フクシマ(小説)・浜通り取材ノート

海洋に流れ出た放射能はどうなるの(2)=いわき漁師の苦悩する叫び

 獲れた魚をすべて放射能検査して出荷する。水揚げした魚を毎日のルーチンワークの放射能検査を行うことは難しいだろう。サンプリング調査のみで、消費者が納得するだろうか。

「あまり売れないだろうな。水揚げする前から、悲観的だけど」
 漁師は苦悩する。3・11大津波で、漁船は失い、再起を期したとたんに、放射能汚染の地下水で、頭から水をかけられた状態だ。9月からの、試験漁業の商業ルート・東京・築地魚市場を期待していた。そこでのセリの見通しが暗くなった。
 全国の魚は一度築地に集まってから全国に散る。福島沖の約100魚種のうち17魚に絞り込んでも、漁師たちは全国に売る販路をなくす状況下に追い込まれようとしている。

「どうされます?」
「いまさら試験操業は止められないだろうな。築地がダメならば、地元で売るしか手がない」 
 いわきの漁師も、福島の浜通りの人は地元の魚のおいしさを知っているから買うだろう。だけど、仲通りなども内陸の人は福島産の魚にあまり手が出ないだろう、と漁師は見通す。

「厳しいですね」
 福島県内を歩くと、福島の人々は殊のほか放射能を警戒して「福島産」農作物を敬遠して買わない。東京人よりも敏感なんだな、と感じる。それはなぜなのか。
 
 双葉郡出身の大学院生に、それの理由を聞いてみた。
「3.11の第一原発爆発で、外部被爆を受けているんです。その恐怖があるのに、食べ物からこれ以上の内部被ばくを受けたくない。それが本心です。たんなる風評ではない。少なくとも、母親は子どもには食べさせたくない。そういう心理状態です」
 フクシマ第一原発が見える場所で生まれ育っている若者だけに、妙に説得力があった。

 魚介類は日本人の食生活には欠かせない。海洋の放射能汚染問題は、単に東電・一つの企業の問題ではない。日本人の生命、安全にかかわる、重大な問題だ。

 チェルノブイリは内陸地だから、原子炉をコンクリートで原子炉を固める策も有効だろう。しかし、海岸にあるフクシマ原発は、放射能が地下水から連続して海水に流れ出すと、世界中に人々に迷惑がかかる。海流は太平洋沿岸のアメリカ、カナダ、東南アジアにも達する。

「遠方に行くほど、海水で放射能濃度が薄まる」
 そういう問題ではない。食物連鎖の恐れもある。放射能汚染された小さな魚を中型魚が食べる。それを回遊魚が食べる。放射能の数値数がしだいに多くなっていく。そして、太平洋沿岸を汚染魚は回遊する。
 ダイオキシン問題でも食物連鎖は実証されている。最もダイオキシンが多いのは回遊魚を食べる北極のシロクマで、それを食べるエスキモー人が最も濃度が高い。放射能も同じだろう。

 日本は高度成長期から挙国一致で、「クリーンな電力資源開発」で推進してきた。この問題はもはや誰の責任でもない。東電の社員ばかりバッシングしても片手落ちだ。電力のムダや浪費にも無反応・無関心だった、首都圏の消費者にも責任の一端がある。

 東電社員の子供が学校に行けば虐められている。これらは報道されていないが、いじめ問題として深刻な状況にある。もう、だれを責めるのでなく、次のステップに行こう。

 高濃度の汚染水が地下から海に出た事実は消せない。目先、小手先の取り繕いは却って大きな禍になる。
『東電も政治家も官僚も、箝口令(かんこうれい)を敷いて、国民を鈍感にさせたらだめだ。生命に係わる、危険な事実を隠すことはもう止めようよ。後世に汚名を残したくなければ、洗いざらい事実を出して、世界中の科学者の知恵を借りたほうがよい。日本人だけで解決することはもはや無理だ』
 東電の関係者は一人ひとり企業人の立場を越え、人間として真実を世に出そうよ。

「フクシマ(小説)・浜通り取材ノート」トップへ戻る