永生元伸の魅力、日本を代表する「うたうバンジョー弾き」=(中)
永生はバンジョーを弾きながら、ボーカル曲をソロで歌う。これはリーダーの特権だろう。とても響きのよい歌声で、観客を魅了させている。さらには、軽いトークも上品だ。
永生は昭和50年に大学を卒業後、一般企業に就職をせず、いきなりバンジョー奏者としてプロ活動をはじめている。根からの音楽奏者だ。その後、東京ディズニーランドでは約11年間にわたり活動し、アメリカ発祥のバンジョー演奏で注目をあつめた。
平成7年には、ディキシーランドの名門バンド「薗田憲一とデキシーキングス」にバンジョー・プレイヤーとして参加した。ここから「うたうバンジョー弾き」として活動を展開する。
このときの中心メンバーにより、「永生元伸スピリッツオブデキシー」が結成されている。
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曲の合間を見て、インタビューを取ってみた。
観客に、永生さんの魅力とはなんですか、と年配女性に質問をむけてみた。
「なんともすてき。バンジョーと歌に、落ちついた味わいがあります。魂で奏でる。この場にいると、とても楽しく心を癒されます」
永生の奏でるバンジョーと歌声にしびれていると、彼女は持っている喜色と歓喜のことばを最大限に引きだしながら語っていた。
テーブルのキャンドルに顔が浮かぶ島崎忠範(82)さんは、
「私は永生さんと30年余りの長い付き合いです。バンジョーはわが国でNO1です。魅力ですか。楽器と歌を熟(こな)せることです。ギターもたいしたものです」
ギターリストの面もあるようだ。
おなじテーブル席の平井妙子さん聞いてみた。推定70歳前後だった。
「私の好きな曲ですか。『世界は日の出を待っている』。これには心がしびれます。永生さんは、青森出身ですから、津軽三味線風にアレンジされています」
編曲が得意のようだ。
「お人柄がとても良いですわよ。お客さんをとても大切にされています。クリスマス、誕生日には、わたしの自宅に来て演奏していただきますの。お声がけすると、気さくに来ていただけましたの。そこからの長いお付き合いです」
彼女の好きな曲は「知りたくない」、「スパニッシュアイズ」、これは歌とメロディーがとても素晴らしく、心に響きます、と語っていた。
スタンディングオベーション(観客が立ち上がって拍手を送る)で快哉を叫んだ女性に、感想を訊いてみた。
青春時代の音楽がとても懐かしく楽しいし、仲間と毎回聴きにきています。『聖者の行進』『ホワイト・クリスマス』「小林旭の自動車ショー歌」みんなと一緒に楽しんでいます。身体がごく自然にリズムに乗って動いてしまいます」
トランペット、クラリネットのファンらしく、拍手で手が痛くなるほど、叩きますという。ドラマーの15分間の楽器の連打は圧巻です、とことばがつきなかった。
おなじ席にいた70代の男性にも訊いてみた。
「毎回、このジャズ・メンバーがとても待ち遠しいです。元の会社仲間と5、6年前から通ってきています。実は大塚に、このようなジャズ喫茶があると思いませんでした。私の住まいは西池袋で、便利で近いし、永生さんが演奏するときは、欠かさず聴きに来ています」
と強調していた。
もうひとり隣の女性は、
「わたしはきょうが2度目です。前回が楽しくて、こんなにもジャズが愉しいのか、とびっくりしました。きょうは迷わず、来ました。酒が楽しく飲めます。仲間とともに感動しています」
大塚ウェルカムバックは、音楽チャージが3000円、オーダー&テーブル・チャージは500円である。
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バンジョー永生さんの取材を持ちかけてくれた、のこぎりキング下田さんが大塚の同ライブにきていた。
ふたりの出会いを訊いてみた。
「わたしが属している『足立稲門会』(早稲田大学校友会)の総会アトラクションで、永生さんと演奏したのが、最初の出会いです。そこからの付き合いです」
下田さんが最初にCD録音をした『なつかしの童謡唱歌』のとき、「永生さんがバンジョー演奏と、編曲(アレンジ)をしてくださいました」と語る。そのうえで、こうつけ加えた。
「永生さんは、ノコギリ音楽を最大限に発揮できるように、私の音域を上手に捉えられてレベル(力量)を引き揚げてくださったのです。私の恩人です」
その話からしても、永生さんは編曲が得意技のようだ。
永生さんの人間的な魅力についても、下田さんに訊いてみた。
①心技体ともに、見事です。
②心がジェントルマンです。
③人柄が良い
この3点をすぐさまあげていた。
後日のインタビューが楽しみになった。
第二部は、永生さんがしみじみ聞かせる『荒城の月』からはじまった。
荒城の月
国境の南
Cornet Chop Suey
ライフルと愛馬
夜空のトランペット
Tiger Rag
わらの中の七面鳥
Memories of You
♪bestplay/Sing Sing Sing
これらの曲はいずれも大勢の人に愛され続けている曲、師走、クリスマス、年の瀬の音楽である。音楽はメロディー重視か、リズム重視か。いずれかに分かれているものだが、ジャズはその双方の要素が必要である。
永生元伸はスタンダードなもの、クラシック、童謡でも、ジャズの音楽風にアレンジしてしまう。それをもってお客に楽しんでもらうのが、ジャズ編曲者の魅力だろう。
ジャズのプロアーチストはパフォーマンスが必須である。全身を使ったアドリブで、どんなふうに何を吹いても自由なのだ、観客を楽しませれば。
クラリネット奏者の益田英生(ますだ・ひでお)は、正統派ベニー・グッドマンスタイルを受け継いでいる。クリアで透明な響きがあり、管楽器のなかでは最も広い音域をもっているし、ジャズに適した楽器である。
低音ではまろやかな暖かい音、中音では柔らかな音質、高音では華やかな明るい音をひびかせる。益田はメロディー・パートで暖かみのある音色を奏でる。
静かな曲と思いきや、突如として、益田英生はアップテンポで、クラリネットと上半身を上向きにしてガツガツ吹いてみせる。まるで、その姿は軍隊で進軍喇叭(らっぱ)を吹く兵士の格好にも似ている。益田は全身で、感情の高ぶりを表現する。
やがて、クラリネットは丸いやわらかな響きとなり、透明感のあるピュアな音になる。森に流れる霧につつまれたような、神秘な情景を連想させる。音が美しいとはこのことだろう。
小林真人(まさと)が大きな弦楽器のウッドベース(Bass)を奏でる。見た目にも、どっしりしたベースは低音パートを担当する。絃の音が渋く輝いて聴こえる。
ベーシストの小林は端っこにいて、一見すると影役にみえる。ボーカルやソロのように舞台で目立つ中心ではない。しかし、バンドのなかではベースは、「土台」の役割を担っている。
ベーシストの小林はほかの楽器、バンジョー、クラリネット、トランペット、ドラムの音をつなげている。曲の流れや曲調、曲想を決める、一番重要な存在ともいえる。
ジャズの魅力は三つの要素がある。
① アドリブ
② スイング(日本語のノリの良さ)
③ インタープレイ(奏者がたがいに感覚、感性で、その瞬間のリズムなど調和し、共鳴して演奏する)
これが上手に揃ったときに、ジャズの面白さが伝わり、心に響き、感動を持ち帰れる。
永生はバンド・リーダとして、この三つを最上に演じることができるプロ・メンバーを選んで、ライブに臨んでいる。観客を包み込み、誰もがジャズ音楽に溶け込むような臨場感と一体感が醸し出されていた。一人ひとりの奏者の紹介には、永生は決まって「日本一です」と形容していた。聴き手として、納得させられた。
【つづく】
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ドラマーの楠堂浩己(なんどう・こうき)の豪快な連打がこちらのクリックで聴けます。