元気100教室 エッセイ・オピニオン

7月のつぶやき 桑田 冨三子

 7月は、七夕に詩歌を短冊にかいてそなえる月だから文月、夜は月が明るく、すずやかだから涼月ともいうそうだ。

 昨日は、わたしの誕生日だった。傘寿のお祝いと書かれたカードがついた花束が届いた。息子家族からだった。孫の佳凜から電話が来た。
「お誕生日おめでとうございます。ねエ、オーミ(ドイツ語・お婆の意)。オーミは、ほんとに30なの?」
 声のトーンが、いかにも訝しげだ。
 電話の向こうは、さぞかしアンビリーバブルといいたげな顔付きだろうと想像し、思わず笑ってしまった。
「3年生じゃァ、未だ傘という漢字、習ってないよね」

 夕方からイル・デ―ヴの「魂のうた」リサイタルに出かけて行った。
 イル・デ―ヴは、4人の男性ヴォーカルで全員、主役級のトップオペラ歌手である。
 前半は一人づつのソロであったが、後半は、かもめ、サボテンの花とか懐かしい昭和ソングス、特攻隊員への鎮魂、復興、未来の子供たちへ、など、「魂のうた」と名付けただけあって、内面的メッセージがよく伝わってきた。
 輝かしい歌声や、極上の男声合も、大変、楽しめるものだった。

 特に最後がよかった。
 それはイル・デ―ヴ版アレンジ・本邦初演の「花は咲く」であった。歌の最後の歌詞、いつかは生まれる君のために・・・、私は何を残しただろう、は何度も繰り返された。
 山下浩二のバリトンの響きは素晴らしく、望月哲也の振るえる抒情的テノールは、心の琴線にふれた。会場の人々はみな心を奪われ、感動で魂を揺さぶられた。

 鳴りやまぬ喝采の中に、壇上の司会者は一人のうら若き女性を見つけて、皆に紹介した。それは、今歌った歌、あの3.11の「花は咲く」の作曲者・菅野ようこさんであった。日本だけでなく、世界の人々を感動に導いた歌の作曲者は、謙遜で美しい、しなやかな人だった。

 久しぶりに感動したコンサートが終わり、家へかえって一人に戻ると、なんだかあの歌が、あの歌詞が、いつまでも心に残っている。

 80年も生きてきたわたしは一体、何を残したのだろうか?これは、かなりきつい問いかけだ。


 自然界の生き物は皆、子孫を残すと死んでしまう。
 生まれた川に戻ってきて産卵を済ませた鮭が、すぐ死んでしまうのを見たことがある。子孫を残せば、それで生きる役目は終わるのだ。
 生殖を済ませた後でも長く生き残っているのは、人間だけらしい。特に女性は閉経後も、とても長く生きることが出来る。進化論学者が言ったのを聞いたことがある。
 人間という種が長生き出来るようになったのは、それが種にとって有利だからです。その種にとって有利なことだけが、進化するのを許されるのです。

 フウン、そうなのか。
 でも、長生きすることが人間という種にとって有利とは、一体どういうことなのだろうか?


 進化論学者は、こうも言っていた。子どもを産んで良く育てる。
 これは人間という種にとって大事なこと。でも子どもの代だけでは心配だ。その子供がちゃんとまた子供を産んでよく育てられるかまで、見守る必要があるのです。
 だから、我々は、働く息子夫婦の孫の世話を引き受けるというのは、長生きするようになった進化の重要な要素なのです。 

                       完

              イラスト:Googleイラスト・フリーより

「元気100教室 エッセイ・オピニオン」トップへ戻る