰ってきたとき、「それでも将軍か」、「徳川家をつぶすつもりか」と胸ぐらをつかんだ人物である。

 徳川家がみずから封建制を脱却し、現代とおなじ資本主義社会へと1歩も、2歩も、踏み出していた事実がかるだろう。
 近代化は徳川家からである。明治の政治家は、その物まねからスタートした。
                              
                                  【了】
                           

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