A020-小説家

新聞連載「妻女たちの幕末」= 歴史は国民の財産。曲げられた歴史を糺す

 歴史から先人の知恵を学ぶ。だから、『歴史は人間の財産だ』といわれる。ただ、その歴史が曲げられていると、どうなるのか。
 空恐ろしてことである。
 
 明治後期から手がけられた「官営・維新史」が刊行されたのが、昭和14年である。太平洋戦争の2年前である。これがいまの歴史教科書の幕末のベースになっている。ねじ曲げられたところが随所に散見できる。

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 明治時代に入ると、薩長閥の政治家たちが幕末史の編纂に号令をかけた。下級藩士から成りあがった自分たちを、徳川幕府を見下し、自分たちを大きく見せるための手段でもあった。

「妻女たちの幕末」はより多くの史料・資料から、真実に迫ろう、という執筆精神でのぞんでいる。
 事実をあからさまにわい曲すれば、嘘だとばれやすい。だから、教えない、伝えない、隠すことで、歴史的事実が消えてしまう。

 連載小説では、隠された事実をほりおこす、という信条でのぞんでいる。

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 読者の投稿欄に、

 堺市の木村功さんは、「連載小説を楽しみにしている」と前置きしてから、そのきっかけを書いてくださっている。

「天保の改革を断行した幕府の老中首座・水野忠邦が、黒船来航よりも10年早く、蒸気機関車と蒸気船の導入計画をし、長崎のオランダ商館に働きかけていたという衝撃の事実が、この小説で明かされたことであった。
 明治5年に新橋~横浜間の鉄道が開通したことが引き合いに出されるが、そのむ29年も前に検討が始まっていたのである」

 このように、ペリー以前を伏せる、教えないことで、近代化は明治政府からだと、薩長閥の政治家たちは義務教育のはじまった少年・少女たちにすり込んだのだ。

 私たちの世代が教科書で習った有名な狂歌がある、
『泰平の眠りをさます上喜撰たった四盃で夜も寝られず』は明治10年に町人がつくられた創作であり、当時の史実とはちがうと、いまでは教科書から削除されています。

「妻女たちの幕末」の作品のなかでも、私はあえてそれを指摘している。

 手元にある「新しい社会 歴史」(東京書籍・令和4年2月10日発行)がある。広島県・志和中学校で講演するために、入手した『日本人がえがいたペリー』(神奈川県立歴史博物館蔵)が掲載されている。誰もが知る鬼の顔をした鼻が高いペリーである。

 同館の学芸員にだれが描いた絵ですか、と問合せすれば、「作者は不明です。ただ、アメリカ人の嫌悪・憎悪を書き立てるもので攘夷派の可能性が高いですし、それを利用したのは明治政府以降のプロパガンダですよ。まだ教科書に載っているんでか」と応えてくれた。

 このように歴史は時の政権に都合よく利用される、という側面がある。太平洋戦争の軍国主義のときにできた「官営・維新史」から、私たちは解放されるときにきた。

 私は「妻女たちの幕末」で、こうしたプロパガンダはできるかぎり指摘し、後々に『歴史は人間の財産だ』と役立つようにしたい、という信条を持っている。

 
 

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