A025-カメラマン

観光地はシーズンオフで、閑散とした倉敷=写真で散策

普通列車の旅が好きだ。途中下車が自由だし、距離によっては2日間、3日間と有効期限があるので、乗車券だけで2倍楽しめるからだ。
 広島から岡山に向かう。ふらり倉敷で降りてみた。観光地の倉敷は1年間を通して、観光客が訪れるものだと思い込んでいた。

 

 倉敷駅前から、商店街を通り、掘割が売り物の「美観地区」への人の流れが全くなかった。過去においては、行きかう人の流れで、ごく自然に倉敷川に出られた。今回は通りを間違え、案内板をみたり、地元の人に道を訊いたりしながら、遠回りしてやってきた。

 
 12月半ばだと、なぜこうも観光客がいないのか。不思議だった。冬の北海道や北陸など、雪国に観光客が奪われているのか。
 
 うるさい観光客がいなくて、のびのび川の情感が楽しめそうだ。


 日本酒の「地酒」ブームだが、人通りが途切れるし、昼間から飲み屋に入るひともいないようだ。店内には、客の気配がなさそうだ。

 こちらも昼間から酒を飲む趣味などないし、隣のそば屋に入った。これほど愛想の良い、観光地の飲食店はないと思えた。

 むろん、店内には他のお客は誰もいない。

 倉敷の美観地区でも、最大の撮影スポットである。川舟も動いていなければ、橋の上に時たましか、人がこない。犬を連れた、太ったおばさんがやってきた。

 近景で撮ると、良い絵にはならないだろう。

 この程度で、ちょうど良い。

 観光地に来て暇つぶしでもないが、コーヒーでも飲もうかな、と思った。この時に、若者のカップルが通りかかった。
 どうみても観光客ではないな。

 別段、観光客を撮影に来たわけじゃない。

 写真に若さが取りこめる、よい被写体だ。

「中橋」に近づいた。あの太った犬を連れたおばさんが再びやってきた。手前の欄干から身を出している。ずっーと止まっている。
 「撮影にはじゃまだな。絵にならないな」
 それでも、無人の写真よりも、良いか、と妥協してしまう。

 高価なカメラを2台据えている、おじさんがいた。三脚を立てて、本格的だ。

 ひたすら川面を狙っている。「人通り」そんなことは意識外で、期待もしていないようだ。

 真似て、撮ってみた。

「人物がいない写真は、冬となると、なおさら寒々として味気ないな」

 もしや、あのおじさんはカメラを見せびらかせていたのかな。

 露天商の兄ちゃんは、独壇場だ。美観地区に唯一、路上に商品を並べた店だった。商いが成立せず、あきらめ顔である。

 しかし、生活がかかっているのだろう、なおも粘っていた。

 美術館の前に、ちゃりで通過していく、地元のお姉さん。

 入館者がいなくても、塀のなかに館外整理のおじさんが一人立っていた。

「やることは殆どないし、掃除も終わったし。第一汚れないし。まだ、10分しか経っていないのか」
 という顔で、腕時計を見ている。そんなふうにも思えた。

 1日の労働時間が長く感じるだろうな。


 このカップルがもっと川岸を歩いてくれたら……。倉敷川が取り込めたのに。


 対岸をじっと見る。人が歩いているが、此岸(こちら)から回り込むほどでもない。


 

 やってきた観光客が、入り口の奥を横目で見ながら通り過ぎていく。

 店名を書きとめておかなかったので、どんな扱いの店かもわからない。

 店主か? 立ち話ちゅうだった。


 「今橋」へとやってきた。

 観光シーズンならば、川舟が橋を潜る。

 いまは、あの情景がなかった。

 船頭さんはきっとわが家で団らんを楽しんでいることだろう。

「冬場は良いね。楽ができて。人疲れしないし」

 そんな心境かもしれない。

 

 冬の落葉の樹木が、美観を削(そ)いでいるとは思えない。

 20代らしき女性がやっていた。

 まわりには煩わしい人垣はいないし。

 彼女たちは語り、楽しんでいる。


 

 細い路地をのぞき見ても、観光シーズンの倉敷の人影がないだけに、

 街には奥行きの味わいがあった。

 道路に溢れる観光客がいないから、下校する女子学生は3列に並んで、自転車で行く。

 1年間でも、こうしたことができるのは、おおかた冬場の一時期だけかもしれない。

 明るく楽しそうに会話しながら、通り過ぎて行った。


 招き猫も、お客が呼び込めない。

「ご利益はなさそうだ」

 猫自身が嘆(なげ)いているようにも思える。


 閑散とした、アーケード街を通り、駅に向かう。

 観光地で、静かな旅ができたな。

 

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