A025-カメラマン

木枯らしが吹く長瀞。石畳も川舟もまばらな人出=写真で散策

 秩父盆地の冬は、強い木枯らしで寒い。咲く花もないし、石畳も冷たい感じがする。

 およそ、観光的には魅力が乏しい。

 下町・葛飾からまず池袋に出る。東武線で終点・寄居に行き、乗り換えて秩父鉄道で長瀞(ながとろ)に行く。

 こんな遠くに、半日もかけて、わざわざ出かけていく。われながら酔興だな、と思う。



 冬場は「こたつ舟」が荒川の川下りをする。

 足元は温かいだろうが、顔は川風で冷たそう。

 乗船客もわずかだった。

 
 荒川上流にある、長瀞渓谷の景観は自然の造形美で、素敵だ。

 V字型の切り立った谷底には、透明度の高い清流である。

 冬場のいまは景観を静かに楽しめる。

 人出が少ない。この静寂さが魅力かな、と思った。

 カップルは心も、腕組む手もあたたかげだ。

 大都会から離れて、冬の情感を楽しむ。

 こんな恋人同士は喧嘩などしないだろうな、と思う。


 奇岩のうえで、たがいに記念写真を撮る。

 それ自体が楽しそうだ。

 石畳の中に点在する、小さな池には氷が張っている。

 池面には酷寒の風が吹いている。


 「愛」を語れば、心が温かくなる。

 「明日」を語れば、気持ちが通じあう。

 「人生」を語れば、ふたりの夢が膨らむ。

 

 石畳で隠れんぼうしながら、「見つけたぞ」、とデジカメでシャッターを押す。

 そして、ふたりして笑う。

 若さって、好いな。

 おしゃべりに夢中で、背後の切り立った、崖を忘れているんじゃないかな。

 真冬に荒川に落ちると、辛いものがあるよ。


 快活そうな少女が石畳の上を軽快に駆けていく。

 立ち止まってはふり返り、「祖母ちゃん、あっち、こっちに行く」と指差していた。

 小説の一コマの描写になりそうだな、と思った。

 崖っぷちで、中学生たちが眼下をのぞき見ている。

 怖いもの見たさだろうな。

 それとも、肝試しかな。

 少年たちに近づいてみると、「怖いな」という表情が如実に浮かんでいた。

  長瀞の川舟は「秩父鉄道」が経営する。

  だから、船頭の身分は鉄道員かな?

  かつて秩父鉄道に勤務すれば、地域のエリートだったと、

  地元高校の教師から聞いた記憶がある。


  コタツ舟から上がれば、若者たちも、寒そうだ。

  木枯らしが吹く冬。

  あえて長瀞に来た彼女たちは、心に思い出を刻んで、長く忘れないだろうな。


 

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