A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

コストコ•カークランド 遠矢 慶子

 30年前、初めて夫とアメリカへ行った。

 ワシントン州シアトルから車で40分のカークランドに、オズボーン夫妻を訪ねた。彼らは、前の年に、我が家に一週間滞在した関係で、1年ぶりの再会は懐かしく、嬉しかった。ミセスは、太った大きい体一杯に、その喜びを表わし、両手を大きく広げて迎えてくれた。

 カークランドは、アメリカで初めてヨットハーバーが出来た海辺の町だ。
 毎日、車で川のある別荘や、あちこちと観光案内をしてもらった。
 ある日「今日はスーパーに行きましょう」
 と、連れて行かれたのが、大型スーパーコストコだった。


 体育館のようなドームのような建物、中は一面に広がるデパートのような、大規模の売り場のある平屋の建物。あまりの大きさ、広さにびっくりした。
「グレート!」
「ヒュージ!」
 と、私の知っている(大きい)という単語が思わず口から出た。

 エデイー夫人は、「驚いただろう!」と、私達のびっくりする様子に、満足げに胸を張って喜ぶ。
いきなり大国アメリカを見せつけられた。

 胸の高さ位はある大きなカートを押して、天井のバカ高い売り場を歩く。カートは子供が五、六人は乗れる大きさだ。
 実際、カートに子供を3人乗せて買い物をしているファミリーもいた。売り場の広さと品物の種類の多さ、大きな段ボール箱が、レンガのように高く、天井まで積んであり、あの上の段ボールはどうやって取り出すのだろう。

 野菜、果物は段ボール単位で買う。大きな肉のかたまり、カニの足の束、鮭一匹、人間が食べる量とは思えない大量売りに、一瞬たじろいでしまう。
 大箱に入った派手なデコレーションのケーキ類、ロールパンは200個単位でビニール袋に入っている。まるでサンタクロースの持つ袋のようだ。

 衣類から電気製品、食器、皮製品、宝石と、食品スーパーというよりは、店員のいないデパートだ。
買い物客はそれらを、慣れた手つきで大型カートに、溢れんばかりに積み込んでいる。
 確かにすべて大量だが、安さには、更に驚く。

 なんと私達も、天井につけるプロペラファンをつい買ってしまった。

 30年前に行ったアメリカで、びっくり仰天したコストコが、日本でも同じ規模のスーパーで、広がりつつある。
 1999年からコストコが日本に参入し、今や、全国30店舗を構えて居る。

 私の住む葉山町も、日本で初めてヨットハーバーが出来た場所で、海を目の前にして、入江になったハーバーと、どこか似ている。

 友人に誘われ、車で横浜のコストコへむかった。逗子の山を越え金沢八景に出る。金沢八景は都市計画が良くされている町で、広い道路、幅の広いグリーンベルトと、車にやさしい道路だ。30分ほどで会員制のコストコに到着、会員は、2人まで友人を同伴出来る。

 私達3人は、それぞれ大きなカートを引いて自由に買い物をして、時間を決めて、レジの前で落ち合うことにした。
 アメリカで出会ったのと同じ、胸まである大型のカートを引く。
 大量のトイレットペーパー、菓子類、果物、野菜、缶詰め、鶏の丸焼きを、カートに入れても、底の方に小さく収まっている。レジで精算すると1人3万円位、普段のスーパーの買い物よりかなり多い。二階の広い駐車場に、がらがらと、3台のカートを引いて行き、車に積み込む。見境なく三人が買った品物は、トランクと後部座席の半分には収まらない。

 3人で、顔を見合わせ、呆れた顔で、
「どうしよう!」
 上に上にと積み込んで、膝の上にも乗せて、帰ることにした。
 それぞれ三軒の家に運び込むのも、また一仕事だ。
 何でもかんでも、その安さと量に、見境もなくカートに入れてしまう人間の心理を上手く捉えている。
どの段ボール箱にもKIRKLANDの英語の文字が付いているのを見つけ、30年前に訪ねたカークランドが、コストコの発祥の地だと初めて知った。


 海辺のハーバーのある小さな町が、世界を制する大型スーパーを作ったのには驚き、感心した。
カークランドのオズボーン夫妻も亡くなられた。
 コストコ•カークランドが、日本に進出し、30店舗もあると知ったら、彼らも、どんな顔をして、喜び、得意になったことか。
 世界はどんどんボーダーレスになって来ていると痛感した。


イラスト:Googleイラスト・フリーより

「元気100教室 エッセイ・オピニオン」トップへ戻る