A020-小説家

【読書の秋・推薦図書】 真田一族と幸村の城 = 山名美和子

 ことし(2015年)のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」はいかがでしたか。安倍総理の肝入りかな、山口県人だけが喜んでいるんじゃないかな、という下々の民の評価もあるようだけれど……。まだ、終わっていないし、巻き返しもあるかも。私自身は大河ドラマを見ていないので、論評は差し控えたい。

 各年度の善し悪しは別にしても、NHK大河ドラマは歴史好きなひと、のみならず、一般の人も関心度が高い。酷評、好評を問わず、フアンが多いのも事実だ。毎年、来年はなにをやるのかな、と期待度もある。

 予備知識があるか否かで、大河ドラマの楽しみ方はちがう。2016年の大河ドラマは「真田丸」だという。人名かな? と思った人は、まず真田家の基礎知識と予備知識を持たないと、とても来年の大河ドラマについていけないだろう。

 名将・真田幸村はあまりにも有名。大坂の陣で壮絶な最期をむかえる。その割には、真田家となると、複雑な歴史をもつし、解りにくい。兄弟が敵と味方になったり、豊臣方と德川方に分かれて戦ったりする。
 そのうえ『幸』『信』のつく人名が多いから、実に紛らわしい。

 
 そこで、お勧めしたいのが、歴史作家の山名美佐子著「真田一族と幸村の城」角川新書・定価/本体800円+税だ。
 
 彼女はいまや歴史小説の第一人者で、歴史ものTVにも多々出演している。解りやすく丹念に説明するので、視聴者には好評だという。

 書籍は、深くわかっている著者が書くと平明で、理解がたやすい。しかし、「来年、真田幸村だから」と出版社に言われ、やっつけ仕事で、適当に引用文献を並べてつなぎ合わせる作家の書だと、読み手はかなり難解だろう。

 来年のTV「真田丸」はどこからスタートするだろうか。それはわからないけれど、おおかた信州の真田郷の小豪族から、戦国の名将・真田幸村の死闘へと盛り上がっていくのだろう。

 山名さんは、関東の戦国歴史にはめっぽう強い作家だ。それだけに大名家の力関係の構図がしっかりわかっている。真田家も熟知している。「真田一族と幸村の城」を一読しておいて、TVを見られると、理解がたやすいだろう。

 いくら歴史好きでも、豊臣側、德川側の配置までも、頭に入っていない。映像で、「行け、撃て、討て」と言われても、きっとなにがなんだか、わからなくなるだろう。
 同書は大坂夏の陣、冬の陣の配置図も作中に折り込まれている。それも大いなる参考になるだろう。夏の陣、冬の陣の違いを知っているつもりのひとも、復習のつもりで読まれると良い。

 真田の人気は、影武者、忍者、忍びの者、さらには架空の『猿飛佐助』『霧隠才蔵』とか、虚実の面白さもある。TVシナリオライターが虚飾すれば、さあ、どうなるだろうか。

 真田家はすべて悲劇で、豊臣とともに滅亡かといえば、ちがう。松代真田藩として幕末までもつながっている。ここらも、真田家の血脈の解りにくさになっている。

 肝心の『真田丸』の砦の構造は、よほどの真田通でないと、わからない。同著「真田一族と幸村の城」には図解で示されている。

 わたしは今年の春ころから、安曇野の農業用水の土木技術がじつに高度だけれど、農民がこんな治水技術を持っているはずがないな、と疑問をもっていた。おおかた信濃国に侵略した甲州・武田家の影響を強く受けているのではないか、と推量していた。
 なぜならば、侵略者は占領地の搾取だけでなく、治安の安定と向上のために、かれらは技術や冨すらも持ち込んでくる。

 土木技術の高水準ならば、築城が一番だろう、と松本城の学芸員を訪ねて、数々、と特殊構造を教えてもらった。
 築城の土木技術はままだが、防御の砦の構図にはおどろきもした。(お城は明治時代に大きく傾いた。天守閣など建築物は下手かもしれない。しかし、戦闘・戦術的な砦の知恵は優れていたのだろう)。

 山名美和子著「真田一族と幸村の城」のなかで、大坂城の真田丸は父・昌幸が武田信玄のもとで築城技術を学んだからだろう、と記載されていた。
 砦と武田か。なるほどな。ぴたりだな、と結びついた。

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