小説家

「穂高健一の文芸技法・小説の書き方」② 「わたし、書きたいものが一杯あるのです」

 体験を自分のために書くのが作文です。エッセイは自分ために50%、読者のため50%で書く。『小説は100%読者のために書く』ものです。

「わたし、書きたいものが一杯あるのです」
 そんな希望を述べて、小説講座に入ってくるひとがいます。
「あなたの書きたいものなど、どうでもよいのです。私(読者)が読みてくなるものを書いてください。小説は読者のために書くものです」
 というと、けげんな顔をされる。

 作者の独りよがりな作品では、作文なみだと評価されます。

 たとえば、殺人現場を見た。この種の小説を書いても、駄作(ださく)ならば、TVドラマを観たほうがましだと言われかねません。

「現代は、TV・映画のドラマ、社会の数奇(すうき)な事件が日替わりで報道されています。あなたの過去に、どんな大きな体験があったにせよ、奇異(きい)なできごとに出合ったにせよ。作中で人間が描けていないと、途中で放棄されます」


            備中松山城(岡山県)

「先生。これは事実です」
 そのように、教室で、語るひとがいます。
「たとえ、事実でも、日本中の書店にでむいて、そのように言い訳ができますか。不可能でしょう」
「そうですけれど」
「虚構(フィクション)作品でも、読者がまるで事実のような、臨場感をおぼえなければ、小説はだめなんですよ。熟練した作者は、東京から伊豆に往って復ってきただけでも、読者の心にひびく名作を描くのですよ」

「名作じゃなくても、いいんです」
「独りよがりな小説だと、途中で退屈だと言い、捨てられてしまいます。人間をしっかり描いておけば、最後まで読んでくれます」
「人間をえがく、って何ですか」
「人間って、そうだよな。そう言わしめればいいのです」
「たった、それだけですか」
「それが難しいのです。人間の一人ひとりの内面は複雑でしょ。登場する人物、みな顔も、性格も、考え方も違うのです。それらをていねいに描くことです」
 

「物語なら、書けるんですけれどね」
「小説の道でなく、シナリオライターに進まれたら良いんじゃないですか。TVドラマ、芝居の台本ならば、ストーリーが中心になります」
「冷たいんですね」
「読者の目はもっと厳しいですよ。一冊700円の文庫本を買うにも、30分も1時間もかけて、けっきょくは買わない。ラーメンならば、メニューを見て1~2分で決めるでしょう。あなたはいかがですか?」
 と質問してみる。
「5分以上待たせたら、はやくしなよ、とラーメン屋のお兄さんに怒られます」
「そうでしょう。書店の棚から本を抜きだす、それにはまずタイトルをみる。そして、目次、書きだしを読んでみて、それでも買わない。場合によったら、あとがきを読む。そして、棚にもどしてしまう」
「経験があります」
「書きだしの2-3ページで、主人公が立ち上がって、魅力的じゃないと、本はまず買ってくれません」


 小説を書きはじめる人には、小説はストーリーだけじゃないよ、という点から教えます。
 

 
 良質な小説とはジャンルを問わず、『作品が興味深く、わかりやすく、感銘を与える』ものです。それをつねに意識してください。


 よい作品を作る条件として

①  主題(テーマ)が興味深い

②  三要素(環境、人物、事件)がテーマにふさわしい

③  構成がよく、読みだしたら止められない。

④  叙述は具体的で、描写は迫真性をもっている。

⑤  描写文(情景描写・心理描写)で書き、作者の説明文は入れない。


 
① 楽しませる、知らせる、感動させる、行動させる。 

② 主人公の性格や心理など、興味深く描ける素材を採用する。

③ 事件の原因には、人間の普遍性(生き方の哲学)を組み込む

④ 作者が良く知った土地、職業、環境などを選ぶ。

 魅力的な主人公を克明に描けば、良質の作品になる。

①  どんな困難や劣等感にも挫けないで生きる主人公は魅力的である。

②  社会の格差や差別に対して許せない、と行動する人間は読まされる。

③  解決すべき問題や障害を設けて、主人公に戦わせ、乗り越えさせる。

④   視点の統一が大切である。

⑤   一人称と三人称の用語の使い方はちがう。

⑥  神の視点はつかわない。


「こんなにも、多いの」
「だから、小説家として世に出るには10年も、20年もかかるのです」
「ため息が出るわ」
「ところで、毎日書いていますか」
「最近は、しごとが忙しくて……」

 机にむかえない理由は、とても上手に見つけます。人間はことのほか自分を甘やかしすぎるるものです。むろん、これが標準です。

「いいですか。プロ野球選手は旅先でも素振りをしています。プロ作家も毎日書いています。あなたが毎日書かずして、5日間も怠ければ、もう作家の道は遠いでしょうね」
「先生に、心を見透かされているみたい」
「書店の棚は一冊分の透き間もないのです。毎日書かずして、日々に執筆するプロ作家を押しのけて、世には出られませんよ」
「肝に銘(めい)じます」
「次回はこれら項目をピックアップしながら、具体的に説明していきます」
「期待します」
 
        
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