A020-小説家

【推薦図書】中澤映子著『三本脚のアイが行く』=小さな命の四季

 あなたは動物エッセイを読むとき、なにを期待しますか。「人間と動物の心のふれあい」「感動の出来事に巡り合いたい」「生命の大切さを再認識したい」と多くの人はそんな想いだろう。
 
 それに応えられる感動の動物エッセイが出版された。中澤映子著『ワン・ニャン歳時記 三本脚のアイが行く』(長崎出版・定価1200円)で、副題「小さな命の四季(じかん)を綴った俳句付」である。

 作者・中澤映子さんは東京女子大卒で、博報堂に入社し、定年まで勤務した。広告制作ひとすじに37年間を過ごす。国内外のCMコンクールで多数の受賞作品がある。
 動物エッセイ(俳句付)の出版は初めてである

 彼女が嫁いだ中澤家は、動物愛の塊だった。彼女の本心は「犬は好きでも、猫は苦手だった」という。大手広告会社勤務の夫や、義両親は路傍でさまよったり、段ボールで放置されたり、傷ついた瀕死状態の犬や猫に出合うと、「見るに見かねて」引き取っていた。そして、一つ屋根の下で暮らす。
 最もたくさんいたときは犬の親子が5人、猫が16人である。

 ふびんな犬や猫を連れ帰れば、その世話で家族はてんてこ舞いする。「こまった、コマッた、困った」と言いつつも、見捨てておけないのだ。それをもじって『小俣(こまった)ファミリー』と称している。
 街なかのペットショップで可愛いからと言って買ってきた、そんな動物たちとはまったく違う。 

 中澤さんは犬猫の世話だけでなく、娘を出産し、その育児もある。勤務もある。そのうえ、犬猫の世話だから想像を絶するものがある。

『小俣ファミリー』の一員になった犬猫は、死の淵から救われたうえ、名前が与えられ、人間と同じ目線で生活できるのだ。
 犬猫それぞれが個性豊かな性格を発揮する。笑い、涙、悲しみ、感動の出来事が次つぎに起きる。それらエピソードの多くが擬人法で書かれている。
 つまり、作者が犬猫と同じ目線で、ともに生活している証なのだ。と同時に、まるで言葉が通じ合っているような関係である。

 多く紙面を割いているのが、三本脚のアイちゃんである。生きる力がみなぎっている。街なかで歩けば、奇異な目でふり返ってみる人、立ち止まって声をかけてくる人、さまざまな反応である。アイちゃんは個性豊かで、堂々としている。憐みの目で見る人間の方が、心貧しく思えてくるほどだ。


 作者は、「元気に百歳クラブ」(エッセイ教室)で、6年間にわたり毎月、この出版を目指して創作し、書きためてきたのである。単に短時間で、さらさらと書き下ろした動物エッセイ(日記)のたぐいとは違う。

 春夏秋冬、日々、あるいは正月など、『小俣ファミリー』の犬猫をつぶさに観察し、喜怒哀楽の出来事をエピソードとして拾い、毎月の教室の提出作品として書き綴ってきたものだ。つまり、6年間の長期にかけて作品を創作してきた、濃密なエッセイである。それだけに胸打つ感動が連続している名品である。


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