A020-小説家

【推薦作品・小説】 鮮やかな記憶 = 長嶋公榮

 同人誌「グループ桂」(非売品)の長嶋公榮さんが、「鮮やかな記憶」「鮮やかな記憶」を発表された。その作品は後世に伝えるべき内容なので、このHPに全文の掲載をお願いしたところ、快諾してくれました。
 
 「戦争のむごたらしさ」。それらを後世の人びとに伝えていく。それは「戦争抑止」につながる大切な言論・表現活動である。

 戦争とは、理由のいかんを問わず、人間どうしが殺し合うことである。日本は明治時代から10年に一度は海外と戦争をしてきた。記録や写真などで残されてきた。そこから、私たちは戦争のむごい本質を読みとることができる。

 小説の場合は、過去の戦争を取材や史料・資料で掘り起こし、読者に戦争の疑似体験をさせられる。主人公を通したストーリーが脳裡に焼き付いた読み手は、心から戦争の残酷さを感じとる。
 読者の考え方、将来への行動までも変えることができる。それが小説の使命だと思う。少なくとも、それを目指すべきだと考える。「鮮やかな記憶」「鮮やかな記憶」はその使命をしっかり感じさせてくれる作品である。

 昭和20(1945)年5月29日年の横浜大空襲では、B-29爆撃機とP-51戦闘機による、無差別攻撃(焼夷弾攻撃)で約8千人から1万人の死者を出した。

 主人公・花枝は17歳、横浜大空襲の時、横浜駅でB29の大規模な空爆に遭う。弟は旧制中学2年生だった。家族の生と死を分けてしまう空襲の凄さ、死体の惨さが克明に描かれている。

 戦禍の下で生きのびたひとたちも、戦後の悲惨な食糧事情が惨くの圧しかかってくる。
 都会生活者は自給手段をもたず、飢死、餓死の手前まで追いやられる。「物資移動禁止令」をかいくぐる。法にふれなければ、食べ物が入手できない状態がつづいた。

 必死に生きる過程を通して、花枝には物品を粗末にできない「勿体ない精神」がしっかり宿るのだ。


 戦後70年経った現代は、使えるものでも、簡単に捨ててしまう。「物余り時代」、「使い捨て時代」である。
 88歳となった花枝の「勿体ない精神」は、隣り近所や自治会と軋轢(あつれき)を生じるのだ。

 町内会役員は戦後育ち70歳前後である。花枝とはわずか10数歳ちがいでも、価値観に大きな違いと断層がある。
 作者はここにも鋭い視線をむけた作品である。


【関連情報】

①作品はPDFでお読みください・印刷(A4:13枚)

「鮮やかな記憶」

②著者の作品

「国家売春命令」の足跡  昭和二十年八月十五日 敗戦国日本の序章


赤い迷路―肝炎患者300万人悲痛の叫び!


③プロフィール

 1934年東京生まれ。伊藤桂一氏に師事し、1985年同人誌「グループ桂」の主宰者。
 1997年「温かい遺体」が女流新人賞最終候補
 1998年「はなぐるま」が北日本文学賞選奨
 2002年「残像の米軍基地」で新日本文学賞佳作
 2003年「幻のイセザキストリート」で新日本文学賞佳作

        
        写真提供=横浜市史資料室「横浜の空襲と戦災関連資料」

「小説家」トップへ戻る