シャンパンの日々 = 遠矢 慶子
トランプ大統領と、中国の習近平国家主席の初めての首脳会談がアメリカフロリダ州パームビーチで開催された。パームビーチの強い日差しの中を二人が仲良く歩く姿がテレビで映し出された。
12年前、パームビーチで過ごした夢のような毎日を私はふっと思い出した。
アメリカの4か所を、四週間巡るシニアのホームステイのプログラムで、最後の訪問が、フロリダ州のパームビーチだった。
背の高い椰子の木々が両側に並んだ、ハイウエイを30分ほど走ると、ジャネットの家があるという。アメリカはどこへ行っても、起伏がなく平地で広い。
パームビーチは、その広さの中に、南国の紺碧の空と海が広がる、明るい洗練された雰囲気の素敵な町だった。一軒が何千坪はある家々は皆平屋で、前庭が広がる。
ジャネットの家も入り口から家まで、車で走るほどの距離がある。玄関に入ると広いリビングのガラス戸越しに、大きなプールが見えた。
プールの周りにはまぶしいほど、白いパラソルと寝椅子が置かれている。
ジャネットのご主人は歯医者で、医師免許の都合でフロリダでは開業出来きず、隣のサウスカロライナ州で開業し、週末だけ帰って来る。
子供の居ないジャネットは、大きな家に一人で住み、好きなゴルフ三昧の毎日だ。きれいに片付いた家の中も、手伝いが来て掃除をする。
「このプールで毎日泳ぐの?」
「私はほとんどプールに入らないの、使うのは主人が帰ってきてパーテーする時ぐらいかしら」
ちょうどプール掃除の若者が来て、掃除をしていた。庭掃除のおばさんたち三人も働いている。
「けいこは、いつでも泳いで。でも、泳ぐ暇があるかな」
プールの奥の林には、南国特有のパパイヤやグレープフルーツが実っている。
「毎年のようにハリケーンが来て、大きな木はなぎ倒されるので、今植え替えているところよ」と、いとも呑気にいう。
専業主婦のジャネットはお料理好きだ。広い住宅展示場のようなキッチンの冷蔵庫の横のボードに、私の一週間の滞在中の朝夕の献立が、貼ってあった。
翌朝、起きた時は、ジャネットは、もうゴルフウエア姿で、
「今日は、午前中はゴルフで、午後は友達の家によばれているからね」
ゴルフ場は3つのコースのある、
家から道路を渡った所だ。車に乗って行く。
メンバーは年会費100万円で、一年中、何回でもプレイが無料ので、ジャネットは週に5、6回はプレイしているという。
今日は、ジャネットの二人の友人も一緒で、カートに乗りスタートする。
「この辺はワニが住んでいるから気をつけて、沼地のボールは拾わないように」
と言ったその時、向こうの沼地をワニがのそのそと歩いていた。
大きな白い鶴が三羽緑の芝生に飛んできた。
途中、小さなレストハウスで休む。そこには雲をつくような大きな男性が4人、休んでいた。
「ハーイ」「ハーイ」と挨拶を交わす。
「バスケットのジョルダン選手よ」
「ハーイ、日本から来たのか?」
と、気さくな有名人である。
午後は、小さな船でリバークルーズをする。
船が真っ赤な灯台を曲がると、高級別荘群が目に入る。
「あの家が15億円」「あれが不動産業の20億円の家」
と、有名人の別荘めぐりで価格まで説明するのには驚いた。
アメリカ人は、ウオーターフロントに住むのが夢で、ステイタスだ。庭先に船を置き、船も車感覚で友人宅に出かける。
午前中はゴルフ、帰ってシャワーを浴びて、友人を訪問かショッピングのセレブとの一週間を過ごした。
船から見た15億円の家も20億円の家も訪問した。
その妻たちの話題は、株の話、老後のこと、そして姑と婿の悪口など、世界共通の話題だ。私たち日本人と違うのは、昼間からシャンパンを飲んで、延々と会話が続く。暇を持て余しているのでもなく、日常茶飯事のようだ。
セレブの婦人たちは、皆スリムで、肌がきれいで、40歳ぐらいかと思ったら、なんと60歳後半から70歳と聞き、驚いた。エステの効用なのか。
アメリカ人は、7年ごとに家を変える、というのも本当のようで、ステイタスというか趣味の一つらしい。
優しく料理上手のジャネットも、やっとハリケーンの町パームビーチからノースカロライナに越した。また、遊びに来てと、カードが届いた。
トランプの別荘もパームビーチで、ハリケーンに遭ったのだろうか。大邸宅を何軒も持つトランプは、家の一軒や二軒はどうなろうと知らないのだろう。
ゴルフ三昧、シャンパン三昧の毎日は、未知の世界だった。だが、私にとっては一週間がちょうど良い。遊びの毎日もエネルギーがいる。貧乏性なのだ。
イラスト:Googleイラスト・フリーより