かつしかPPクラブ

東京で二軒のみ 手作りの久寿餅 (2/2) 鷹取 利典 

   久寿餅を食べる女性  モデル:筆者の娘


● 久寿餅は、和菓子で唯一の発酵食品                     

 関西風「葛餅」は、葛粉と砂糖を水で溶き、火にかけ練っていくと、とろりとした半透明になる夏の菓子である。吉野葛を使ったものは高級品だが、家庭でも市販の片栗粉を使って作れる。

 関東風「久寿餅」は、葛は使わない。小麦粉グルテンを分離させ、浮き粉(でんぷん質)を長期間発酵させて作る。そう、久寿餅は、和菓子で唯一の発酵食品。だから、納豆やチーズなどと同じで、独特の風味と酸っぱい発酵臭がある。発酵に使う菌は、善玉菌ラクトバチルス乳酸菌。植物由来の乳酸菌で、久寿餅を食べるとお腹の調子が良くなる、とも言われるのは、その理由だ。

 保存の問題から昔は冬しか作られなかったが、今では通年作られている。しかし、無添加で 作ると日持ちしない。消費期限が2日とうたう店が多いのはそのせいだ。



   久寿餅と売り場「東京で二軒のみ」のポップ

「久寿餅」の字は、江戸時代後期、現在の東京都の東部で作っていたことから、葛飾郡(下総国)の「葛」に由来して、関西の葛餅と区別するため「久寿(くず)」の字を当てたと言う説がある。


 また、天保(1830~1840年)のころ、麦の産地として知られていた川崎に久兵衛という者がいた。濡れ損じた小麦粉を樽に移し放っておき、翌年、取り出してみると純良なでんぷんが沈殿しているのを見つけた。
 それを蒸しあげたところ、風変わりな餅になった。久兵衛の「久」の字に、無病長寿を記念して「寿」の字を付け、久寿餅としたと言う説もある。



 
 川崎大師周辺には、久寿餅の店が多い。それは、かつて化学調味料工場が近くにあって、製造工程で久寿餅の原材料になる小麦でんぷんが、副産物として多くできることから、安く手に入ったからという話もがある。
 
 現在、久寿餅を作る多くの店は、生麩の製造工程でできる小麦でんぷんを使っている。出所はどちらでも、副産物を有効に使った昔の人の知恵はすばらしい。


● 洋菓子と和菓子のコラボ               

 親の背中を見て育つとは、このことか。息子さんの石井久喜さんは、京都の和菓子店「仙太郎」で4年間修行した後、100のレシピも抱え戻ってきたのは、5年前だ。仙太郎の和菓子は、ただ美味しいだけではない。体を養う正しい食べもののみが本当の意味でおいしいとの考えだ。

   息子さんが作る「米米ロール」


 その考えを作品にしたのが、「米米(こめこめ)ロール」だ。カステラ由来の伝統製法で作る米粉の生地と、生地に振りかけた和三盆糖をバーナーで一気に炙り、香ばしいおこげのような和の風味を加えるところは職人技だ。
 和と洋の知恵とがコラボした逸品だ。


  《あとがき》                       

 かつしかPPクラブに入会し早1年が経った。取材は5件になった。その取材も一回でまとめ上げることはない。
 文章化すると疑問点や聞き漏らしたことに気付き、また取材に伺う。数回通ううちに、「次は、ここに取材に行くと良いよ。」とか、「この人と知り合いになると、柴又のこと教えてくれるよ。」などと話してもらえるようになる。今回取材させてもらった石井さんをはじめ、人情味溢れる人たちに出会えたことに感謝したい。

 
   参道入口に掛かる看板と提灯 
  

 取材の最後、ご主人に対して幸せですねと言った。京都の名店で修業をした息子さんが店を継いでくれて。その息子さんが「い志い」の和菓子に新風を吹き込んで、先代を超えようと頑張っておられる。

 今、多くの商店は後継者がいないため、年老いた店主が辞めれば閉店となることが多い。原因は、経営だけではないはずだ。結婚せずに子供がいない店主もいる。商品と社会のニーズの不一致など原因は様々だ。
 石井さんが、『10年後、いや5年後に、この参道のお店はどうなっているんだろうと。』とつぶやいた一言が印象的だった。

                     【了】    

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