A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

拡がる趣味の世界 石川 通敬 

「百歳クラブ」内のスマホ同好会に入会して間もなく一年になる。

 初参加に際し、会のホストから説明されたのは、「ZOOMの背景は何にしますか。好きなものを使ってください」だ。

 予備知識がなかった私は、あわてて手持ちのアルバムから目についた写真を3枚取り出して、これまで使ってきた。
 この先、何事にも凝る性分の私は、段々背景を定期的に入れ替えたいとの思いが募っていった。そんななかで思いだしたのが、エッセイ作品で取り上げた「癒し系 趣味―鳥」だ。

 まず考えたのは、写真のイメージだ。次の二点を反映させたものにすること。
 その一つは、美しさ、面白さなど見て楽しいもの。それには、どんな鳥を狙うのがよいかだ。

 これまで我が家の庭に飛来した野鳥は19種だ。その中で毎日押し寄せる常連は、スズメ、シジュウカラ、メジロとワカケインコ(正式名 ワカケホンセイインコ)の4種。これらが候補だ。
次に取り入れたいのが、鳥が集まってくる場所だ。

2022.3.22.004.jpg これは30年ほど前に、「庭に小鳥を」という小冊子を、散歩の途中で見つけたことが発端となり作られたものだ。
 その冊子は、我が家の近くにあった鳥獣保護財団の売店にあった。現在の環境は同書のアドバイスに沿って作られている。
 それに加え運がよかったのは、その店に、英国から輸入された赤い屋根がついているかわいらしいえさ台といかにもイギリスを彷彿とさせる濃いグリーン色の鳥かごが売りに出されていたことだ。

 私はこの3点を買い、小さい庭の片すみに、野鳥がやってくる場所を作ったという歴史がある。
 こんなイメージをもって庭にでると、写真撮影は簡単でないとすぐわかった。鳥たちは群がり、争って夢中でそれぞれ好みのえさをつついていたが、私の動きを察知すると、パッと一斉に飛び立ち、なかなか戻ってこない。
 そこで一計を案じ駐車している車に乗り、彼らが気付かないところまで近づき、スマホのレンズを最大限望遠に設定して待つことにした。
 
 撮影場所の環境は、日当たりもよく、えさ台の赤い屋根と濃い緑色の鳥かごが庭木を背景にうまく収まっている。環境は申し分なく美しい。
 問題はどの集団を撮るかだ。しばらく観察するうち狙いが定まった。それはワカケインコだ。スズメ、シジュウカラ、メジロは警戒心が強く、私が庭に出たあと姿を消したきりだ。よく考えると、仮に運よく撮影のチャンスが見つかっても、個体が小さく、スマホのカメラの性能では迫力ある写真は撮れないはずだと気が付いた。


 そんなことを考えながら待っていると、ワカケが戻ってきた。この鳥は、もともと中国南部からインドに生息するものだが、日本にはペットとして輸入されてきた。それが野生化し、大田区の東京工大あたりを中心に大きな群れになっているそうだ。体長は4〇センチと大きく、首回りに細い茶色の輪があり、目の周りが黄色、全身が鮮やかな明るい緑色、長い尾が水色と美しい。

 東急ハンズでは、ペットとして一羽3万から5万円で売られているものだ。それがタダで自宅の庭に来てくれるのだから有難い話だ。

 スズメ、メジロ等の小鳥に比べるとずば抜けて大きく、ワカケがくると彼らは追い出される。気が付くと、この日はえさ台に2羽、鳥かごに2羽ずつ仲良く湯然としてえさを啄んでいた。
 周囲にはスズメも目白もいない。シジュウカラも影を潜めている。しかも車内からではあるが、私が撮影を始めても慌てて逃げないのがうれしい。


 私は夢中で30数枚ほど写真を撮った。撮影がすむと早速書斎に戻りZOOMの背景に使える写真を探した。
 結果は上々イメージ通りの写真が数枚見つかった。後はこの中から一枚選び、これをパソコンにインストールする作業だけとなった。
 しかしこれが問題だった。スマホ同好会の皆さんは、簡単に自分で出来ると言っておられたが、物の数分で私にはできない作業であることがわかった。

 こうした難問に遭遇した時の助っ人が、私の場合NTTのサポートセンターだ。
 今回も早速NTTに電話して助けてもらった。写真の最終処理を含めプロでも二時間以上の時間がかかったが、イメージ通りの画像を無事インストールされた。突然の思い付きだったが、この試みは大成功裏に終わった。

 背景写真作成案の立案、撮影からパソコンへのインストール完了までには、合計丸一日もかかった。しかし次のスマホ同好会で、新しい背景を皆さんに披露できることになった達成感と歓びはひとしおだ。

 それ以上にうれしいのは、これまでほとんど取り扱いに関心がなかったスマホを活用した写真の扱いに大いに興味がわいたことだ。
 写真撮影とその加工・処理が自分の趣味の一つに加わると遅ればせながら人生の楽しみが一つ加わることになる。

             イラスト:Googleイラスト・フリーより     

                           了

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