A010-ジャーナリスト

戦争を終わらせるための核兵器 = 祈る、願う、広島平和運動の限界 (上)

 ウクライナ戦争がぼっ発した。歴史作家で広島出身者の私に、時おり、
「戦争は無くなりますか」
 と質問がむけられる。


「戦争は縄張りの争いだから、無くなりませんよ。たとえば、夫が浮気すれば、妻が憤り、相手の女性が夫婦の領域(縄張り)の侵入者とみなし、攻撃的に排除します。これと同様に、戦争の領土問題、宗教問題、政治資源の独裁など縄張りの紛争です」
 と応えると、東京在住の質問者から、
「いま、核戦争も辞さないと、プーチン大統領が強硬な態度です。とても怖いです。被爆都市・広島がなぜ平和運動として、ウクライナ紛争の核問題の解決に入ろうとしないのですか。そういう姿を見せていない」
 そんな疑問が私に投げかけられる。

「広島の行政も、教育者も、活動家も、平和運動そのものが『祈る、願う、被曝を語る』という枠から脱皮できず、旧態依然としています。そのうえ、『なぜ、広島に原爆が投下されたか』。歴史から語れる訓練ができていない」
 いずれの戦争も、ウクライナの戦争、イラン・イラク戦争、アフガン戦争でも唐突な侵略戦争におもえても、その実、背景には長い歴史を抱えています。それを歴史的に洞察できる鋭い感性がなければ、国際紛争の調停などできないのです。

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「広島が核問題で沈黙するから、日本も戦争抑止のために、核保有国になれと、世論は高まっていますよね」
 質問者はこういう。わが国は尖閣諸島(対中国)、北方四島(対ロシア)、竹島(対、南北朝鮮)に火種を抱えている。世論がウクライナ戦争の教訓から、日本も侵略される恐れがあるし、核保有国になれという意見が成熟してきている。
 日本政府は核武装をするかもしれない。広島はそれにたいしても無力に思える、という。

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 私はその質問を否定できない。それなりの理由があるからだ。
      
「広島の平和活動は歴史にもとづかず、表層的で、被害、被曝の立場でしか語れない。ここに問題があります。たとえば、鉄道事故がおきても原因を追究せず、被害者の傷ましさばかり訴えているのと、同じです。原爆投下の原因もどこにあるのか、歴史から探求しなければ、再発防止には役立たない」
 悲惨な戦争をくりかえさないためにも、広島は本来ならば、より戦争の歴史を知らなければならない。
 ところが行政も運動家らも、戦争を正面から取り組まず、目のつかない処へ遠ざけている。公的な書籍、教育現場、イベントなど、戦争ものはほとんど否定に近い。
「戦争」関連を広島市内から排除すれば、それが「平和・広島」の姿だと錯覚をしている。
『戦争を知らずして、平和などわかるはずがない』。まさしく真逆の姿である。

「原爆の歴史は真珠湾攻撃。日中戦争からですか」
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「もっと前です。明治時代の日露戦争からです。広島人は日露戦争からの仮想敵国が理解ができていない。日米戦争へ至った第一ステップを学ぼうとしない」

  日露戦争における日本海海戦、旅順攻略などで日本軍が勝った。ただ、軍事財政に疲弊していた。ロシアも革命の予兆が起きていた。

 アメリカ合衆国の斡旋の下で、ポーツマス条約が締結された。日本はロシアから賠償金を得られなかった。先の日清戦争では多額の賠償金を得たのに、と。
 これはアメリカが策謀だと言い、日本人は反発した。
 日比谷焼打ち事件、アメリカ大使館襲撃、こうした反米感情が全国に及んだ。国民の外交批判の声に押された帝国日本は「帝国国防方針」を作成し、アメリカを仮想敵国して軍備を拡張した。
 敵は海向こうだからと、帝国海軍の強化が図られた。

 アメリカ・ルーズベルト大統領は日露戦争の終結の労でノーベル平和賞をもらった。
 日本としては面白くない。
 アメリカも戦争を調停したのに、日本に憎まれる面白くない。

 当時、広島市出身の加藤友三郎(海軍大臣・内閣総理大臣)も関係する海軍力強化策を取った。

 アメリカは日本の軍備拡張を察し、反発して「オレンジ計画」(1920年代から1930年代において立案された、将来起こり得る日本との戦争へ対処するためのアメリカ海軍の戦争計画である)を立てて、日本を仮想敵国にした。

 このように日露戦争の直後から、帝国日本およびアメリカはともに仮想敵国なった。
 両国は中国問題でもつねに険悪な状況が生れていた。交渉はなにかと決裂し、ことごとく火花を散らしていた。

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 帝国日本の戦力拡大はいきなり仮想敵国のアメリカでなく、中国大陸の領土拡大にむけられた。満州事変、日中戦争へと戦火を拡大していった。
 張作霖爆死事件、盧溝橋事件など一連の事件は中国人がおこなったと日本側は嘘をついて(プロパガンダ)、それを戦争口実にしたものが多い。


 国際連盟の参加国は、満州国という傀儡(かいらい)政権までつくった帝国日本にたいして全会一致で非難決議をした。 (一か国は棄権)。国際連盟を脱退した日本は日独伊三国同盟を結んだ。

 欧米はとうとう満州から撤退を頑なに受け入れない日本にたいしてABCD経済封鎖をおこなった。
 石油の欠乏は時間がたつほどに軍事関係も、庶民生活も影響してきた。ついには、帝国日本は石油の必要性からインドシナ半島に侵攻した。と同時に、「石油があるうちに仮想敵国アメリカを攻撃する」と真珠湾攻撃になった。

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 帝国日本は戦争が拡大すると、一億総動員令を発布した。少年・少女らが学校で軍事訓練を受けはじめた。それはなにを意味するか。すべての日本人が民間人でなくなり、兵士になったのだ。
 そのうえ、帝国日本は「鬼畜米英」といい、敵兵を動物とみなして殺せ、と軍国少年にまで教えた。

 米軍は首都・東京を攻撃で房総半島、鎌倉海岸に上陸すれば、少年・少女たちも敵兵として射殺する必要が生じた。上陸作戦で日本側の捕虜になれば、鬼畜米英で、皆殺しに遭う。
 昭和二十年の沖縄戦線において、少年・少女たちも兵士となった。それが実証された。
 ここは陸上戦はなく、空爆しかなかった。トルーマン大統領が戦争終結のために原爆投下を命じた。

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 1975年10月31日、日本記者クラブで、中国放送の秋信利彦記者が昭和天皇陛下に、「広島に原爆が投下された、どのように受け止められますか」
「こういう戦争中ですから、広島市民に対して気の毒ですが、やむを得ないことと、私はおもっています」
 帝国日本の最高指揮官だった天皇陛下が、心の奥を述べられた。
『こういう戦争中ですから』
 長く苦しんだ歴史の重みを感じさせるお言葉である。

                  「つづく」

(下)は 原爆投下の大画面の映像に、オバマは拍手した。メルケルは顔をゆがめ、プーチンは十字を切った ここからはじまります。

   

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