A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

近所の小さな本屋 井上 清彦

数年前に、我が家から歩いて5分ほどの青梅街道沿いに、小さな本屋ができた。当時、新しい本屋ができるらしいとの情報は、地元の「おとこのおしゃべり会」仲間で話題になっていた。

オープンし早速見にゆくと、入り口の上の濃紺のテントに「本屋 Title」と白いロゴの横書きで店名が書いてある。色もロゴも洒落ている、間口2間弱のこじんまりした本屋だ。

2021.10.10.honya.png当時、開店までの経緯を店主がブログで書いていた。彼は大手の書店に勤務していたが、「こんな本屋が近くにあったらいいな」とのコンセプトで、色々探し、荻窪駅から歩いて10分ほどの青梅街道沿いの古民家を選んで改装し開店に至ったという。
2階もあって、急勾配の階段を登ると展示会を開けるスペースがある。1階の本屋の奥には、小さなカフェも設けられてある。コンパクトながら魅力ある間取りだ。

近所の青梅街道沿いには、物心着いた頃から、2軒の小さな本屋があり、文芸書や学習参考書を買っていた。
その後、荻窪駅の再開発があり、戦後のマーケット街が「タウンセブン」の大型ビルに変身し、更にと駅ビル「ルミネ」の大型施設が誕生した。
それぞれ、ビル内に大型書店が入った。この影響をもろに受け、私が通いなれた2つの個人書店は姿を消してしまった。
書籍販売は、大型書店やアマゾンなどのネット販売への流れに抗して、小さな書店に注目が集まり、全国アチラコチラに誕生しているという。私の行動範囲では、歩いて数分の本屋「タイトル」がそうだ。

置いてある書籍は、店主の意向が色濃く出ている。マンガ本や風俗週刊誌のたぐいは置いていない。文学は詩歌や評論・哲学・思想関係が翻訳本を含めて目につく。
名著はもちろんのこと、近刊の書籍も置いてある。もちろん、文庫本もハードカバー本と同じ傾向で、限られたスペースの中でうまく揃えている。

コロナ禍を反映して、身の回りのこと、住まいや暮らしに関連する雑誌なども取り込んでいる。しかも店主自ら本を3冊ほど出版している。今日「タイトル」のホームページを訪問したら、店主の著書『本屋、はじめました』が文庫本に加わったという。

はっきり言って、私の好みの書籍を集めた心地よい空間だ。外出の際には、つい立ち寄りたくなり、ぐるりと一周りして、新しい書籍が入っていないかチェックしたりする魅力の空間であり、至福の時間だ。大型書店では、ついぞお目にかかれない、小冊子やスケッチ集も置いてあり、つい手にとってページを開いてしまう。
私のすきな登山や紀行本もさりげなく置いてあって、満足度が高い。


本屋への寄り道で、帰宅するのが少し遅くなることがある。毎月第1木曜日午前9時から開催される「西荻句会」は、昼前に終わるので、自転車での帰り道に、つい立ち寄ってしまう。

滞在時間が長引くと、決まって妻から「午前中に終わるのに、遅いわね。どこ行っていたの」と問われるが、(デートをしているわけでもないのに)「ううん」とか言ってなんとなくはぐらかしてしまう。

駅ビルの大型書店で買える値の張る本や置いていない本は、「タイトル」に頼んで取り寄せる。その背景には40歳台半ばあたりの「タイトル」店主を応援したい気持ちがある。彼は、キャッシャーに座って、いつも横に置いたパソコンに向かってキーを叩いている。

昨日、関東地方や東北地方が、今日は、近畿や東海地方が梅雨開けした。とたんに暑くなって、クーラーの出番だ。東京は、週初めから4回目の「緊急事態宣言」がでた。不要不況の外出は避けよとのいつものお達しだ。

我が家の厳しいコロナ対策ファーストである妻から「パソコンに向かってばかりだと、そのうち歩けなくなるわよ」と口を酸っぱく言われている。大谷選手の大活躍の大リーグも再開し、東京オリンピックは来週開幕する。
自宅観戦のステイホームの中でも、コロナだけでなく、熱中症に注意して本屋「タイトル」を訪れよう。そして、書籍の魅力的な「タイトル」を眺めながら、「本の世界」に浸ろう。

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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