A045-かつしかPPクラブ

清貧の曙を開け「第8回かつしかミライテラス」 = 隅田 昭

まえがき

 新たな年を迎え、春が待ち遠しい1月29日の日曜日に、恒例の第8回かつしかミライテラスが、テクノプラザかつしかで開催された。
 この日は26社と9団体が集まり、個性あふれる地産商品を並べた。

 入口に向かうと、10時の開始を待ちきれない来場者であふれている。行列のお目当ては一番人気で表紙を飾る、お菓子作り体験コーナーだ。
 出展する菓子組合の職人から、PRを兼ねて実演していると伺った。
 取材は今回で3度目になるが、来場者数は増加傾向にあり、地域の祭典として更なる発展が見込まれる。

もくじ

1.小さなチャレンジ/和の喜びを知る
2.ぬり絵よりも簡単/夫婦で二人三脚
3.真剣つかみどり/地元民のたのしみ
4.べっ甲ひと筋半世紀
5.手作りのキズナ
 あとがき


1.小さなチャレンジ


 600円のクッキー作りは計6回で、各10名が貴重なチケットをゲットした。初々しいなりきりパティシエが生地を練るなか、ひときわ小さな女の子がいた。

 亀有から来場した上原栞子(しおりこ)さんだ。スマホで動画撮影中のお母さん、紗綾(さあや)さんにうかがう。
「フェイスブックで見つけて、前回も参加しましたけど、失敗しちゃいました。家にはオーブンがあるので、休日にはリベンジで、ときどき作らせています」
 今年はバレンタインで、大好きな父親にプレゼントするのが目標だそうだ。彼女のチャレンジは必ず身を結ぶだろう。

     和の喜びを作る


 和菓子作りは総勢100名の子供職人が腕をふるう。
 青戸から訪れた、二児の母の髙橋裕紀子さんに聞く。「広報紙を見て、初めて参加しました。手作りの和菓子が作れるなんて素敵ですね。
 クリスマスは家族みなでケーキを作りましたが、来年は正月で和菓子に挑戦です

2.ぬり絵より簡単

 松井形紙店が千円で、伊勢形紙の体験教室を開いていた。着物などの生地を、一定の柄や紋様に染色するために作られた、伝統ある技法だ。
 ゆるキャラを描いていた女の子に声を掛けると、「幼稚園のぬり絵よりも、カンタンだよ」と話してくれた。
 4月から地元の小学生になる、山田恋(れん)さんだ。

    夫婦で二人三脚

 伊勢形紙の体験教室で、恋さんにピッタリ寄り添う父親の山田賢一さんは、向かいで出展する若きオーナーだった。
 金属加工製品を扱い、終戦直後から立石に根ざしている、ミツミ製作所だ。
 奥さまの舞さんは白鳥の出身だが、結婚するまでは普通の会社員で、町工場の仕事に全く知識がなかったそうだ。
「出展する一昨年までは無我夢中で、夫と二人で会社を運営していました。ミライテラスはネットで知りました。試行錯誤ですが、アルミ製のコマやドングリ回しの体験販売をしています」


3.真剣つかみどり

 地元でお馴染みの北星鉛筆は、色鉛筆のつかみ取りゲームを開催していた。 亀有から来場し、お子さん二人と参加している、斉藤真理子さんが話す。

「回覧板を見て、去年は友達と来ましたけど、とても楽しい会場ですね。今年は初めて子供を連れてきました。何をしようか、ワクワクしています。とりあえずクッキーと和菓子の体験教室が面白そうでしたので、30分行列に並んで、チケットを頂きました。
地元の者でも町工場や工芸品には縁遠いですから、勉強にもなりますしね」

     地元民の楽しみ

 JAかつしかでは、大根や白菜、小松菜などの地産野菜を格安で販売する。奥戸から来場した、主婦の坂元康代さんから伺った。
「スーパーや商店街でも野菜はよく買いますけど、こちらの品物は毎回新鮮です。きょうは野菜鍋にします」


4.べっ甲ひと筋半世紀

 会場の一角でどこよりも人手をかけ、展示品が最も多そうなブースがあった。仕切るのは職人暦47年を誇る、山川べっ甲の山川金作さん(62才)だ。
 定番のカンザシや耳かき、靴べらはもちろん、ブローチやピアスにイヤリング、変わった品では、ギターピックやリングなどがズラリと並んでいる。

 記者は「べっ甲製品は海亀から採るのに、今でも制作できるのですか?」
「塩化ビニールより、優れている点を教えてください」と愚問する。氏が苦笑しつつも、丁寧に答えてくれた。

「海亀は世界中で泳ぐけど、ワシントン条約で規制されてから、輸出入が禁止されてしまった。個人的には復活してほしいけど、当分のあいだ原材料が入手できないな。ただ職人の技があれば、創意工夫でしのげるんだよ。在庫も合わせれば、俺が死ぬまで作れると思うけどね(笑)」


「試しに、これを触ってみなよ」(メガネを渡される)
「柄の部分がザラザラして、すべり止めの役割をしているだろ? 温もりがあるし、独特の味わいも出せる。もし赤ん坊が飲み込んでも胃酸で溶けるし、土に埋めても何年か後になくなるよ」


5.手作りのキズナ

 和菓子体験教室で父親が技を見せ後ろでは若い母子が声を枯らせた


あとがき

 町工場の製品というと、昔気質のコワモテな男が作るイメージがあるが、良い意味で時代とともに変わりつつある。
 ただ、べっ甲職人の山川さんに伺って、心が動かされる話があった。それは記者が明治や大正の文化が好きで、小説も読むと雑談した時だった。

「日本の明治や大正、元禄時代の芸術は、後世に残る力作ばかりだ。それじゃ、いまの物とどこが違うのかと言えば、昔の職人は自分の利益のためじゃなく、他人の喜ぶ顔を想像しながら働いているんだよな。
いまの人は苦労もせずに儲かりたい、有名になりたい、そんな身勝手ばかりを考えているよね。自分も偉そうに言える立場じゃないけどさ」

「昔の職人は最高傑作を愛弟子に譲ったり、娘の嫁入り道具で持たせたりするために、一心不乱に制作していた。金もないのに時間をかけ、様々な物を研究して、ていねいに仕上げている。俺も一生に一つくらい、あんな魂を込めた工芸品を手がけたいと思うよ」

 某国首相や大統領にも聞いてほしい。昔の職人は「清貧」で働いていたのだ。地位や財産より大切なのは、未来に生きる者へ貴重な歴史を残すことだ。

 自戒も含め、日常生活で実行すれば、清貧の心がきっと理解できるだろう。


◆ 写真・文・編集: 隅田 昭

◆ 撮影:平成29年1月29日

◆ 発行:平成29年2月17日


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