A030-登山家

紅葉にピッケルがいるの? 北アルプス・蝶ヶ岳で

 年に一度は北アルプスに登りたい、と常づね考えている。昨年は7月初めに小田編集長とふたりして裏銀座コースを登った。ピッケルとアイゼンが役立つほど夏道は残雪で埋まっていた。
 烏帽子岳、野口五郎小屋、雲ノ平で、小田さんと別れた、そのさきは単独行で三俣蓮華から双六岳を経て新穂高温泉に下った。この山行は山小屋の主、上條文靖さん一家、伊藤正一さん一家との印象的な出会いがあった。PJニュースにそれらを掲載した。
 

 ことしは槍ヶ岳を計画した。同行者は肥田野正輝さん(ITコンサルタント)。かれが3日間の日程を取れなかったことから、眺望の良い蝶ヶ岳の2日コースを選んだ。出発は10月5日の夜行バスと決めた。
 
 10月初には北アルプスに初冠雪があったが、根雪にはならなかった。このさき降雪があれば、三千メートル級の山頂が白雪、中腹は紅葉、裾野が緑色、という最高の美観「三段染め」になる。今回の山登りには、その期待をもった。

 気象庁の週間予報では、5日から「気圧の谷」の通過よる雨だ。下界が雨でも、山頂は雪の可能性がある。ふたりはピッケル、アイゼン、ツェルト(非常テント)を持参することに決めた。

 6日の早朝、上高地に着いたときは本降りだった。ヤッケ上下を着込んで、傘を差して出発した。徳沢園から標高を上げても、雨ばかり。期待した雪にはならなかった。

 ピッケルはまさに無用の長物だ。この手の経験は過去に何度もある。雨が雪に変わって、ピッケルがない悲惨な状態を思えば、別段、苦ではない。手にする一本のピッケルの重さは難儀じゃない。

 蝶ヶ岳ヒュッテの山小屋に泊まった。富山市内の男女パーティーの酒宴に招かれて加わった。この季節に、ピッケルを手にしていた私はずいぶん目立っていたらしい。
「雪予想が外れた」というと、低気圧の読みが下手だと笑われた。さすが雪国・富山のひとだ、雪には敏感だ。

 私が富山代藩主だった佐々成政(戦国大名)の話題を持ちだすと、よく知っていますね、とそれにはずいぶん驚かれた。

 翌7日は、ご来光の写真がいい雰囲気で撮れた。曇天だったが、視界が常に良好で、槍ヶ岳や穂高連峰の眺望が堪能できた。稜線から長丁場の横尾まで樹林帯を下山してきた。そこからは上高地まで3時間の行程だ。

                   


 これから登る登山者たちは誰一人としてピッケルをもっていない。登山者は「こんにちは」と声をかけてくる。その視線がなにかしらピッケルに流れてくる。
(無積雪期に、ピッケルをどう使うのだろう?)
 そんな奇異な視線のように思えた。

 10月は1年間で最も登山の遭難死が多い月だ。秋の天候の急変から、吹雪かれて凍死とか、滑落とかが多い。ピッケル1本が運命の境目になりかねない。
(雪で、死ぬなよ)
 そんな目で、私は登山者の軽装備をみていた。一本のピッケルが笑われても、いのちを落とすよりも、マシだ。そんなふうに自分を慰めていた。

 今回の登山については、PJニュース『北アルプスの紅葉が最盛期になったぞ。さあ、出かけよう=長野県』というタイトルで、掲載される

「登山家」トップへ戻る