A010-ジャーナリスト

路上で、うたごえ喫茶アルバムを楽しむ=葛飾・亀有

 5月22日の午後、亀有駅の駅前で、男性五人のボーカルグループが、マイクを手にしていた。見た目には30歳代だ。
「これから『銀色の道』を歌います」
 どうせかれらの最新作だろう。そういう思いで通り過ぎようとした。歌われはじめたとき、
「むかし懐かしい曲だな」
 と足を止めて聴き入った。
 私は20代のころ北アルプスを中心とした登山に青春をかけていた。雪峰の登攀(とうはん)などは苦しくて、体力の限界を感じることも何度もあった。そんなときには口ずさんでいた曲だ。そして、自分を励ましていた。

 『銀色の道』が終わった。そのまま通り過ぎるつもりだった。次は『千の風になって』ですという。新井満さんの曲だから聴いていくか。

 2010年国際ペン東京大会で、新井満さんと私は同外交委員会に2人して出席した。英語、フランス語、スペイン語の同時通訳だが、難解だった。なにしろ、メキシコ政府のジャーナリスト弾圧が中心課題だったのだから。
 新井さんとは1日一緒して会食を含め、あれこれ語ったものだ。日本語どうしだから、ほっとしたものだ。新井さんもきっと同じだったと思う。2人の会話は弾んでいたから。それを思い出しながら、亀有駅前で、しばし聞き入った。


 かれらは「ベイビー・ブー」(Baby Boo)というボーカルグルーブだった。「新宿の歌声喫茶『ともしび』で聴いて、とても良い曲だと思いました。私たちはそれを歌っています。日本のよき歌を広めたい」
 かれらのリーダーのチェリーさんは語る。
 
『高校三年生』、『花は咲く』、『明日があるさ』、『星よおまえは』、『卒業写真』、『心の旅』、『北帰行』、『出発の歌』、『ともに見し夢を(仰げば尊し)』
 中高年層にはとても懐かしい曲が並んでいた。亀有駅前はバスターミナルだから、乗降客が足を止めている。

 「ベイビー・ブー」からさらに話を聞いてみた。
 かれらは神戸淡路大震災の翌年にできたボーカールグループです、という。震災直後は町が焼け野原で楽器などなかった。
「みんなして声を出して歌えば、復興の励みになる」
 それが発足の動機で、そうした活動が展開されてきた。


 東日本大震災3.11は3年経っても、メディアが復興への道と福島原発を追っている。作家の私も福島取材をおこないつづけている。

 神戸の場合は違っていた。
 町を焼きつくす大火災、高速道路の倒壊、都市型直下地震による大災害だった。次世代への教訓などいくつもあった。だが、数か月後には東京の地下鉄でサリン事件が発生した。これも、世界中を震撼させる大事件だった。メディアの報道が一気にそちらにシフトしてしまった。

 「ベイビー・ブー」2002年には、メジャーデビューした。神戸から東京にきた。しかし、まったく売れずに契約が解除になった。
 神戸淡路大震災よりも、東京発の報道は逃亡するオウム真理教教組や信者たちの追撃と逮捕劇だった。神戸から出てきたグループが取材で取り上げられることはなかったのだ。
「メンバーには家族もいる。食べさせていかなければならない。このまま解散になりたくない」
 その想いで、今日まで続けてきた。
 この間にメンバーは逐次入れ替わった。しかし、活動は停止しなかった。神戸から立ち上げたグループは、挫折の手前でも耐え続けてきたのだ。

 かれらの目標は一つだ。
 『路上からスタートして、2年後には武道館で1万人の大合唱をやろう』
 それを本気で目指している。路上で受け入れてくれる地域もあれば、追い払われるところもある。

「きょうも錦糸町で、途中でストップがかかり、演奏を中断し、亀有にきました。この町は受け入れてくれます」
 
 私には大道芸人の知人も多い。だから、路上の芸人やミュージシャンには対して、行政は冷たく、無理解なところもある、とよく聞く。むろん一方で、理解者もいるようだ。

「亀有は街の雰囲気が良いので、こんかいは5-6回目です。通行中の人が足を止めて聴き入ってくれます。やりがいがあります」
 そう話すのはユウさん(39)だった。

 リードボーカルのチェリーさんは修徳高校(葛飾区)出身者だという。
「皆さんの応援が必要です。どうか僕たちに力を貸してください」
 と訴える一方で、美声で通行人の足を止めさせていた。

【関連情報】

「ベイビー・ブー」(Baby Boo)

『うたごう喫茶音楽会vol.6』
会場  ティアラこうとう(江東区)
日程  今年(2014年)11月15日
時間  開場14:30
料金  前売り4000円  当日4500円(全席指定)

チケット発売日 7月10日(木)
問い合わせ  03-3204-9933

他のコンサートは「ベイビー・ブー」(Baby Boo)のHPより確認  
  

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