A020-小説家

第63回・元気100エッセイ教室=「私の性格」を書こう

 エッセイは、「私」を描くことである。他人(身内・きょうだいを含めて)をせっせと書いても、それは薄っぺらな作品になる。ときには雑談でしかなくなる。


 「私」とは私の性格である。

 出来事、事故、事件は、ほとんどの場合は当事者の性格に起因している。
 悲しい出来事でも、愉快なエピソードでも、思わぬ失態でも、見事な解決でも、「この性格だから、このように発展したのだ」と書き進めば、読者は読む必要とか好奇心とかを呼び起こさせる。と同時に、説得力も生まれてくる。

 反面、出来事だけを書くと、どこにでもある話だ、「私」の心の奥底を見せない、本音が語られていない、上辺だけで書いている、と評価が低くなる。
 あげくの果てには、顔見知りの親しい読者だけが喜んでくれる作品に陥り、普遍性がなくなる。


 人間はとかく「他人に対する観察力」は強い。けれど、一方で、「他人から見た、私自身は解っていない」のが常だ。
 作者が頭で考えるままに書くと、まわりの人物は描けても、「私」はほとんど書けておらず、最悪は「この作品は人間が書けていない、駄作だ」という評価になってしまう。
 だから、意識して「私の性格」を書き込む必要がある。そうすれば、好感度の良い作品が生まれてくる。


「私の性格」の書き方

① 書く対象・出来事を前にして、「私は見劣りがする、拙劣な性格ではないか」と、一度は他人(対象)の眼からネガティブに「私」に疑問を向けてみる。


② 書きはじめると、周りの相手(人物)は持ち上げ気味に、「私」は下げ気味に展開させる。それでちょうどバランスが取れる。


③ 上から目線、教える、演繹的な文体(押し付けの文章)は排除していく。


④ まわりの者から(会話文などで)、性格を言わせると、効果がある。


「キミは傲慢だよ。だから、仲間が誘いたくなくなるんだ」

「あなたの気性はまわりを傷つけているのよ。解ってないよね」

「講釈が多いわりに、肝心な時に逃げてしまう、そんな性質があるよ」

「明るい性格に見えるけど、自分の本音を出していないんじゃない」


⑤ 性格を比喩で表す。(だだし、的確でないと失敗作になる)

・折れ曲がった私の性格。
・意地と根性のネジが緩んでいる私。
・ブレーキが利きにくい気質。
・私自身が持て余す私の性格。
・浮世ばなれした私の性格。

【アドバイス】

 書出しは、どんな衝撃的な出来事、出会い、事件でも、いきなり入らないのがコツである。

①まず、私の「性格」を描く場面を作る。私はこんな人間です、と私自身を立ち上げておく。

②出来事に関わっていく私の心理を追っていく。(心理描写を中心に展開する)

③そのうえで、私の行動を丹念に推し進めると(ここからアクティブ)、出来上がりの良い作品になる。


 ※大震災で母をなくす。いきなり大地震から書かない。①~③

① 母と昼食をとる。箸の持ち方一つに小うるさい母と喧嘩し、子どもじゃないんだから、あした実家を出るから、と反発してみせた。「23歳になっても、癇癪持ちの性格は治らないね」
② 午後2時半だった。「病院にいって薬を取ってきてほしい」「母さんが自分で行ったらいいでしょ」「そんな娘とは思わなかった。ほんとうに優しさがない性格ね」と怒って家を出ていく。
③ 大地震が発生し、10mの大津波警報が出た。母を追って港町バス停に行ってみた。だが、母の乗った病院行バスはすでに立ち去った後だった。私は不吉な予感に襲われた。

「小説家」トップへ戻る