A075-ランナー

ロング走・30キロは1年数ヶ月ぶり

 霞ヶ浦マラソン大会は4月20日だ。フルマラソンにエントリーしている。ここ1年以上は練習不足である。日常のなかで、2日に1度は10キロ前後走っている。だが、15キロ以上は皆無だった。
 大会を前にして、距離に不安がある。


 私の小説仲間で、良きマラソン・アドバイザーの植松二郎さん(ランナーズの筆者)が、かつて「フルマラソンの大会前に、1度は30キロを走っておくように」と助言してくれたことがある。過去の大会はそれを忠実に実行してきた。今回は意識のなかにあるが、顕在化していなかった。

 それが大会への不安であり、目指すタイムなど見当もつかない。2年前には、同大会で3時間34分の自己新を作っている。今回は4時間台か、5時間台か?レースの組み立てのイメージすらわかなかった。
 かつては登山で足腰を鍛えているだけに、長い距離には自信があった。しかし、今回はダメだろう、と観念していた。

 4月15日には思い切って、葛飾・立石の住まいから、葛西臨海公園まで往復することに決めた。ウェストポーチには、小銭とデジカメを入れた。単なる往復は27キロだから、中川の平和橋、奥戸橋を一周(3.5キロ)してから、荒川の土手に出た。そして「かつしかハープ橋」が目立つ左岸を南下した。

 東京湾まで、一直線に8キロの土手を行く。かつては月に2度は走っていた練習場だ。長い距離だが、地形は熟知しているので、精神面の不安はない。1年数か月ぶりとなると、緑化工事で迂回路があったり、雑草狩りのトラクターを見たり、ホームレスが警官2人から自転車を調べられていたり、これまでにない光景があった。
     

 葛西橋の近くではトランペッターのスパイス・福田さんに、写真を撮らせてもらった。20年間のキャリアらしい。雨が降らないかぎり、ここで練習しているという。取材をしたかったが、今度の日曜日にはフルマラソンがあるんだぞ、と自分に言い聞かせ、葛西臨海公園に向かった。東京湾まで出ると、左に折れて約一キロだ。満開の八重桜の向こうには、円い観覧車が見えてきた。広い公園にたどり着くと、憩いを求める多くの人たちが視界に入った。そこにはある種の懐かしさがあった。

 他方で、半分の距離をきた、身体が思いのほか30キロの呼吸とリズムを憶えてくれている、という感慨があった。ゆっくりした走法ならば、41キロは走れるだろう、という手ごたえが得られた。
 
 
 帰路は荒川を上流に向かう。地下鉄東西線と平行している、清砂大橋を渡り、江東区側の右岸を走った。手の振り、姿勢、足の上げ方など、フォームはつねに意識した。そうした走り方に徹していた。こちらの土手は対岸と違い、割りにジョガーが多い。しかし、競争意識だけは持たないように努めた。

 日差しが強い。25キロ辺りから、太ももが張ってきた。ここで無理をすれば、筋肉痛が出るな。それを察知してスピードを落とす。『足が攣(つ)るのは、脱水症状です』という植松さんのことばを思い出す。
 水分不足を懸念するが、河川敷では自販機がゼロだ。スポーツ飲料は手に入らない。野球場の水飲み場で、水を飲む。それなりにおいしいものだ。

 1年数ヶ月ぶりだから、新発見の情景があった。エイド代わりに数秒立ち止まっては、それらを写真に収めておいた。PJニュースに書きたいと思いながら、四つ木橋から立石にもどってきた。
 

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