A020-小説家

新津きよみ・穂高健一の講演・対談『葛飾を歩いてみて~』

 新津きよみ&穂高健一による『葛飾を歩いてみて~ふたりの作家が語る講演会』が2015年10月4日に、鎌倉図書館にておこなわれた。
 


『新津きよみ』 柴又の散策では、久しぶりのうなぎをご馳走していただいて、とても美味しかったです。
(会場・笑い)

 柴又に訪れたのは2回目です。前回は十数年前に、信州の両親を連れて柴又を案内しました。その時はまだ渥美清さんがご存命で、しかも休日でしたから、満員電車のなかを歩くくらいの混雑ぶりでした。

 ただ、今日も予想外の人出でしたので、とても驚きました。

 

『新津きよみ』
 柴又をミステリーに使うのは難しいと思います。柴又を出しただけで「何かあるな」と、想像されてしまいますし、逃走犯が逃げるには、ちょっと有名すぎるかもしれません。

 となり近所が親しいので、知らない人がいたら、警察にすぐタレコミされてしまうでしょうね。
(会場・笑い)

 とは言っても、相変わらず食べ物屋さんは混雑していましたし、とても楽しい街なので、スリリングな場面に限らず、それらをいつか描写したいです。


『穂高健一』 新津さんの小説「指名手配」の作中で、僕が生活する立石が舞台となった場面があります。それを書かれたときの作者の心境について、聞かせていただけますか。

『新津きよみ』 私は本も好きですが、お酒も大好きです。
(会場・笑い)

 それを穂高さんに話したら、「立石に来ればいいよ」と言い、案内されました。あの時は昭和の顔を持つ街というテーマで、ご案内していただきましたよね。

 私が生まれたのは長野県大町市という田舎ですが、初めて来たのに、どこか懐かしさを覚えました。
 それで書いたのが「指名手配」です。この小説を読んでご紹介くださった読者の方が、今年5月15日の朝日新聞東京版に、逃亡犯の住まいはここだと掲載されていました。まさに、探偵の方みたいで、編集者ともどもおどろきました。

 その方は小・中学校の教師なんですよね、と新聞のコピーをみせる。

 


『穂高健一』 「指名手配」の一節を、作者自身の声で朗読していただけますか。

『新津きよみ」 ええ、はい・・・(しぶしぶ了承)、いつも作品の宣伝は編集者にお任せしているので、自分で読み上げるのは恥ずかしいですね。
(会場・笑い)
 私はとてもシャイな性格ですから。でも、せっかくお招きいただいたので、皆さまに朗読で紹介させていただきます。


 東京という大都市には顔がないが、下町には顔がある。誰がそう言ったのか忘れたが、京成立石駅に降りて踏切の前に立ったとき、愛子はその言葉を思い出した。
 遮断機が上がるのを待って踏切を渡ると、そこには昭和の街を思い起こさせるような、懐かしい雰囲気の商店街が続いていた。

 手焼きの煎餅屋があり、立ち食いスタイルの寿司屋があり、揚げたてのコロッケが山盛りになっている肉屋があり、何十種類ものおふくろの味をうむ総菜屋があり、豆腐屋の店先には厚揚げや湯葉や、それらを使った煮物も並べられている。

 まだ日が高いというのに、暖簾の下がった一杯飲み屋の外には、長い行列ができていた。

 私はその一杯飲み屋まで、穂高さんに連れて行っていただきました。もつ煮込みがとても美味しくて、ドラマで見た記憶のある二級酒を、取材のつもりで飲みました。
(会場・爆笑)


『穂高健一』 新津さんの最近書かれた小説「父娘の絆」とは妙な偶然ですが、僕がいま新聞連載で書いている山岳歴史小説『燃える炎』は北アルプスと安曇野が舞台です。まさに新津さんなの「父娘の絆」とおなじです。
 七倉愛子シリーズの第2話は、とても好評だそうですね。

『新津きよみ』  おかげ様で第2話「父娘の絆」ですけど、一話の2倍のスピードで売れているとの報告が一昨日ありました。

 私の父は89才ですが、25年に渡って信濃大町で警察嘱託医を勤めていました。その体験を色々聞いて、それを元ネタにしました。父をモデルにしたようなおじいさんと、30才前後の孫娘が後継ぎになる物語で、第2話では、愛子が警察嘱託医となって信濃大町まで帰ります。

『穂高健一』 新津さんの「父娘の絆」には、北アルプスの山岳名がたくさん出てきます。僕は手にしたときに、一気に読みました。
 いつもならば、作家の習性で、この部分は伏線だなとか、行間とかをあれこれ考え読みます。遅読です。
 こんかいは読者になりきって読みました。

 野口五郎岳の山小屋が出てくると、あそこの山小屋ご主人は元気かなとか、三俣蓮華が出てくると、伊藤社長さんも元気かな、と。

 私がジャーナリスト活動をしていたとき、
「今まで登山道の管理は、環境庁とか林野庁がしていたのに、山小屋が行えという法律が制定される。となると、山小屋は道路の整備などが負担になる」
 伊藤さんの要請で、農林省、林野庁に取材に入り、辛口の記事を書いた記憶があります。

 新津さんの「父娘の絆」で、さまざまな思い出がよみがえりました。


 新津さんは長野大町の観光大使を引き受けています。
 大町市のゆるキャラは、北アルプスとカモシカ、それに美味しい水を組み合わせた「おおまぴょん」がいます。

『新津きよみ』 長野県内で堂々、第3位の人気なんですよ。このゆるキャラ、なかなかカワイイでしょ?
(おおまぴょんのデザインを会場に提示)
(会場・笑い)

『穂高健一』大町には有名な湖もありますよね。

『新津きよみ』 はい、仁科三湖ですね。そのうち木崎湖、青木湖は、映画やテレビドラマのロケによく使われています。横溝正史氏原作の映画「犬神家の一族」で、足が二本出ている印象的なシーンにも使われました。中綱湖では、冬にわかさぎ釣りもできます。


                  写真 郡山利行、滝アヤ
                  文  隅田 昭

『関連情報』

詳細は、「隅田 昭エンタメーゼ」で紹介されています

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