A033-「幕末藝州広島藩研究会」広報室だより

「穂高健一の歴史コラム」若者は国につくす = 幕末の著名人は何歳なの?

 私は幕末史をベースにした歴史小説を書いている。小説の執筆は男女を問わず登場人物の年齢がとても重要だ。作者はその年齢まで降りてきて、その人物になりきって書くようにつとめる。
 これが実に難しい。なぜか。年齢によって発想、感性が違い、行動にも影響するからである。

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 17歳の女性ならば、恋に燃え、親やまわりの反対で、好きな男性と心中してもよい、あの世で結ばれたいとも想う。
 しかし、20歳を越えたころになると、失恋したならば、もう2度と恋はしたないと考えるけれど、自刃までおよばない。25歳くらいになれば、「新しい相手を見つけるわ」と、ごく自然に割りきってくる。
 そのさき30-40歳になれば、失恋しても、「死ぬなんて。バカバカしい」とヤケ酒にながれてしまう。恋で死ぬなんて考えない。
 この年代からは、借金に追われた生活苦から、一家心中もあり得るけれど。

 人間の言動や心理はおおくが年齢により、微妙に変化する。小説といえども、登場人物の年齢をしらないと、物語の運び方が陳腐になってしまう。

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 家康から260余年つづいた徳川幕府が急激に崩壊していく。それというのも、黒船来航、桜田門外の変で井伊大老が暗殺されてから、尊皇攘夷思想が熱風のように若者たちの心をとらえたからだ。過激な尊攘運動が、またたくまに全国の津々浦々まで浸透していった。

 おおくの若者が、国家のため、藩のため、家主のため、と死も厭(いと)わず活動する。つよい組織にも抵抗する。尊皇攘夷派、尊皇開国派、幕府寄りの佐幕派、公武合体派と、かれらは思想や主義主張に本気で命をかけて戦ったのだ。
 武士階級のみならず、農商の若者たちすらも「草莽(そうもう)の志士」となり、己の命をかけた活動へと突っ走った。渋沢栄一など、良い例だ。

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 現代の政治家たちは「命をかける」と安易に口にする。だが、本気で死とか流血とか命を捧げる気などない。
 なぜならば、現代の政治家が50-80歳であり、国家のため国民のために、死を賭(と)す情熱がないからだ。選挙のための方便にすぎないからだ。一言でくくれば、政治家が高齢化しているから、幕末の志士のような燃え方ができない。

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 今年(2021)の10月14日に衆議院が解散した。本来の任期満了は10月21日だった。残りあと1週間だった。
 ここにおよぶ数か月は、新型コロナ禍で大勢の民が苦しみ、病院に入れず、自宅で医師にもかかれず亡くなる人もいたし、生まれたばかりの乳児も死んだ、劣悪な医療体制が民に恐怖を与えつづけていた。それなのに、代議士は民主主義の基本である国会を開催せず、庶民の声を無視してきたのだ。
 あげくの果てに、衆議院の任期満了まであと7日が待てず、内閣総理大臣が「天下の宝刀」の解散権を行使し、10月14日に解散した。
「劇場型解散だろう」
 154年前の慶応3(1867)年10月14日は何の日か。それは15代将軍徳川慶喜が朝廷に大政奉還をした劇的な日である。
 岸田文雄内閣はそれにあやかったのか、歴史的な日だからか。まさか、とおもう。別の思惑があるからだろう。
     
 代議士は国民の委託・代表で国会で活動をするために選ばれている。与野党を問わず、すべての代議士は数か月の国会空転の議員報酬を返上するべきだ。
 SNSを読んでいると、このところそんな批判の声が実に多い。

 私は創作上、若者の思考、感性、意見をより身近に知るためにも、極力1日1-2時間ていどSNSを読んでいる。

 最近の書き込みの特徴は『選挙にいこうよ。それでなくては日本は変わらないよ』『投票所で白票は駄目だよ。4年間の議員活動の評価をしようよ』という意見がずいぶん目立つ。青少年は本気で、自分たちの将来考えてるのだな、と感動する。
 幕末の若者と通じるものを感じさせられる。
「こんな発想ができるのか。凄いな。若いって良いな」
 と感慨をもつ。新鮮である。

 このところが最近の新聞やTVに目を移せば、街の声が映像で報じられるが、話す内容はないし、意味もなく、くだらない月並みなことばばかり。そのうえ、宣伝・広告のコマーシャルが目立つ。
 一見して、さも大勢の民衆を代弁しているかのように、カムフラージュした、当たりさわりがない編集だ。つき詰めれば、世間一般の平均意見と見せかけた、ごまかしの脚色なのである。
 少なからずとも、
『いままで、私たちは、あまり政治に目を向けていなかった。だから、国民が心から命を守ってほしいときに、政治が機能しなかった。みんなで選挙にいこうよ。一人ひとりの投票行動がなくては日本は変わらないよ』
 そんな若者たちの生の本音(真実)を報じないマスメディアは、早晩、役目が終わってくるだろうなとおもえる。

            ☆

 幕末において、歴史に名を遺した人物たちの年齢を列記してみた。

① 大政奉還をおこなったときの徳川慶喜   30歳

② 第二次長州戦争、大坂城で陣頭指揮をとる家茂将軍  20歳
          江戸城にいた正室の和宮 おなじ年 20歳

③ 同戦争のとき、長州藩の高杉晋作   27歳

⑤ 同戦争のとき、桂小五郎(のち木戸孝允)  33歳 

⑥ 戊辰戦争のとき 西郷隆盛    40歳
             大久保利通   38歳
             天璋院・篤姫  32歳
             高間省三    20歳
     
⑦ 慶応3年11月15日に殺害された 坂本龍馬  31歳
                     中岡慎太郎 29歳

⑧ 日米通商条約の批准書交換で渡米のとき 小栗上野助 33歳

⑨ 桜田門外の変で、暗殺された井伊直弼 44歳

➉ 25歳から老中首座となり現役死去した阿部正弘  38歳

 かれらは実にエネルギッシュに国家を変えたいと尽くしてきた。若さ所以(ゆえん)かもしれない。

           ☆
 
 歴史上の人物のみならず、現代で国会に議席を有する政治団体の党首(敬称略)をならべてみた。

   岸田文雄   64歳
   枝野幸男   57歳
   山口那津男  69歳
   志位和夫   67歳
   松井一郎   57歳 
   玉木雄一郎  52歳
   山本太郎   46歳
   福島瑞穂   65歳
   立花孝志   54歳 
   中山政彬   78歳

         ☆

 日本は18歳から国政選挙の投票権がある。高校生や大学生はもれなく投票場にいってほしい。そういう行動を期待したい。
 というのも、かれらは新型コロナで学校に通えず、友達づくりも満足にできなかった。不安と病苦をまじかに生々しくみてきた世代だから。それを投票で、表現してほしい。
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 歴史的にも、逆境を経験した若者たちは強靭(きょうじん)なバネをもっている。

 外国から侵入した新型コロナウイルスに「あすはわが身か」と生命を脅かされつづけた日々。青春時代の死の恐怖の体験はけっして忘れられないだろう。
「僕たちが生命の危機を感じているときに、国会を開かず、議員報酬だけはもらっていたんだ。政治家の誰一人として返納した者がいない。なげかわしい。愚かだ」
 政治家はそこらをしっかりとらえておく必要がある。


 国会を開かなかった与党、開かせる能力がなかった野党。政治家の資質の欠如と馴れ合いで、代議士の報酬だけは狡猾にもほほ被りして受領している。
 そんな身勝手がまかり通る制度疲労と腐敗からして、双方の代議士は同罪である。

           *

 約160年前には黒船・開国による通商による経済の大混乱、長崎に上陸し日本中にまん延したコレラ・麻疹(はしか)という疫病で、とてつもなく大勢の死者をだした。
 当時の幕末の青少年たちは、対応できない政治腐敗に反旗を翻(ひるがえ)した。そして、幕藩体制の政治を瓦解へと追い込んだ。またたくまに徳川将軍も、諸藩の大名たちも歴史上から消えていく。
 併せて、かんがみると、現代の若者らはいつしか現況の政治家の因習に満足せず、古い体質・制度の打破だといい、ノロシを挙げて日本を変えていくだろう。

      写真・イラスト:Google フリーより

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