A010-ジャーナリスト

【名物おじさん】下町随一の瓢箪づくり、竹細工づくり(下)=東京・葛飾

 村澤義信さん(74)さんのもう一つの特技は竹細工だ。葛飾区東四ツ木4丁目の3階建ての庭囲いの化粧フェンスには、太さ18センチ、長さ2.8メートルの、竹の植木鉢があり、そこに春の花を咲かせている。イチゴの苗も育っている。

 竹加工の植木鉢が特殊な構造なのだ。
「簡単そうだけど、この技術は、葛飾区内ではだれもいないよ。真似ができないよ」
 村澤さんに、あえて問えば、直径が18-20センチもある太い竹の加工技術を語ってくれた。

 冬場になると、竹が固く締まってくる。1年物など若い竹は細工すると、すぐに割れてしまう。3年物がしっかりしてよい、と実物を示す。
 ことし(2014年)は、牛久、大多喜から太い竹をもらってきた。最近の農家は人手不足で、竹林が荒れぎみになった。すきなだけ持って行ってくれ、と言われるらしい。

 同区東四ツ木への自宅に持ち帰ると、縁側で、工具を使い、竹の節と節の間をくり抜く。
「この技術が特殊なんですよ。うまくやらないと竹に穴を開けているさなかに、バリーと全体が割れてしまいますからね」
 長さが約3メートルの太い竹の一節ごとに、くり抜いて、そこに土を積めて植木鉢にする。まさに、電車の連結車両のように、花の鉢が並ぶ。別の太い竹鉢には、ずらりイチゴの苗も育っていた。
 
「他人(ひと)と同じものは面白くない」
 話題は瓢箪(ひょうたん)にもおよぶ。約1.5メートルくらい一節ごとに、くり抜いて、多段雛のように飾り棚にする。節ごとに瓢箪を吊るす。
 竹の竹細工と瓢箪の組み合わせで、小さな雪の鎌倉に似た、瓢箪の家もつくる。

 視線を門扉に向けて、よくみると小粒な瓢箪が数多くつるしている。
「盗られないですかね?」
「ここらは泥棒はいないね。あれれ、よく見ると、1個は針金だけだ。これは盗られたあとだな」
 村澤さんは鷹揚に話す。

 菜園畑に出向けば、周囲の園芸・菜園で畑を借りた人がいる。
「食べられない瓢箪をつくって、どうするの?」
 と耕作人たちから、そう訊かれることもあるらしい。 
「野菜など、スーパーに行けば、いくらでも買える。そんな物は耕作しても面白くない」
 村澤さんならではの説得力のある言葉だ。

「最近は庭先で、ゴーヤを植えて日よけにしている家が増えてきたね。瓢箪も楽しくていいよ」
 そう勧めていた。

 四ツ木は古い街の面影があり、いまなお住民は下町の心を失っていない。近所の家が区画整理となり、桜の大樹が伐られるとなると、声がかかる。長さ2メートルほどもらってきて、花壇の台木にしている。そして、植木鉢を置いて、通行人に楽しんでもらっている。

 耕作・工作の腕はプロ級だが、村澤さんは趣味に徹する。瓢箪や花をたくさん飾り、通りがかりの人にそれとなく楽しんでもらう。
 
 ふだんの村澤さんは瓢箪は3階で、竹細工は縁側で道路に背を向け、通行人と視線を合わさず、精神を集中させている。通行人がそれぞれの想いで楽しんでもらえば、説明など必要ない。それが村澤さんの生きがいなのだろう。
 

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