【寄稿・エッセイ】 うがいと手洗い 筒井 隆一
池袋の居酒屋、「土風炉」を、仲間7人で利用した時のことだ。
「お客様、カウンターにあるアルコール液で、手を消毒していただかないと、お店に入れません」
店のお姉さんに、甲高い声で注意された。この店には、今まで何度も来ている。アルコール消毒液のボトルは見かけたが、消毒しなければ店に入れない、と言われたのは初めてである。
中国武漢で発生した、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、手洗い、うがい、マスク着用が、やかましく言われるようになった。
インフルエンザ予防に対する意識が、今までになく高まっている。スーパーやドラッグストアでの、マスクの品不足、売り切れを見ても、それがよくわかる。
我々が子供の頃、学校から家に戻ると、母親から
「外から帰ったら、忘れずにうがいと手洗いをするのよ」と言われたのを思い出すが、真面目にやった覚えはない。また、この年になっても理屈っぽさが直らず、うがいや手洗いが、ウイルス予防にどれだけ効果があるか分からないので、気合を入れてやる気がしない。
先週、大手製薬会社の研究所長を長く務めた、小・中学時代の同級生と、飲んで語る機会があった。ウイルスについても詳しい男だ。
「お前さんのような、理屈っぽい人間に分かってもらうのは難しいな。確かにうがい、手洗いの効果を、定量的に示す研究成果は無いよ。また、うがいや手洗いをするのは、日本、韓国など東アジアのごく限られた地域に限られていて、世界のほとんどの国には、そんな習慣は無いんだ」
「どれも、やらないよりはよい、というものばかりじゃないか。俺のように理屈っぽい人間にも分かるような、ウイルス予防効果の定量的な説明が欲しいね。
TVに、毎日入れ替わり立ち替わりで、ウイルスの専門家と称する、大学医学部の教授やら厚生労働省のOBが顔を出し、『予防はやる必要がある』と言う。
ただ、うがいや手洗いを、どの時点でどれだけやれば、どれだけの効果がある、と明確に言い切る人はいない。『やらないよりはいい』という話で終わっている」
「マスクにしても、感染予防の実験室レベルの研究はされているが、一般的な環境でのインフルエンザ予防効果についての研究は、あまり進んでいないんだ」
「確かに公共交通機関内での注意、着脱の仕方、使い捨てか二度使いか、などマスクの具体的な使い方も、千差万別だからな」
その道の専門家と直接話をして、ウイルスに関しては、まだまだ解明が進んでいないことを知った。
高齢者の仲間入りをした我々、どこまで効果があるか分からないが、流行前のワクチン接種、外出後のうがいと手洗い、十分な休養、バランスの取れた栄養と水分の摂取などを積極的に心がけ、自衛するしかない、と悟った。
また、インフルエンザは、これらの「他からの感染予防」と同時に、「自分が他に感染させない予防」が重要だと思う。周りの人に対するマナーを守る必要があるのだ。
電車やバスの中で、マスクを着けずに、大きなくしゃみや咳をしているおじさんがいる。自分ではなく、その人自身に、マスクをつけてもらわねばならないが、強制するわけにもいかない。車内トラブルの原因になってしまう。
一人ひとりが、インフルエンザ予防に心がけるしか、方法はないのだ。
イラスト:Googleイラスト・フリーより