A030-登山家

傷ついた鹿と格闘した、都会人=こぼれ話

 PJニュース編集部の小田編集長を含めた、6人のメンバーと27日に早稲田大学正門前「ママキムチ」で会合があった。吉川編集者が同日から掲載された、『田舎暮らしごっこ』の記事はとてもおもしろい、と話題として持ちだした。

 道志村(山梨県)の山間に築100年以上の一軒家がある。それを借りた、ユニークな田舎暮らしのグループ『神地倶楽部』(かんちくらぶ)のメンバーが、「自分流の田舎暮らし」をおこなっている。約10人。かれらは道志の村人とも仲良くなり、畑の耕作についても知恵を貰い、開墾している。

 囲炉裏の側で、数々の体験談を聞いたなかに、こぼれ話がある。メンバーの一人が「猟師の銃弾で傷ついた鹿と格闘した」と語った。
 記事は、事実だからといっても、すべてを書けない。都会人の中年男が角のある野生の鹿と死闘を演じた。貴重な体験だが、記事に盛り込んでも、血なまぐさい話だし、証拠写真はないし、読者には本当かな、と疑われてしまう。

 ニュースにはならなかった事実。こぼれ話として、ここで再現してみたい。親しくなった村人の猟師が鹿撃ちに連れて行ってくれたという。冬場の鹿は里に下りてくるが、禁猟区で銃は使えない。山の奥に入った。1時間半ほど経ったころ、鹿に遭遇したのだ。


 漁師が狙いを定めて撃った。銃声とともに、一頭の鹿が倒れた。北垣英俊さんは、それで死んだものだと思い、歩み寄った。突如として、血を流す鹿が立ち上がってきた。
 北垣さんと鹿は向かい合った。傷ついた鹿だから、危険だ。「どうすべきか」と思いながらも、とっさに両手で角をつかんだ。相手は野生動物だ。

 相撲の土俵際の「打っちゃり」のように、渾身(こんしん)の力で鹿の胴体をふり回した。それは予想外のことで、鹿は段差のある崖下に落ちたのだ。一段下で止まり、鹿は倒れていた。近寄ると、また立ち上がった。北垣さんはふたたび角を持って投げた。やがて、猟師が止めを刺した。

「都会人の割りに、あんたはすごい」
 漁師はことのほか感心したという。

 小型トラックで、2頭の鹿を持ち帰ってきた。それを2人の男が捌いたというのだ。
 ふたりは血抜きをしてから、皮と肉の間に、手を小刀のように入れて皮を剥ぐ、という作業だ。そのひとり大久保雅和さんはスーパーに勤務する。いまは管理職だが、入社したころは精肉部門だった。牛や豚は半頭、4分の1頭という単位で入荷していた。皮と骨と肉を捌(さば)いていたというから、お手のものらしい。

 鹿の肉は囲炉裏の側で、みんなして焼いたり、北垣さんが自家製でくん製にした。鹿のくん製ができあがると、猟師にも分けたという。

 このこぼれ話にも、PJニュース・編集のメンバーは興味を持った。「その道志にいってみましょう」と酒の場が盛り上がった。

                            写真提供:北垣英俊さん

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