A020-小説家

被災地を歩いて、文学の役割とはなにか=吉岡忍(上)

 日本ペンクラブの月例会では毎回、ミニ講演会が行われている。11年9月例会では、吉岡忍・専務理事よる題目『被災地を歩いて』の講演と、企画委員会である杉山晃造さんの「三陸被災地の写真」が展示された。
 吉岡さんは、3.11の東日本大震災が発生した直後から現地に入り、岩手、宮城、福島など数十ヶ所の市町村を歩いてきた。と同時に、多くのメディアを通してさまざまなレポートをしてきた。


「発生から半年経った今、20分でしゃべるのは難しい」と前置きした吉岡さんは、被災地と文学との関連について話をされた。

 今回の震災では、約1万5千人が亡くなり、五千人余りが行方不明となった。その内訳がなかなか表に出ず、詳しい調査が進んでいない。
「漁師さんとか、漁業関係者とかで亡くなった方は意外と少ないのです。たぶん1割いるか否ないか。犠牲者はどういう人だろうか。港の後ろ側で、飲み屋、ホテル、住宅がある、町場(市街地)の人たちが犠牲になっています」
 大地震の発生が昼間だったことから、働いている人は一斉に逃げている。あるいはあまり犠牲者が出ていない。他方で、組織的でないところに居る人、高齢者に多くの犠牲者が出ている。


 もう一つ特徴的なことは、「半年経った今、三陸の漁業の町は少しずつ活気が出ている。仙台市の郊外の若林区、名取市の、港に近いニュータウンの人たちに犠牲が多かった。それらの町を歩いても、人の子、ひとり居ない。生きているものの気配がしない」と話す。

 震災後のニュータウンには建築規制がかかり、住民は戻れない。住民は故郷でなく、家を購入し、たまたまそこに住んでいた人たちである。
「東京とか、神奈川とか、殆どそういうところ。私たちが被災したら、破壊された町に戻ろうとするでしょうか。『故郷』とはなにか。住む町とはどういうことか。私は町を歩きながら、それを考えました」と吉岡さんは話す。

 一連の災害報道では、数々の面で、想定外だったといわれる。「想定外」とは本当にそうだったのか。想定外の意味とは何か。吉岡忍さんはそう疑問を投げかける。

 岩手県宮古市の一角には、田老地区がある。吉岡さんは大津波の発生後から、同地区に何度も通っている。
 被災前の人口は1600世帯、4500人くらいが住んでいた。今回は134人が亡くなった。50人が行方不明。犠牲者は184人。それ以外には外からに来た人たち16人の遺体が見つかった。報道されていないが、旅行者だったのか、2遺体はそのまま残っている。特に、この地区に焦点を当てられて語られた。【つづく】

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