小説家

【良書・紹介】 2018年徳間文庫大賞 『二年半待て』=新津 きよみ

 新津きよみ著『二年半待て』(徳間文庫・680円+税)は、女性の目線で、社会人として年齢的に多種多様な問題と向かい合っていく小説である。

 現代人が身近に感じる就職問題、恋人関係、社会の矛盾と病巣、家庭内の複雑な問題などを素材にしている。
『2018年徳間文庫大賞』の受賞の名に、十二分に応える価値ある現代小説である。


 人間は、幸福なひとだとか、不幸せな人生だとか、一つ概念で括(くく)れない。各章立てでは、女性の機微を絶妙に描く。全編を通して、これが女の一生なのか、としみじみ感じさせられる構成になっている。


  読後の感想からいえば、現代の社会人が感じている問題にたいして、作者は一つひとつていねいに深く掘り下げている。男性の目線からも、女性の心理とはこんなにも複雑で、厄介なものか、と思わせる場面が随所に出てくる。
 男女を問わず、大学生から中高年層まで、人間の生き方を考えさせられる作品である。


 就職活動が「就活」と呼ばれて久しい。それが第一話である。第二話の「婚活」、第三話の「恋活」はわかりやすいことばだ。

 第四話の「妊活(にんかつ)」となると、知らなかったな、と思わせる。
 保育園の入園問題から、出産日を決める。数日の違いがゼロ歳児を受け入れるか否かの重要な分岐点となってくる。だから、帝王切開で出産する、あるいは妊娠日を決めるために、セックスの日取りが決まってくる。

 ここらは現実か、作者の想像か、そこはわからないけれど、現代社会の抱えている保育園問題の構造からすれば、十二分にありえる事例認識だとおもえた。


 第五話は「保活(ほかつ)」、そして第六話は「離活(りかつ)」、結婚時において、離婚同意書に署名しておく。その内容も、新郎を甲とし、新婦を丙とする契約書だ。公正証書にでもしておいたのか。ストーリーはその証書にもとづいた離婚式からスタートする。

 29年間の夫婦生活、子育てが終わったからと言って、割り切れないのが人間である。作者はここらの人間の心理を深く掘り下げていく。なるほどな、と納得させられる。


「卒婚」なる言葉も登場してくる。「あえて離婚はせず、結婚を卒業し、大人の関係を築く。男女の役割にとらわれず、互いに干渉せず、自由を認め合う」。となると、『卒婚=自由不倫』かな、と思いを馳せてしまう。こうした思慮も楽しめる小説だ。


 第六話は「離活(りかつ)」、そして第七話は「終活(しゅうかつ)」である。ラストストーリーだけに、人生とは何か、とより深く考えさせられる。人間は老いても、女も男も、恋にこころをとらわれる。90歳になっても、初恋の人を想う。人生はロマンだな、と読後の余韻に結び付いている。


 女性ミステリー作家の第一人者として、作中に「ひねり」もあるけれど、読むうえで推理はさして重要ではない。この作品の狙い・テーマは、ひとことで言えば、『女の生きる道』の現・近未来の姿だろう。
 早晩、そんな社会が来る、と予知させる人間小説である。

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