A045-かつしかPPクラブ

「ナイチャーも同じシマンチュウ」民話の宝庫・宮古島一周の旅 隅田昭

まえがき

 記者の祖父は日中・太平洋戦争で中国を転戦したあと、宮古島に3年ほど従軍した。

 葛飾の正月は何処も居酒屋が開いておらず、祖父は家で夜遅くまで呑んでいた。「戦争はつらかった。ただ宮古島だけは、いい思い出だ。死ぬ前に一度行ってみたい」というのが口癖だった。
その祖父は十年前に亡くなり、ついに宮古行きは叶わなかった。

 今回は七草明けに、記者は長期休暇がとれたので、日頃のリフレッシュも兼ねて、取材半分、観光半分の宮古ひとり旅を計画した。


 伊良部大橋の記念碑ちかくで、たまたま見つけた珍しい岩である。記者は勝手に「亀の子岩」と名付けた。

 観光ガイドには載っていなかったが、取材を進めると、宮古は民話の宝庫でもあり、将来に残すべき多くの知恵にあふれていた。

*短編「結び岩」

*のんべーの楽園

*雨でも収穫あり

*現代に通じる話

*なんくるないさー

 ノンベーの楽園

 宮古に着いた日は22℃で、おだやかな天候に恵まれた。

 空港のレンタカーショップで従業員に、「観光客が知らない所に行きたいのですが」と聞き込む。
まず腹ごしらえだと、情報収集のため、市内でいちばん大きなショッピングモールまで出発した。

 イオンモール内の『なびい食堂』で、名物の「宮古そば」に舌鼓をうちながら、女性店員の『国仲さん』に話をうかがう。
「なびい」とは、村人が集まって食材を持ち寄り、ひとつの鍋を囲んで楽しく呑みながら、歌ったり踊ったりする場という意味らしい。

 いま店で流行しているのが、「なーふぃー」という風習だそうだ。宮古にはなかったが、沖縄本島から移住した人が定着させたという。

 赤ちゃんの首がすわり無事に育ったら、近所の人や友だち、親類らを集め、赤ちゃんの名前を宴席でお披露目する行事だそうだ。

「宮古の人はおおらかで、イベント好きですから。なにかと理由をつけて、大勢で騒ぐんですよ。まあノンベーにとっては、最高の場所じゃないでしょうかねえ」
 島内では古希で赤いチャンチャンコを着て、特大ハンバーガーを切り分け、祝う団体客もいる。英語がペラペラの高齢者も多く、欧米の観光客と仲良くなる方もいるらしい。


 雨でも収穫あり
 2日目、3日目はあいにく、はげしい雨と風に見舞われた。

 宿泊先『宮古温泉ホテル』の女性従業員で長野から移住した『竹内 望さん』から聴いた。
「民話や史実を調べるなら、島にひとつしかない『城辺(ぐすくべ)図書館』ですかね。池間島(いけまじま)と、来間島(くりまじま)にも橋ができ、車で行けますが、大神島(おおがみじま)は漁船でしか行けません」
 スコールのなか図書館を訪ねると、職員が快く応じてくれた。海軍兵舎が近隣にあったらしく、慰霊塔がひっそりと天に伸びている。

「宮古は平坦地ばかりです。この丘は見晴らしが良く、戦時中は敵の偵察に使っていました。村人の戦死者が多く、食糧不足で苦労されたのですが、軍人や進駐米兵とは良好な関係だったと聞いています。民話を知りたいなら、食堂か土産物屋さんに訊けばよいでしょう」

 4日目にようやく晴れ間がのぞいた。前浜村近くの食堂で宮古ヤキソバを食べ、知りあった店員の「上地さん」が語った。
「伊良部島(いらぶじま)と下地島(じもじじま)にいけばいいや。あたししゃ、伊良部の出だけど、通り池が有名さー。ママッコ伝説とかね。いまは飛んでないけど、まえはパイロットの訓練もしてたさー。ほかの島はなーんもないよ。サトウキビとか、カツオ節つくるぐらいだわ」

 現代に通じる話

 通り池は下地島の西にあり、天然記念物に指定されている。

 大小2つの円形の池は地下でつながっており、天候や水質でさまざまな色彩に変化する。
多様な魚介類が生息しており、ダイビングスポットで人気も高いが、上級者向けである。
「ママッコ伝説」はこんな内容だ。この地に住む漁師が妻に先立たれ後妻をもらった。やがて後妻は先妻の子をうとましくなり、寝ていたその子をそっと池に沈める。ところが実際は我が子だった。絶望した継母は池に飛びこみ命を絶ち、しばらくの間は幽霊が出たという。

 通り池近くの『ホテルていだの郷』で雨やどりをして、コーヒーと軽食を注文し、マネージャーの『川口 信也さん』から話を伺った。 

「以前は修学旅行生ばかりでしたが、最近はアジア近隣の観光客が多いですね。私は奈良の出身です。大学卒業後は那覇に赴任し、そのあと宮古に定住しました。
 昔は内地から来た者を『ナイチャー』と呼び、好奇な目で見られていました。でも近頃は頑張って働いたせいか、同じ『シマンチュウ』と思われています。沖縄本島の方も内地の者も、みな島国育ちですから」
 私たちも外国人労働者を、色眼鏡で見ていないだろうか。しばし考えさせられた。


短編「結び岩」PDF

*写真・文章・編集: 隅田 昭

*撮影:平成31年1月15~18日

*発行:平成31年2月10日

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